陰キャ俺がモテる為に占い師に相談したら、痴女に絡まれまくるようになったんだが!?〜俺が求めてるのは純愛なんだよ!絶対に貞操は守ります!〜

オニイトマキエイ

第1話 陰キャ俺、白ギャルに絡まれる。

俺は今、占い師に見てもらっている。

20分で5000円。高い。時給換算で1200円ほどの給料で働いている俺を思うと、なかなか強気な価格設定である。


25歳を目前に、俺は未だに『そういう行為』に及んだことはない。行為どころか、女性と付き合ったこともない。勿論、マシュマロを揉んだこともなければ唇の感触も知らない。

最後に手を繋いだのはいつだったろうか。

もしかすると手を繋いだこともないかもしれない。


流石にアラサーを足を突っ込むというのに、この体たらくではマズい。そう考えた俺は、彼女を作るための助言を得るべく、藁をも掴む思いで占い師のもとへ駆け込んだのだ。


これで彼女ができるキッカケになるなら、5000円も安いものだ。


「あ〜。陰井さんねぇ、あなた自分から女性に話しかけたりしないでしょ。顔はいい癖に」


「ま、まぁそうですね。自分からはあんまり……」


「いや、それでしょ。アタシに相談するまでもないと思うけど。友達に聞いたら分かることじゃない」


「友達もいないもので……」


「可哀想な男ねぇ……」


惨めだ。占い師を名乗る『SHIZUKA』は、なかなかの切れ味で俺の痛いところを抉ってくる。

彼女はいかにも占い師という風貌で、全身を紫の衣装で包み、よく分からない水晶玉を撫でるように触っている。そしてたまに竹串の束のようなものをジャラジャラさせてはなにかに祈っている。なんとも胡散臭い。


「じゃあ逆に考えてみなさい。あと何が足りれば、あなたに彼女ができると思う?」


「それは、そうですね。物凄い積極的に俺を狙ってくれる女の子とかがいたら。いやその、俺は女の子に話すのが苦手なので、向こうから沢山話しかけてくれれば……」


「ストップ、分かったわ。重症ね。どこまでも受け身というか他人任せというか」


占い師は呆れ顔でため息を吐いた。

俺はなにもこんな女にバカにされるために高い金叩いている訳じゃない。いたたまれなくなった俺は、この空間から脱するべく立ち上がろうとすると、占い師が呼び止めた。


「このままいけばあなたは魔法使い真っしぐらでしょうけど、実はアタシも魔法使いなの。それもおふざけの魔法使いじゃなくって、正真正銘のね」


「魔法使い?なにを言ってるか分からない」


「あなたは女に話しかける度胸もないクセに、彼女ができないって嘆いてばかり。プライドだけが高くなった、負けず嫌いの拗らせクソ雑魚男♡」


「……なにが言いたいんだ」


「あなたのこと気に入ったのよ。あまりに惨めな人生送ってるみたいだから、アタシが魔法でもかけてあげようかと思ってね」


占い師の女はそう言うと、水晶玉に手を翳してなにやら呪文を唱え始めた。今まで1度も耳にしたことのない言語だ。子供騙しで揶揄っているだけかと思いきや、水晶玉がカッと白光を浴びて輝き始めた。


「まっ……眩しいッ!」


視界が真っ白に覆われて、思わず目を覆う。

光が消え、徐々に目を開ける。どうやら異世界に転生などはしていない模様だ。胡散臭い女占い師が、依然として水晶玉をこねくり回している。


「なんだ、なにも変わっていない。魔法使いなんて嘘ばかり……もういいです。俺は帰ります!」


「いいえ、あなたは魔法にかかってる。いずれ気づくんじゃないかしら。あなたの望み通りの世界になっているハズよ」


「バカバカしい。俺は宇宙人も幽霊も信じない性分なんでね。生憎だけど、これ以上アンタの茶番には付き合いきれないな!」


俺は啖呵を切って、仄暗い部屋を飛び出した。

暗い廃ビルのような建物の3階。

ハリボテのエレベーターで1階へ向かう。

外の景色もなにひとつ変わっていない。

机の上に叩きつけた5000円。あの1枚があれば、今日という日をもっと有意義に過ごせたに違いない。

俺は占い師にまんまと騙された。俺は帰路に着く間、激しく後悔していた。



――7時40分。

設定していた目覚まし時計がけたたましく鳴る。

コイツのうるささは格別だ。色んな目覚まし時計を試してきたが、コレに変えてからは1度も遅刻をしていない。キャッチコピーは、『隣の部屋の住人まで飛び起きる!』。


結局、昨日占いから帰ってきた後はずっと部屋に引きこもっていた。なにか特別なイベントが起きるわけでもない。動画投稿サイトで配信されるゲーム動画など見ながら、ご飯は買いだめしていたカップ麺で済ませ、気づけば寝る準備をしていた。


スーツに着替え、眠気まなこを擦りながらネクタイを締める。そして最寄り駅まで徒歩10分。8時40分発の新快速に乗車し、着々と職場までの道のりを辿っていく。


(……今日も満員だな。はぁ、また連勤が始まるのか。なんかちょっとぐらい、報われてもいいだろ)


漠然とそんなことを考えるもなにも起こることはなく、電車は目的地に到着した。

改札にICカードをタッチ。雪崩れ込むサラリーマンに紛れて、俺は今日も普遍的な日常を送る。


駅から繋がる橋を渡って階段を降りる。

階段を上ってくる女性が1人。

髪の毛を白に近い金髪に染めた、いわゆる白ギャルという人種だ。髪は相当脱色しているハズだが、傷みもなくサラサラ。化粧こそ濃いが、その顔は思わず2度見してしまうほどの美しさだ。


(綺麗な人だな……まあ俺と関わることなんてこの先ないだろうが)


学生時代もギャルや不良とはなるべく接触しないよう日陰で生きてきた。嫌いかと言われると、そうではない。むしろ、心のどこかでは仲良くなりたいとさえ思うことがある。

しかし、俺のような陰キャと仲良くしてくれるはずもなく、最初から交流を諦めているのだ。


フワッと金色の髪が風に揺れて、花の香りが漂う。

良い匂いだった。思わずうっとりしてしまう。


(……こんな人が彼女だったら)


俺がそんな野暮なことを妄想していたその時、事件は起きた。


「ねぇ」


話しかけられた。この白ギャルに。

何故だ。何故だか理由が分からない。

無意識にジロジロと見過ぎだか?

しかし仕方がない!こんな女性を前にしたら。

幼さの残る小悪魔のような顔立ちにニット生地で強調された胸。ショートパンツから露わになった脚は、スラッと長く細い。黒い光沢のヒールが非常によく似合う。

褒めたいところはまだまだあるが、反射的に俺は彼女から目を逸らした。

街で絡まれた経験など滅多にない。幾つも歳下であろう彼女に、俺は完全に怯えていた。


「ねぇ?聞いてんの?」

「なっ、なんでしょうか」

「お兄さん、ちょっとウチに付き合ってよ」


意地悪に笑う彼女。

心を撃ち抜かれたようにドキッとする俺。

心臓が飛び出るほど早くなる鼓動。


そして何より、彼女は口角を緩めながら俺の局部を確実にしっかりと弄っていた。

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