第224話 だって魅惑の果実だよ?

「決めた。平日は頑張る。」


 しゃもじを片手に持ち、高らかに頭上に掲げ、ひよこ柄の子ども用?エプロンをつけたひよりは、何かを決意したらしい。朝5時。由奈が起きる前のことであった。


 ひよりはひよりなりに考えたんだ。ひよりの思考は由奈を中心に回っている。本音は由奈といられるなら他のことはどうでもいい。美味しいご飯は食べたいけれど。


 大学も行った方が良いと自分で思うから勉強を頑張っている。ダイエットも自分が痩せたいからしている。誰のせいでもありゃしない。


「でも、、目の前に由奈さんがいると、他のことに時間を割くのが惜しい。」


 だから何度頑張ろうと決意しても、気がつくとまたサボりがちになっていた。自分でもわかっているぴより。そして、そんなひよりを由奈が心配していることもわかっていた。


「はっきり言って、エッチしたいのが一番の要因。なぜしたいか。それはそこに由奈さんがいたから。ああ、魅惑の果実由奈さん、、」


 煩悩に負けていると気づいていたぴより。炊きたてのご飯をかき混ぜながら、なんならこの2人分のご飯全部食べられる、、と思ってしまった。思わず頭をブンブンと横に振る修行者ぴより。


 だって、でも。覚えてるんだ。

 由奈さんは前に言っていた。いつも注意してばかりいたら、お互いに楽しくなくなるって。だから、ひよりを信じてあまり言わないとも言っていた。


「愛する人に、これ以上嫌な思いをさせるわけにいかないっ!!心配させるのももうやめ、、いや、少しにしよう!!」


 朝ご飯を作り終えると、寝室で寝ている由奈を起こしに行く。

「ゆ、な、さん。朝だよ。おはよう♡」


 真珠のような艶やかな寝顔の由奈の頬に軽くキスをすると、カーテンを開けた。


「ん、んん。。おはよう、ひより。」

「おはよ♡ご飯出来てるから起きてきてね♡」


 この時、すでにひよりは我慢していた。いつもなら、寝ている由奈に飛び乗って、ぶちゅぶちゅと顔中やおなかにキスという弾丸を撃ち込んでいた。


 しばらくして、起きてきた由奈と朝ご飯を食べる。

「今日も美味しい。いつもありがと、ひより。」

「良かった!お仕事頑張れるね♡」

「うん。ひよりの朝ご飯でいつも頑張れてるよ。早くひよりに会いたくて仕事を終わらせるのも早いしね。」

「えへへ、うれしい!」


 これなんだよ、、褒めておだてて伸ばす育児1級なんだよ、由奈さんって。クールだけど、ちゃんとこうやって愛情表現してくれるんだよ、、だから、だから、今すぐにでも抱きついて離れたくなくなっちまうんだぜ、、とひよりはムラっとしていた。が、我慢した。


 やがて、ひよりは食器を水につけると先に学校へ行く。

「じゃあ、行ってきまーす!由奈さんもお仕事頑張ってね!」

「うん。ひよりも学校頑張ってね。」


 玄関で靴を履き終え、由奈の顔を朝の見納めのごとくにっこり見つめていると、由奈はひよりをギュッと抱きしめて、それはそれはクールに唇にキスをした。


「じゃ、また夜にね。」

「・・・うん♡」


 静かに玄関から出ると、ひよりは思った。好き、、好き過ぎる。確かに平日は我慢すると決めたけど、もう限界です。っていうか、ここまで我慢しなくたって良いんじゃないかな、、夜もっと勉強したり頑張れば良いんじゃないかな。


 そして、由奈はちょっと物足りなかった。


「おかしいな、、いつもよりひよりがねっとりしつこくしてこない。なんだろう、、この、切ない気持ちは・・・。もしかして、これが子どもに親離れされた時の気持ち、、?」


 由奈が寂しく感じていると、エレベーターを待っていたひよりはくるっと身体の向きを変えると、一目散に玄関へと走って戻った。


 ピンポンピンポンピンポンー!!!

「おわっ!なんだ?!」

「あけてー」

「ひより、、どした?忘れ物?」

 ガチャッとドアを開けた瞬間、由奈の顔面はホラー映画のごとく、なにかに張り付かれた。

「!!!???うぐっ?」

 全身を巨大なタコに張り付かれた由奈氏。よろよろと玄関に尻餅をつくと、自分の顔を吸っているのが巨大タコの吸盤ではなく、ひよりだと気づく。チュバチュバチュバッ‼


「ぷはっ!ちょ、どうした、ひよりっ!待て待てっ!」

「おねがいっ、ちゅーしてぇぇぇ!やっぱりがまんできないぃぃ!」

「え?なんかしらないけど、我慢してたの?」

「うん(´இωஇ`)夜頑張るから朝はムリ。。」

「よくわかんないけど、、じゃあ3分だけね?」

「うん、、走って駅まで行くから5分。。」


 こうして、ひよりは5分間のべったべたないっちゃいちゃの時間を手に入れた。由奈の上に乗ってしがみついて離れないぴより。背中を撫でられながら優しく何度もキスをしてもらった。


「落ち着いた?もう、また1人であれこれ考えたんだろうけど、相談してよ?」

「違うの、ちょっとだけ我慢しようって思っただけなんだけど、分量を間違えたの。」

「分量って。まぁいいけど。そういうところもかわいいから。」

「由奈さん、大好き!好き好き好き!」ブッチュゥゥゥゥ‼


 5分後、ツヤツヤした顔でひよりは学校へと走って行った。栄養分を補給したひよりはチーターばりに速かったという。そして由奈は、、悶えた。


「まじで、、ああいうところがかわいんだよな・・・。ああ、好きっ!」



 ナイスカッポー!



 

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