009 無自覚鈍感ハーレム系BSS男子が書きたかっただけの話
「ネトリス! サリアの説得についてきてほしいんだ」
サリアの幼馴染である、未だ幼さを顔に滲ませたそれなりの
幼馴染の聖女サリアが働くパン屋で、サリアが勇者について旅に出ていってしまうことを知ったラジウスは、なんとかサリアを説得して引き止められないかと考えたのだ。
サリアとは、彼女が王都に行く十年前、幼い頃に結婚の約束を交わしたこともあるラジウスである。
彼女が戻ってきてからその話をしていないが、忘れてはいないとラジウスは思っている。
手紙のやり取りも、彼女が王都に行ってから数年で途切れてしまったけれど、まだまだ結婚の約束は有効だと信じているラジウス。
幼い子どもが思想教育の本場である王都教会で、みっちりと女神教の真髄を叩き込まれたらどうなるかなど全く考えていないラジウス。
そんな能天気で世間知らずなラジウスの要請に、パーティーリーダーにである剣士ネトリスは精悍な顔立ちに笑みを浮かべて快諾する。
「ああ、聖女様がパーティーに入ってくれるならこっちとしても大助かりだからな。しかし本当に勧誘に成功するのか?」
「大丈夫だよ。彼女とは結婚の約束もしたんだ。勇者様だかなんだか知らないけど、勇者特権持ちなら奴隷商で強い奴隷でもタダで貰えばいいのさ」
ふん、と美形の勇者に嫉妬してラジウスはそんな言葉を漏らす。ネトリスもまぁな、と頷いた。
幼い頃に勇者に憧れていた二人も、ゴブリン相手に連敗したり、オークに負けている勇者レイジを見て、勇者といってもこんなものかと失望を胸に抱いていた。
雑魚勇者に美少女聖女はもったいない。
「リンカ、ルーン、アーネス、そういうわけだから僕たちちょっと教会に行ってくるよ」
ラジウスの幼馴染にしてツンデレ系美少女魔法使い、リンカ。
ラジウスの幼馴染にしてクール系美少女スカウト、ルーン。
ラジウスの幼馴染にしてぽわぽわ姉系盾使い、アーネス。
パーティーメンバーにして、ラジウスと親しい三人の美少女たちに声を掛けてラジウスはネトリスと連れ立って教会に向かっていく。
「教会にいるのか? 聖女様は」
「ああ、この時間ならサリアは教会でお勤めの最中のはずさ」
「行動把握してるとか、マジできしょいなぁお前」
「うるさいなぁ」
ドン引きするネトリス。サリアの一日の行動は毎日のストーキング活動でラジウスはしっかりと把握していた。
パン屋の勤めが終わればサリアは教会で修業や奉仕活動をし、そのあとに自宅に帰るのだ。
もちろん、サリアが今現在、都市にいることもラジウスは把握している。
一度外に出るという噂のあった勇者様がギルドの宿舎に戻ってきたのを見たのだ。勇者レイジは予定が狂ったとぶつぶつと何やら文句を言っており、一緒に戻ってきていた副ギルドマスターがだいぶ青い顔をしていたが、ラジウスとしてはサリアの説得期間が得られて最高の気分である。
そのまま一生ゴブリンでも退治してればいいのに、なんて考えながらラジウスは、ネトリスと一緒に教会に向かうのだった。
◇◆◇◆◇
へへ、とネトリスは、能天気に未来を夢見るラジウスの後ろをにやにやしながらついていく。
(聖女様がパーティーに加入か。ひひ、俺にも運が回ってきたかぁ?)
