少年魔術師、謳歌せよ
御影 累
#0 少年囚人、追憶せよ
拝啓、くそったれなお母様。お元気ですか?俺は元気です。
俺、というのは保志裕太…ではなく。アステルだ。由緒正しい貴族の生まれという訳でもなく、何処にでもある一般家庭より少し裕福な家庭に生まれた俺は、今世を楽しんでいた。
そう、あの時までは。
△▽△▽△▽△▽
俺には前世の記憶があった。暑苦しいビル街でひたすらパソコンと向き合っていた頃の記憶が。前世の俺は、過労死という現代の労働基準法のお陰であり得ないとも言えるはずの死因によってその生涯を終えた。の、だが。
ありがたいことに、俺にチャンスを与えた物好きな神がいたようだ。目を開けると知らない天井で、しかも目線が低くなっている。もしや、と思い周りを見渡して、見つけた姿見の前に立ってみればだ!
なんと、俺は銀髪金目の美少年になっているではないか!思わず姿見を掴んで凝視してしまった。生まれ変わりがあることにも驚いたが、こんなにも容姿に恵まれるとは思っていなかった。
自分で自分に見惚れる…というようなことはなくても(ナルキッソスじゃあるまいし)、客観的に見て美しいと思えるような風貌だ。この時ばかりは神に感謝した。
さて、神か何かしらから第二の人生を与えられた俺だが、今世をかなり楽しんでいた。父親はいないが、優しい母親はいるし、気の合う友だっていた。文句があるとすれば、「アステルの名前はお父さんがつけてくれたのよ」とか「お父さんはすっごく格好よくて」とか、父親の惚気話を毎晩のように語られることぐらいか。だがそれさえも心地よいものだった。こんな素晴らしい人生を与えてくれた神には、感謝しかないと。そう思っていた。
まぁ、幸せいっぱいな日々がいつまでも続くわけがない。俺の人生は、とある出来事がきっかけで崩壊していく。
△▽△▽△▽△▽△▽
確か、6歳の春だったか。その日は朝から左胸が痛かった。と言っても耐えられないほどではなく、しかし、逆剥けがズキズキと傷むような気にせずにはいられないような痛みだった。言わずに放っておいて悪化するのも悪いかと思い、結局母に相談することにしたのだ。
「おかあさん、ちょっといい?」
「あら、どうしたのアステル」
台所に行けば予想通り、母が朝食の支度をしていた。既に部屋いっぱいにスープのいい匂いが漂っていて、空腹を誘った。声を掛けると此方に目を寄越し、俺を視界にいれるとパタパタと近づいてきた。
「あのね、ここがいたくて」
「あら、そうなの。じゃあ、少し見てみましょうか」
俺が胸に手を当てて訴えると、とたんに心配そうな顔をする。だが、服をあげると、その顔は一気に恐怖に変わった。
「ア、アステル…」
「どうしたの、おかあさん」
「ッ触らないでッ!穢らわしい!」
俺を見て後ずさる母。どうしたのかと裾をつかむと、強く振り払われた。意味が分からず、硬直する。いったい、何を見てこんなに怯えているんだ。恐る恐る自分の胸元を見る。そこには、淡く金色に光る、紋章のようなものが刻まれていた。何故こんなものが胸に、と俺が動揺している間に、母は正気に戻ったのか、此方を睨む。
「アステル、部屋にいなさい」
「お、おかあさん」
「いいから!部屋にいなさいッ!」
そう強くいい放つと、母は家を出ていってしまった。何をしたらいいのか分からず、部屋に戻った。
帰ってきた母の周りには、軍服を着た男達がいた。何がなんだか分からないまま腕を掴まれ引きずられ。連れてこられたのが、俺が今いる、監獄島、と言うわけだ。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽
そんなこんなで、俺はここに来て3年になる。朝も夜も分からず、くそ寒い地下牢で、こうして1人過ごしている。いつか、神には感謝しかないなんてほざいたが、撤回する。神はいない。いるとしても、幸せの絶頂からどん底まで叩き落とすのが大好きな性癖倒錯者、いや、性癖倒錯神にちがいない。
こんな感じで毎日元気に過ごしています、お母様。最後になりますが、あなたの上に広がる空がどす黒い曇天でありますように。夜道には気をつけてお過ごしください。月夜だけだと思うなよ。敬具。
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