008 女神の評価(裏)
それは、女神を冒涜した者たちへの、憎悪の記録だった。
◇評価値(マイナス評価項目)
神罰時期:次回の勇者幸福度調査時
族滅範囲:九族
◆ヴェグニルド王国王族の皆様 評価値:マイナス10万ポイントをそれぞれ獲得
活動内容:偽勇者の作成 勇者レイジへのサポートの放棄及び冷遇
神罰内容:なめくじ脳(国王は何も知らないようですが連帯責任でなめくじ脳・族滅)
◆偽勇者かつ第三王女の幼馴染の公爵令息ガノート 評価値:マイナス10万ポイント獲得
活動内容:偽勇者として活動 勇者でないのに聖剣の使用
神罰内容:なめくじ脳(族滅)
◆策謀に加担したヴェグニルド王国貴族の皆様 評価値:マイナス5万ポイントをそれぞれ獲得
活動内容:偽勇者と知りつつの偽勇者への援助 勇者レイジへのサポートの放棄及び冷遇
神罰内容:なめくじ脳(族滅)
◆策謀に加担したヴェグニルド王国冒険者ギルドの皆様 評価値:マイナス5万ポイントをそれぞれ獲得
活動内容:勇者レイジへの支援物資を偽勇者へ流した行為
神罰内容:なめくじ脳(族滅)
◆策謀に加担したヴェグニルド王国女神教の皆様 評価値:マイナス5万ポイントをそれぞれ獲得
活動内容:偽勇者のサポート、勇者レイジのために私が因子を仕込んでおいた聖女たちを勇者タロウに横流しした行為
神罰内容:なめくじ脳(族滅)
◆勇者タロウ
活動内容:勇者レイジのために用意されたパーティーメンバー候補を全員妊娠させてしまった行為
神罰内容:勇者タロウ様、教会学校と騎士学校の生徒全員にまで手を出すとはお盛んすぎて本当に嫌になります。ただ異世界の魂を持つ貴方に関しては私が神罰を与えるわけにはいかなかったので元の世界の神様にお伺いを立てておきました。勇者の後輩を罠に嵌めてまで女の子とセックスしたいなど恥でしかない、とのことで力を回収しての帰還刑ですよ。よかったですね。帰れますよ。えー、だいぶ長い付き合いとなりました勇者タロウ様ですが、高ランクダンジョンの少ないヴェグニルドにずっといた勇者タロウ様のダンジョン攻略実績は正直微妙でした。あと貴方がそこまで強くないから子供のステータスもそこまでよくありませんし、子供の数こそ多いものの質はそこまでよくなく、なんだかなぁという感じです。というか、貴方への評価が低いからこそ貴方の関係者全員の評価値低かったんですが、まぁお疲れさまでした。中年中卒おじさんで着の身着のまま現代日本に戻されるわけですが強く生きてください。ちなみに貴方のご実家はもうありません。ご両親はとっくに老衰でなくなっております。
あと貴方は気づいてないようですが、貴方のステータスウィンドウは勇者レイジが一度死んだあたりから警告のために、らくがき帳にしてありました。誰でも自由になんでも書き込めますよ。
◆策謀に加担したヴェグニルド王国騎士団の皆様 評価値:マイナス3万ポイントをそれぞれ獲得
活動内容:偽勇者のサポート。希少なジョブである聖騎士を勇者タロウに差し出して妊娠させた行為。
神罰内容:なめくじ脳(族滅)
◆策謀に加担した様々な人々 評価値:マイナス1万ポイントをそれぞれ獲得
活動内容:偽勇者と知りつつ偽勇者を勇者として扱ったこと。
神罰内容:なめくじ脳(族滅)
女神メモ:あ、勇者レイジにこの評価内容を知らせた人間はなめくじ脳(族滅)です。すでに族滅決定している方が勇者レイジに報告のために近づいたらその場で処刑します。
えー、人類の皆様、私こと女神オーリングはだいぶ失望しております。私が貴方たちに泣きつかれて、仕方なく別世界の神様に頭を下げて預かってきた上位世界の魂を冷遇するということは私に対する背信行為だとわからなかったんでしょうか? いえ、わからなかったからこそこういうことができるんでしょうね。自分たち用に用意されていた試練を他人にやらせたうえで、試練をやってくれている恩人すら冷遇するあたりやはり人間は愚かですね。嘘です。愚かですがそこまで馬鹿にしてませんよ。