これも幼馴染にして
何故か顔と女運は良いものの、鈍感と奥手と幼い頃に交わしたサリアとの約束が相まって、十八になっても童貞恋人なしのまま冒険者をやっているラジウスをネトリスは内心で見下していた。
パーティーメンバーである美少女三人をラジウスからこっそり寝取った(ラジウスは一度も寝ていない)瞬間を思い出しながら、美しい聖女様もパーティーに加入したら寝取ろうと、ネトリスは決意していた。
(女冒険者なんかちょっと酔い潰せば簡単に股開くから楽勝なんだよなぁ)
サリアはどんな抱き心地だろうかと考えながら、ネトリスはラジウスとともに冒険者になったときのことを思い出す。
ラジウスを追ってパーティーメンバーになった三人の少女たちは、この世界の美女美少女にありがちな、それなりに効果はあるけど、聖女にはなれない程度の【女神の因子】を持っていた。
少女たちはラジウスに淡い恋心を抱いていた。だから冒険者になどならなくても適当に裕福な男を引っ掛けて遊んで暮らすこともできただろうに、頭と口の軽いラジウスの「一緒に冒険者やろうよ」という言葉についてきてしまったのだ。
だからネトリスはこりゃチャンスだな、と考えて「しょうがねぇなぁ。心配だから俺もついていってやるよ」とラジウスのパーティーに加入してやった。
冒険者パーティー、ブレイブロードは最初はラジウスがパーティーリーダーだった。
ネトリスはラジウスとは幼馴染の親友だったが、三人の少女たちとはほとんど面識がなかったから、あんまり信用されていなかったためだ。
だから薬草取りや、近所の害獣駆除の依頼なんかをこなしながらネトリスは外面だけを良くして少女たちの好感度を上げていった。
体格も良く、オラオラ系でチンピラにも見えるネトリスだが、女を落とすためだと思えば、そのぐらいの偽装はできる。
そういった形で親交を深めつつ、最初に落としたのはツンデレ系魔法使いのリンカだった。
ダンジョン内でのゴブリン討伐の依頼をこなし、祝杯を上げたときに酔い潰して自宅に連れ込んで朝までベッドの中で抱き潰してやった。
ラジウスに恋心を抱いていながら素直になれない少女の心の隙間に入り込んで、そのまま奪ってやった形だ。そのあとはリンカをつまみ食いしながら、クール系スカウトの美少女であるルーンと二人きりで依頼に繰り出して、その道中に無理やり襲って手篭めにした。
最初は警戒していたルーンだったが、冒険者活動を通じてそれなりに好感度を上げていれば二人きりになるのは難しくなかった。そのうえでネトリスと身体の付き合いに発展したことで様子のおかしくなったリンカのことで相談したいと言えば、二人きりの依頼に快くついてきてくれたのだ。
無論、襲ったときにルーンの抵抗はあった。
だが、才能限界と肉体強化を補助する【女神の因子】を持っているとはいえ、スカウトは所詮、偵察職だった。前衛系剣士が不意をついて本気で襲いかかれば何の苦労もなく制圧できた。
あとは大枚はたいて購入した超強力な媚薬である【インキュバスの魔薬】で三日三晩、ぐずぐずに脳みそと身体をとろかしてから、迷宮都市のギャングの間で流行っている、隷属効果のある【淫紋】を両者の同意のもとに刻み込めば、如何に才能のあるスカウトだろうとネトリスの言うことを聞く忠実な情婦に仕上がるというわけである。
パーティーメンバーの女性二人が陥落すれば最後の一人は何もしなくても手の中に落ちてくる。
警戒心と状態異常耐性が高く、前衛系守護職のために強引に襲うことを躊躇していた盾使いアーネスはラジウスを除いたパーティーメンバーで受けた依頼の最中、友人二人によって拘束され、盾使いの状態異常耐性では無効化できないほどの媚薬を大量にぶちこまれて、判断力と思考を失ったままにネトリスの情婦となった。
(くくく、ラジウス。お前を好きだった女三人が俺の女になっちまったが、お前、ぜーんぜん気づいてないんだもんなぁ)
内気で陰キャ気味のラジウスと、オラオラ系のチンピラであるネトリスが親友なのはこのラジウスの鈍さが理由だった。
無害に見える美形の男だったせいか、美少女を惹き付けやすいラジウスの傍にいることで、ネトリスはラジウスに近寄ってきた美少女たちをこれまで幾度となく寝取ってきたのだ。
