第2話 入学
「おめでとうございます、あなたのお子様はこの度、厳正な審査を通過し防衛幼年学校生として選抜されました、つきましてはこちらに印鑑を押し、本日から2週間以内にこちらへ郵送してください」
玄関先の声が僕の耳に入って来た。
思えば、この時だった。僕の人生はこの一言を聞いた日から大きく変わった。
ドタドタという音と共に、お父さんが奥に引っ込んでいった。なんだなんだと思い、部屋の扉をちょっと開け玄関からまっすぐ続く居間の様子をうかがった。
お父さんとお母さんが何やら真剣そうに話している。なんとなく玄関のほうを見ると、そこには眼鏡をかけたスーツ姿のおじさんが立っていた。
おじさんが笑顔でこちらに会釈する。
「こんにちは」
なんとなく、こっちもそうやって挨拶して、居間のほうへ走っていった。なんか、不安だったんだ。おじさんと僕二人っきりにされるのが。
「ねぇ…?」
お父さんとお母さんが一斉にピタッとしてこちらに振り替える。なんか、妙な笑顔でどうしたの?と聞いてくるので、何があったのか聞いた。
妙な笑顔をこちらに向けたまま固まっている。
「上がってもよろしいですか?」
玄関先から声が聞こえてきた。
どうぞと二人が言って、おじさんがしつれいしますって言ってから居間まで来た。手にはお父さんと同じような黒くて四角いバックを持っていた。
みんなでいつも夕飯を食べるテーブルに向かい合って座ると、おじさんはカバンの中からタブレットを出して映像を僕に見せてきた。
防衛幼年学校~親御さんとお子さんへ~
お父さんの実家の近くのスーパーで聞いたような音楽と一緒に映像が流れる。そこには、皆おそろいの服を着たちょうど僕ぐらいの男の子たちがみんなで並んで授業を受けている様子が映っていた。
……?
見てもよく分からなかった。特に前半は全く聞いてても分からなかった。お父さんの見てるニュースみたいなことを言ってて退屈だった。後半のほうはそれと比べたらよっぽど分かりやすかった。なんだか、僕の小学校の様子を改めて見させられてるみたいでこっぱずかしくなった。違ったのは皆、おんなじ服を着て、あとなんだか黒板に見覚えの無い何かが書かれたりしてたことだけだった。
「このように、学費や給食費、生活費などお子様の養育にかかる諸々の費用は全て防衛省のほうで負担させて頂き、将来、防衛事業に多大なる貢献を期待できる防衛幼年学校生として現在行われている初等教育から高等教育の内容まで全て修めることができます」
銀縁眼鏡の人がネクタイを少しいじりながら笑顔で言ってる。なんだか、昔嫌いだった担任の先生にちょっと似ていた。あの先生は嘘つきだったからみんな好きじゃなかった。
「あの……その~申し訳ないんですけど……あまりその制度に関しまして良い噂を聞かなくてですね~…」
お父さんも笑ってる。ただ、なんだか焦ってるみたいな、会社から家に電話がかかって来たときみたいな話し方だ。
「その~仮に、そちらに行った場合、息子の身柄はどうなるんでしょうか……?全寮制という様な噂も聞きまして……実際に映像の様に家に帰って来るのでしょうか……?」
「それって必ず行かなきゃいけないんで……」
お父さんの後にお母さんが続けようとして、なんか急に黙った。
「では、まずお父様のご質問からお答えさせていただきます、まずお子様のお身柄につきましては、お子様は防衛省における職員として正式に採用されまして、勿論、映像の様に毎日ご家庭からご登校されることができます、しかし実際に学校内では遠方から来校する学生が多いので寮があり、もしお子様がご希望するようであればそのまま入寮という形になります、なのでお父様のご質問に関しましては全寮制ではありません、ご安心ください」
この人はお父さんと僕を見ながら話している。なんだか、すごいしっかりしてるような気がした。学校の先生よりもしっかりしてる。
「ぼうえいようねんがっこう」これは聞いたことない。でも、映像の中ででてきた言葉には見覚えがあった。PDS。たまに、学校に来るなんかかっこいい緑色のスーツを着た人が良くくれたキラキラカードとかチョコとかに書かれていた。意味は分からなかったけど、その人は来たらよく一緒にみんなでサッカーしてくれたりしてすごく楽しかった。多分嫌いな人はいないと思う。
だから、言ってることはよくわからなかったけど、この時は僕はなんかそれに行くっていうのなら、すごいかっこいいし皆に自慢できるなって思ってた。
「お母様のご質問に関しましては…」
眼鏡の人が少しだけえ~と言って固まった。本当にほんの少しだ。
「勿論、良心に基づく拒否権を行使することができます、その場合まずお母様及びお父様が防衛省、防衛幼年学校宛に防衛省のホームページよりフォーマットをダウンロードしていただき、拒否権行使書状をワープロソフトを用いて作成した後、プリントアウトし防衛幼年学校向けに郵送して頂く必要があります、またその後、実際に防衛幼年学校にてお子様及び、お父様もしくはお母様を交えた3者面談を行い、お子様の意思を確認した後、予備防衛軍としての身分に基づきお父様及びお母様双方に軍法会議に出廷して頂く形になっております」
よくわかんない。話を聞いてて何を言ってるのか全然分からなかった。
ただ、なんだかお父さんとお母さんは少し、いまになって考えると嫌がってるみたいな感じがその時にはもうしてた気がする。
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