タイムトラベルしてクラスメイトを救ったら、モンスターが溢れる世界になっていた。

🎈パンサー葉月🎈

第1話

「クックック――ついに、ついに完成したぞ!」


 長年の研究の末、俺はついに夢だったタイムマシンを作り出すことに成功した。

 振り返れば苦難の道のりだった。


 それは俺が11歳の夏の頃だ。

 初めて胸が高鳴り始めた――いや、ドキドキした瞬間だった。

 それは恋。

 甘く苦い初恋というやつだ。


 朝目を覚ますたび、学校に行く途中で彼女を見かけるたび、教室で彼女の横顔を見るたび、体育の授業で彼女の体操服姿を見るたび、給食で出たトマトを憂鬱そうに眺める彼女を見るたびっ!

 俺の胸はますます苦しくなっていった。


「事件が起きたのは小学校を卒業する直前の2月だった。その日、俺はいつものようにたまたま彼女の後をつけていた」

「……いつものようにたまたまって、日本語バグってるでしょ」


 すると、体育館裏に同じクラスの田中が一人でいた。


『待った?』

『ううん、僕もいま来たところだよ』

『あの……田中くん、これ』

『僕に? ……ありがとう』


 彼女は田中に小さな箱を手渡していた。きれいにラッピングされた、ピンクのリボンがかけられた箱。


 その日はバレンタインデーだった。


「彼女は俺じゃなく、よりにもよってクラスで一番人気の田中にチョコを渡したのだ!」

「いや、そりゃそうでしょ! どこも不自然じゃないからっ!」


 その日は眠れなかった。

 はじめての徹夜だ。


 翌日、彼女と田中の席が3cm近づいていた。


「細かいわねッ!?」

「しかし、俺は諦めきれなかった!」


 彼女の気を引こうと、彼女が好きそうなものを調べようと努力した。

 彼女のTwitterを5分ごとにチェックしたり、ミクシィのアカウントを探そうと努力したんだ。


「いや、やってないでしょう!?」

「……見つからなかった」

「今時の小学生がミクシィなんてやらないって」

「それでも諦めきれなかったんだよ! だから今も時々探してしまうんだ」

「諦めなさいよっ!」


 初恋だったんだ。

 そんなに簡単に忘れられるくらいなら、初恋なんて言葉を使わないでくれ。


「じゃあなんて言うのよ?」

「蕾」

「ロマンチストかっ!」


 それから夏になり、俺は中学生になっていた。

 夏休みに入れば一ヶ月も彼女と会えなくなる。それが辛かった。


 だから、俺は決意したんだ。


「彼女に告白しようと!」

「……その勇気は褒めてあげるわよ」


 結果は惨敗。


『ごめんなさい。私、その……彼氏いるから』


 俺はフラれた。


「当時の彼女には田中って彼氏がいたんだし、しょうがないんじゃない?」


 俺はショックで24時間そこに立ち尽くしていた。


「いくらなんでもショック受け過ぎだからっ! 脱水症状になる前に帰りなさいよ」


 失恋のショックで朦朧とする意識の中、俺は唯一の女友達に泣きついた。


「……で、それから?」


 女友達は言った。

 ああ、――なら小6のクリスマスに田中が告って付き合ったよ。

 えっ、なに? あんた好きだったの? それなら早く言えば良かったのに。

 ――だってあんたのこと好きだったんだから。

 ま、タイミングってやつじゃないの?



「無神経な女友達の一言に俺は膝から崩れ落ちた」

「……そりゃ悪かったわね」


 その夏、彼女は亡くなった。

 殺されたのだ。


「〝あの出来事〟が俺をマッドでサイエンティストな男に変えたのだ!」

「まあ、気持ちはわからなくはないけど……」


 中学一年の夏、俺は人生をやり直し、彼女を救い、この小さな蕾を咲かせることを誓った。


 そして、8年の月日が流れ、俺はついにタイムマシンを完成させたのだ。

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