第229話 ひよりの頑張りに対するご褒美の比率が甘い件

 ある金曜日の晩。


 由奈が帰宅して、ひよりと2人で晩ごはんを食べ終わると、ひよりは大人しく受験勉強に勤しんだ。


「黙々、黙々、むんっ!むーん!ガリガリ勉べーん!」


 やる気を表す音を出して由奈にアピールするかわいいの塊、ぴより。洗い物をしたり洗濯を干したりしながら、そんなひよりを見て笑う由奈。


(かっわいい!やってますアピールしてる…。こりゃ、もうちょっとしたらご褒美をあげないといけないかな。)


 あとでアイスでも持っていって、撫でくりまわしてあげようと、考えながら家事をしていると…


「あ、そうだ。」


 何かを閃いた由奈。小さい声でつぶやいたが、ひよりは野生の耳でキャッチしていた。


 耳をピクッと動かすと、後ろでんぐり返しでシュタッ!っと立ち上がり、一目散で由奈のもとへ。勉強ばかりで体力が有り余っている18歳児。


「なーに?なーに?なにがそうだ!なの?ひよりも知りたい!なーに!なーに?」*うっせぇ


 後ろから由奈に全力でしがみつくから、仕方無しにおんぶすると、ゆらゆらと揺らしながらあやす育児1級由奈。


「んーん、大したことじゃないよ。早く勉強しなよ。お風呂一緒に入りたいんでしょ?」


「あー!ケチ!教えてくれないとくすぐるよー!あと揺らすと寝ちゃうよ!ここは最高級のゆりかごっ!」


「くすぐったらひよりも倍にしてやり返されるって知ってる?」


「あっ、だめっ!思い出しただけでぞわってする!お漏らししちゃう!」


「あはは。あの泣き笑い叫ぶひよりは最高に面白いけどね。ねぇ、明日さ、午前中から出かけようよ。どこに行くかは明日のお楽しみ♪」


「え、行く♡ひよりは由奈さんの行くところならどこにでもついていくよ♡」


「じゃ、今日の勉強の進み具合で遊ぶ時間は長くなります。よし、行けっ!」


「ぐぁー!はいっ!頑張ります!でもこのままおんぶで運んで♡」


「仕方ないなぁ、かわいこちゃん♡」


 ひよりのやる気を削がないためにも、溺愛モードで机までおんぶで運ぶが、なかなかひよりが降りないので結局くすぐった。コチョコチョコチョ


「ひぃーぎゃぁーーー!降参っ!コウサンコウサンコウサンコウサンコウサン!!!!あーひゃっひゃっひゃっ!」


 ぐったりと涙目になったひよりは、明日のデートのために勉強の鬼と化した。。ついでにエッチも明日のお楽しみと言われて撃沈した…。


 

 翌日の朝。


「良し、ひよりのコーデはこれで完璧。」

「ジーパンにトレーナー!運動するの?」

「運動ってわけじゃないけど、勉強のストレス解消くらいには動くよ。」

「なんだろー?楽しみー!」

「髪は…ポニーテールにしてキャップ被ろっか。」

「うん♡おそろいの帽子ね♡」


 されるがまま、ひよりの支度が終わると、さらに由奈はニヤッと笑った。


「そしてー!」

「そして?そしてそして?」ワクワク

「今日は私がお弁当を作ります!」

「ひゃぁーふぅーっ!おーいぇー!」*ドーパミンでまくりのぴより。

「15分ください。テレビ見て待ってて!」

「はいっ!わふわふわふーぅ!」


 もはや餌の前で待てをされてるぴより。足をバタバタさせながらテレビで天気予報を確認しながら交互に由奈を見ては発狂…。ウォウウォウイェーャ!!


「よし!準備オッケー!出かけよう!」

「ひゃっはー!手!繋いで!」

「うん。では出発です!」

「ぎゃぁー!行くぞーっ!」*熱出るよ(笑)


 ハイになったひよりの手を握って捕獲すると、これ以上うるさくならないようにひよりの口に飴を放り込む。ひよりの安定剤はミルク飴。ご機嫌なひよりはずっと由奈の顔を見ながら歩くから前を見ていない。


「ほら、転ぶよ!前見て!寄りかからないの!」

「由奈さん?おんぶって言わないだけマシなのよ?」

「はいはい。駅ついた。電車乗るよ?」

「ほい!飴ちゃんなくなった。あーん♡」


 思いがけずサプライズデートのお誘いを受けたぴよりは、ここぞとばかりに甘えん坊モードに入っていた。


「ごろにゃん〜!どこ行くのかにゃー!」


 いつもよりも子どもっぽくなっているぴよりを見て、由奈は少しだけからかいたくなった。


「実は…、泊まり込みの受験勉強合宿に申し込んだんだよ。ひよりを送り届けたら私は家に帰るよ。」


「ゑ?こ、これから?」


「そう。明日迎えに行くね。」


「ほわっつ?…う、うそだよね…?あ、なんか血の気が引いて…」アウア…


「あはは。うそうそ。ごめん!すっごい嫌そう(笑)」


「(´இωஇ`)…泣いちゃうよ??」


「ごめんって。あんまり嬉しそうだから可愛くてつい。」


「ひより、Мだけど…、由奈さんとお休み遊べないのは耐えられないよ…。放置プレイだけは…(´இωஇ`)」


「くっ、かわいい…。大丈夫、ちゃんとデートだよ。ごめんね。」


「2人で1つよ…?離れないでね?」


「わかったわかった。こういうひよりがたまに見たくてからかっちゃうんだよね。」


「鬼畜…♡ひよりを泣かせて喜ぶなんて…高度♡」


 おかしな性癖を満たし合っていると、着いたのはパンダでおなじみの駅だった。


「ここで降りるよ〜!」


「ゆ、由奈さん……も、もしかして、、これから行くのは…まさか…楽園…」


「そうでーす。動物園に行きまーす!ここで叫んじゃダメだよ?」


「ヒャッハーーーーー!!!」*めちゃ小声


「ははは。ひよりに似ている動物、探そうね♡」


「レッサーパンダっ!ペンギン!早くっ!早く行こうっ!」


 まるで帰巣本能かのように、ひよりは動物園に迷わず向かった。心のホームである。


 

 ふふ。すごい嬉しそうだな、ひより。動物好きだもんね。いつも、犬や猫に話しかけて本気で会話してるもんな。今日も見せてくれるはず、、ピヨリンガルの多言語コミュニケーションをっ!


 と、由奈もおかしなテンションになっていたのだった。



 続く。


 




 








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る