第8話 演習
この学校に入ってから大体3週間ぐらいたった。部屋の3人ともすっかり仲良くなって、前ほど苦痛じゃなくなった。
この3週間でいろんなことをした。国語、算数、理科、社会、体育、回れ右、右向け右、半ば左向け左、射撃、匍匐。前の学校と比べたら朝が早くてほんとうに大変だと思う。給食は朝、昼、晩ちゃんと出てそれなりに美味しいなって思った。
でも、この学校は朝早く始まって、終わるのがすごく遅い。7時間目が週に3日もあるんだ。そのせいで、ゲームする暇も無いし、そもそも持ち込めなかった。まぁ、なかむらくんは室長だけど実はこっそり持ち込んでるみたいで夜暗い中、布団をかぶってよくやってるのを見せてもらった。
ここで一番楽しいのは体育だと思う。体育でやったのは色々。マット運動とかも勿論やるし、サッカーとかリレーとかチームスポーツもいっぱいやる。
大体、2つのチームに分かれてやるんだけど、それが本当に大変。なぜならその日の給食がかかってるんだ。例えば、サッカーだったら勝ったほうがデザート2個とか、逆に負けたらデザート無とか。だから、みんなで力を合わせて本当に頑張る。
チームを決めるときはどこどこ部屋って言って、部屋単位で毎回割り振られるんだ。だから、みんなとすぐに仲良くなれる。本当に楽しい。
今は体育の時間。今日はドッチボールだ。
「ヘイパス!パスパス!!」
外野のうえだくんがあっちで叫んでる。うえだくんはここに来る前は地域のドッチボール大会の優勝チームにいたぐらい強かったみたいで、休み時間にやる時はすごく頼りになる。ただ、普段の生活はそれと比べてけっこうもたもたしてる気がする。
ふわっとボールを投げて、向こうのうえだくんに渡す。すごい速さで弾が相手チームのたけうちくんに当たって、そしてさらに凄いことにそれがまた外野に吹っ飛んで戻って来た。
また、弾が相手チームの子に当たる。さすがに、そこからボールが戻って来ることは無かったけど、これで残りは4人だけだ。でも、つまりそれってことはこっちの外野がいっぱいいるってことだ。
相手のボールが僕たちの周りの外野に渡される。
「おらぁ!」
むらかみ君は勉強が得意みたいで、しょっちゅう座学のテストでは満点を取ってるらしい。しかも、運動もできるっていうから本当にすごい。でも、だから敵にしちゃったら本当に困る。
僕たちのチームメンバーが次々と当たって、外野に送られていく。そうして、残っているのはついに僕となかむら君だけになった。
正直、僕は小学校でみんなとやってるときからドッチボールは苦手だなぁって思ってた。何が楽しいのかよくわかんないなって。だけど、避けるのは得意だから最後までなぜか残っちゃうんだ。
なかむら君と目を合わせる。
その瞬間、僕の横をすごい勢いでボールが掠めて敵のチームに渡る。
動きが間に合わなくて、足がもつれた。ボールがすぐそこまで迫っているのに、僕は地面にこけちゃった。
立ち上がるのが間に合わない。せめて、顔面を当てて…。
そうやって考えてたら、僕の目の前に殆ど倒れるようになかむら君がとびこんできて、ボールをキャッチした。よく見ると、なかむらくんの腕に砂がついててすごいザリザリしてる。痛そうだなって思った。
「なかむらくん!ごめん!大丈夫?」
ボールを持って、なかむら君が立ち上がりながらこっちを向いた。
「おう」
そして、そのまま外野にボールを渡し、残ってる相手チームは全員うえだ君に当てられてアウトになった。僕たちの勝ちだった。
体育が終わって、給食の時間になる。
僕たちのチームはいつもよりカレーが多い。勝ったからだ。逆に負けたチームの子はカレーが少ないみたい。でも、基本的に給食は同じ部屋の4人で食べることになってるから他のチームの様子はあんまり分からない。
「うえだ君相変わらずすごいね!」
「いやぁ…俺は、そんなぁ…」
照れ臭そうに笑ってる。いつも通りだ。
「その調子でいつもの課業もきっちり早くやってほしいんだけどな…」
なかむら君がにやにやしながら言う。
「そうそう」
ゆうたくんがモグモグしながら相槌を打つ。
そんな時、教官がいつも通り食堂に入って来た。でも、いつもと違って右手に拡声器を持っている。
「よし!そのまま食べながら聞け!以前から言ってるように明後日、演習がある!この学校はできてからまだ日が浅いが緊急性が高い任務を抱えている関係で完全に同一のペースで同一の訓練を行えていない為に諸君らの練度には多少バラつきがある!そのため、明後日までに各部屋の室長は各員の装具点検及び部隊行動に関する知識の共有に努めること!以上!分かれ!」
そういって、教官はトレーを持って席についた。
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