第2話 ピンクハンカチ

外はやや曇っていたものの、しっかり明るくなっていた。一先ず朝食を摂るために目と鼻の先の牛丼チェーン竹谷に入った。

 店先の券売機でメニューを選ぶが、もう頼むメニューは決まっている。ネギ塩豚カルビ丼だ。竹谷では必ずこれを頼んでいる。素早く食券を購入すると、近くのカウンター席に腰掛けた。今日は特に何も用事はないしどうしようか。考え始めた矢先にネギ塩豚カルビ丼が到着した。とりあえず食べてから考えよう。到着したネギ塩豚カルビ丼を一心不乱にかき込み、お茶で流し込んだ。

 よし、ちょっと考えよう。と思ったが、入口周りを見渡すと、既に順番待ちの列ができていた。とりあえず出ようか。僕は行列に軽く会釈をして竹谷を出た。

 竹谷を出たは良いものの、結局何をするか決まっていない。時計を確認すると、九時半。まだ二日酔いも少し残っているし、とりあえず家に帰るか。僕は最寄りの高田馬場駅へ向かい、上石神井行きの電車に乗った。

 土曜の朝だからか、上石神井方面の電車は人出がまばらだ。扉側の席を確保すると、昨日からほんのり残る二日酔いも手伝って、すぐにウトウトしてしまった。

 次に目が覚めた時には、上井草まで到着していた。危ない。次の上石神井を乗り過ごす所だった。とりあえず起きておくか。視線を前に移すと、真正面に派手な女が座っていた。金髪セミロングにタイトな黒のワンピースを着用し、網タイツに真っ赤なヒールを履いたその女は、スマホを睨みながら顔を歪めていた。夜の勤務を終えたキャバ嬢だろうなと偏見をしていると、電車は上石神井に到着した。

 よし、帰ってガッツリ寝よう。ゆっくり電車を降りると、改札へ向けて歩を進めた。眼前には先程の女がカツカツとヒールを鳴らしながら歩いていた。なんだご近所さんかよ。うるせえな。と苛ついた瞬間、その女が落とし物をした。薄ピンクのハンカチだった。目の前に落ちたものだから拾わざるを得なかった。前方を向くと、既に女は改札を通過していた。まずい。早く渡さないと。僕も急いで改札を通過すると、少し小さくなった女の背中を追いかけた。

 小さくなった女の背中が再び大きくなったのは駅舎を出た時だった。後ろから恐る恐る声を掛けると、女は気怠そうに僕の方に振り返った。

「すみません、ハンカチ落としてまし」

 言い終わるよりも前に女は僕からハンカチを奪うと、再び僕に背中を向けカツカツとヒールを鳴らして去って行った。なんだあの女。流石に失礼過ぎる。僕は小さくなる女の背中を一睨みすると、女とは逆方向の自宅に向け歩き出した。

 自宅に帰ると、先程の怒りを鎮めるために水を体内に流し込み、パジャマに着替えてベッドに入った

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