リンカ以外にもいたラジウスの美少女幼馴染も、ラジウスの美少女義母義姉義妹も、ラジウスが通っていた地元の教会学校で、ラジウスを慕っていた美少女の先輩や後輩、クラスメイトたちもネトリスは奪ってきた。
だから王都の教会学校で【聖女】の称号を授与された本物の聖女だって奪ってやるのだ。
そんなことをネトリスは考えていて――
――数時間後、一つの死を見届けることになる。
◇◆◇◆◇
「つながらない……か」
司祭様の要請で【聖女通信】を行って、王都にいる唯一の友人に対して通信をしていたサリアはため息と共に祈りの姿勢を崩した。
「すみません。司祭様」
「いえ、貴女の事情を知っていて頼んだ私にも否がありますから」
「明日もう一度やってみます。時間も時間ですし」
「いえ、サリア、貴女は勇者様のことだけを考えてください。王都との連絡はこちらで――「サリア!!」
ラジウス、とサリアは呟いた。かつて結婚の約束もしたことのある幼馴染だ。とはいえ8歳の頃の口約束を律儀に果たそうなんてサリアは考えていない。
そのラジウスが教会の扉から入ってくるところだった。老司祭のアダマスが怒りの表情と共に「こら! 勝手に入るなど、貴方たちはなんのつもりで」と説教をしようとしたところでラジウスは大きく頭を下げて「すみません! でもサリアに話があって!! サリア、勇者様についてここから出ていくなんて本気なのかい!?」と問いかけてくる。
「ラジウス、それより司祭様にもっと心を込めて謝罪を」
「サリア! 話を聞いてよ!! 僕との結婚の約束はどうなったんだい? 勇者様についていくなんて言わないでおくれよ!!」
ラジウスは興奮していて話にならない。いや、こういう男だったな、とサリアは都市に戻ってきてからのラジウスとの付き合いを思い出しながら諦めと共にため息を吐き出した。
妙に調子の良い感じのこの男だが、顔はほどほどに良く、声も綺麗で、またこういう子供っぽいところが絶妙に女心をくすぐるのだ。
とはいえラジウスは思慮の浅さなど目につくところもあるが、それがまた抜けてて、母性本能を刺激して良いという女子も多い。
「結婚は口約束でしょう。私はですね。神聖なる義務のために」
「サリア! サリア、お願いだよ。僕にチャンスを! ほんの少しでいい。一緒に冒険者として活動をしてくれよ。それで駄目なら僕も諦めるからさ。勇者様は後で追いかければいいだろう? サリアなら、いくらだってチャンスはあるさ! ね? ね?」
そのチャンスは、たった一度しかないものだった。頼み込んで説得してようやく勇者レイジに承諾してもらったものだった。
一瞬で頭に血が昇ったサリアだったが教会の入り口にそっと目を向けた。剣士だろうか。男が扉に背を預けてにやにやとラジウスとサリアのやり取りを見ていた。
(……ラジウスが一人だったら、この場で――)
この場で、何をしようというのか。サリアは頭に過ぎった物騒な思考を収め、ラジウスに向かって【鎮静】の魔法を使う。興奮して口角泡を飛ばしてサリアに向かって懇願と説得の入り交じる交渉を行っていたラジウスはぽかん、とした顔で慌てて司祭様に頭を下げた。
「あ! ああ! すみません! なんか興奮しちゃって! 司祭様、申し訳ありません! サリア、でもね、でもでも! 僕は諦められないんだ。幼い頃の口約束だとしても僕たちは結婚の約束をしただろう? 思い出してよサリア。君が王都の学校にいくときに、僕たちは約束を――」
ああ、延々とまた話が始まる。サリアはうんざりとした気分になる。この熱意にほだされて、彼についていってしまう女子は多いのだ。
それもラジウスの顔がそれなりに良く、声が良いのが悪い。加えて、義母と三人の義姉と義妹がいる彼の家は女所帯のせいか妙に小綺麗で、清潔感のある服装もしていることも相まって、ちょっとした金持ちに見えるのも駄目なんだろう。
サリアも、この都市に帰ってすぐのときならばたぶん心が揺らいだかもしれない。王都にいられなくなるひどくショックな出来事もあって、世界の全てに否定されたような気がしていたからだ。
だがそのときにラジウスはここまで強引にサリアを誘わなかった。
その幸運にサリアは感謝しながら、今日見たものを思い出す。
――あの屈辱的な評価項目を。
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