どうせ勇者タロウが後ろ盾になってやるとか適当ビッグマウスかましたんでしょ? C級勇者が背後にいるからD級勇者のレイジを優先しなくてもいいやぐらいの感覚なんでしょうけど、そのおかげで最強イケメンチンポの持ち主の最強イケメンレイジが私を低民度の蛮族文明を作ったクソ女神だと思い込んでるのでなめくじ脳です。なめくじ脳知ってますか? 脳みそと魂を徐々に脳食いナメクジに置換するんですよ。普通に死にますが置換されていく途中でナメクジに脳みそ食べられていくし、1000年ぐらいナメクジのまま記憶を保持してナメクジ転生を繰り返すので背信者のゴミクズにして反女神のクソどもが絶望して死んでいくのでたまーに過去になめくじ刑食らったアホを見返すとめちゃめちゃすっきりします。ちなみにこれなんで族滅かっていうと私への背信者の家族やら血族やらもどうせ反女神の穢れた魂だから浄化しないとって気分になったからですね。普通に気分です。たいした理由は特にないです。あと執行までの期間が次の幸福度調査までっていうのは普通に猶予っぽいのではあるように見えて、ヴェグニルド王国のゴミムシが勇者タロウ使って1万ポイント以上の評価値を稼ぐのは私の視点から見ると絶対ムリなので猶予に見せかけて絶望したお前らの表情見て楽しむための期間なんだよバーカバーカ下等生物~~~。暖衣飽食でぶくぶく肥え太ってもうダンジョンなんかほとんど探索してない勇者タロウに聖女たち捧げて子供産ませても10ポイントぐらいしか稼げねーんだからこれからどう頑張って1万も入るわけねーだろバーカ。
絶望して死ね。
私ことサリアは、女神メモと呼ばれる女神オーリングのメッセージの最後の部分を注視した。
最高位の
身体がガタガタと震える。創世の女神が、この世界を作ったとされる女神が本気で怒って、本気で呪っていた。
とにかく紙に内容を転写して背後の司祭様に手渡した。勇者レイジ様が私を心配そうに見ていた。
「なんだ? 病気か? 勘弁してくれよ。出発できねぇだろそれじゃ」
言われた内容に苦笑する。そうだ。パーティーに押しかけたのに病気とか、使えない以上に無能だろう。頭になめくじ脳という神罰が過る。ひどすぎる罰だ。族滅にされたくないという想いが
(嗚呼、私の魂が歓喜で愛液漏らしてる。感情がべちゃべちゃになるよこれ)
◇◆◇◆◇
その日の晩、迷宮都市ヴェリスの都市長かつヴェリス子爵家の現当主であるシャザム・ヴェリスの執務室に女神教の司祭アダマスと、冒険者ギルドのギルドマスターであるベクタ、副ギルドマスターのリョードが集まっていた。
中年男性である都市長シャザムは机の上に置かれた聖紙に転写させられた女神の評価項目を見る。女神教の人間以外が評価を知ることはあまりよろしくないとされているが、今回は仕方がなかった。内容が内容だからだ。
「絶望して死ね、か。女神ガチギレしてんじゃねぇか」
中年男性――元A級冒険者にしてギルドマスターのベクタの言葉。
「しかし、女神様は随分と人間っぽいですね。化身も降臨しているようですし」
「ええ、人間らしさを持つからこそ女神様はこの世界の存続を決めてくれたのです。化身に関しては、勇者レイジ様は女神も魅了する容姿をしている、ということでしょうね」
リョードの疑問と、アダマスの嘆息。結局のところ、これらはどうでもいい感想に近い。
「それで、どうすればいい?」
そういうことだ。それで我々はどうすればいいのか、それに尽きる。
そんな都市長シャザムの問いに副ギルドマスターのリョードが答えた。
「この聖紙を信頼できる方に託して、王族に警告をしてもらうしかないのでは? 偽勇者が活動を続けていると族滅させられる貴族家どころか一般国民も増えるでしょうし」
確かに、と中年男性たちが頷く。とはいえ素直に報告を聞いてくれるのか、という疑問もあった。
自身の破滅がすでに決定していると知って、ヤケにならない人間はいないだろう。
それに他にも問題がある。
「ただなぁ、冒険者ギルドには内通者がいるみたいで、報告が正常に届かねぇ。支援物資も奪われたみたいだしな」
ギルドマスターであるベクタの言葉に子爵であるシャザムは「私は無理だよ。私の爵位では王族の方に直言はできない。報告も届けられない。上役の誰かに託しても、どこかで止まるだろう」と言う。
アダマスが「私も無理ですな。王都の正確な情報を得るだけでも数ヶ月もかかりましたし」と諦めた表情で言った。
辺境ゆえに勇者レイジはここで何の妨害もなく活動できているが、辺境ゆえに正確な情報を発信することも入手することも困難だった。
顔を見合わせた四人はどうする? と悩んでしまう。
結局のところ、情報を得たところで、信頼できる上の人間に渡さなければ何にもならないのだが、信頼できる人が見つからないのだ。
「あー、辺境伯閣下はどうなんです?」
リョードの疑問にシャザムが諦めた表情で言う。
「恐らく族滅対象だ。九族族滅だろう? 辺境伯閣下の先代は側室も多くて姫も多かったからな。王都の高位貴族の多くが関わってるなら、嫁いだ姫の誰かがやらかして、親族の辺境伯閣下も族滅対象になっているだろうな」
そうでなくても、辺境伯の娘は王都の教会学校に聖女称号の獲得のために入っているし、息子が数人、王都で近衛騎士や騎士をやっているはずだった。その娘や息子が偽勇者騒動に関わっていたなら、辺境伯本人も族滅対象になるだろう。
「……貴族も9割は死ぬか?」
その中にシャザムは含まれていない。息子も娘も王都に行かせるほどの才能がなかったので、地元の学校に入れていたからだ。ついでに言えば、偽勇者騒動に関われるほど高位の身内はヴェリス子爵家にはいなかった。
「この国はどうなるんでしょうか」
ベクタとリョードの諦めたような声。ただ、他国の乗っ取りはないとシャザムは言う。
「女神がこれだけなめくじ脳を乱発した以上、他国が乗り込むことはないだろう。関わったら神罰を食らうかも、という恐怖があるからな」
はぁ、と全員がため息を吐いた。とりあえず他国の軍勢が国内を動き回るという悲劇は避けられた。それでもどうにもならない。もう、そういうところまで来ていた。
「しかし、他の国では似たような事件があったと聞くが、ここまで大事にはならなかったはずだぞ。なぜ今回だけ」
シャザムが疑問を呟く。勇者タロウや王族がこんな馬鹿なことをしたのは、自分たちは大丈夫だろうという予測があったからだ。
しかしそんな予測を馬鹿にするかのように女神の刑罰が重すぎた。
重くても本人を殺すぐらいで十分だろうに。九族など、有りえてはならない広範囲の処刑だ。
先任の勇者が後からやってくる勇者を牽制するのは別に勇者タロウだけの愚行ではない。
中には後輩が自分より低いランクだったから、遠慮なく牢獄に閉じ込めて数年過ごさせたみたいな話もあるぐらい、大陸では日常的な勇者同士の争いだった。
サリアみたいな信仰心の塊である聖女や、副ギルドマスターみたいな市民階層出身者は大げさに考えているようだが、ある程度勇者の歴史を知っていればわかるのだ。勇者に勇者をぶつければ女神の神罰は軽減できる、ということは。
だが今回はそうならなかった。
ギルドマスターがふん、と鼻を鳴らして言う。
「イケメンだからって女神メモに書いてあるだろ。顔が好みだったからいままでの、暗黙の了解が通用しなかったってわけだろうさ」
そのあとに、勇者タロウには残念な話だろうがな、と呟くように言われる。
つまりこれは、魔力的な魅力がなければただの女好きの性欲おばけのハゲデブの中年おっさんと、顔も身体もイケメンの高校生男子。どちらを女神が選んだか、という話なのか。
「魔力的な魅力はまだ育ってないだろう?」
「女神の精神抵抗なら魔力がいくら高くても無意味だろうさ。それに勇者レイジは、男が見ても震えるほどに美しい」
子爵の疑問をギルドマスターが解決する。
しかし、とにもかくにもこの情報をどこかに伝えねばならないが伝手も手段もない以上、抱え込むしかないのか……というところで司祭アダマスが呟いた。
「サリアに頼んでみましょう。聖女は遠方の聖女と交信する手段を持っていたはずです」
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