第22話 奥野ダム

「そろそろ、行くか……」

 熱海西交通所前に集まっていた二人に言った。天宮と白浜は頷いた。昨日の先輩たちから聞いた話はすでに二人にも連携済みだ。

 外は天気予報通り晴れだった。俺たちは伊東西通行所から県道12号線を歩いていく。

「道は覚えてる?」

 天宮が訊いてきた。

「このまま、県道を歩いて、県道112号、県道111号に行き、天城高原インターから伊豆スカイラインに乗り、東伊豆インターで降りて、そのまま進めば東伊豆市に着く」

 何度も地図を見ていて道を暗記していた。

「ここから南に行くと奥野ダムね」

 こうしてフォローをしてくれる仲間がいると助かる。

 俺は歩きながら時計を見た。今は朝の七時だ。このままの速度で進められれば、東伊豆市まで時半には着くが、戦闘や昼食と休憩がある。バッファーは二時間半だ。

 伊東大川を並走するような形で上り坂を黙々とみんなで歩いていく。

「奥野ダムが見えてきましたね」

 白浜の声に左側を見てみると木々の陰からダムが見えてきた。

「奥野ダムって、さっきの川と繋がっているのかな?」

「はい、奥野ダムは伊東大川の水量を調節するためのものだと思います」。

「今はダムとしての機能が停止しているんだよね」

「それだと下流の伊東市なんか、大雨が降った際にまずいんじゃないか?」

「伊東市は独自に奥野ダム内に能力石を設置していて、遠隔で水量を調節しているんです。大雨が降っても水量は維持できるらしいですよ」

「ちゃんとしているんだな」

「さすが渚ね」

「ちょっと調べる機会があって」

 そうこう話しているうちにトンネルが見えてきた。「奥野トンネル」と書かれている。

「少し休憩して、万全の状態で行こう」

 俺の言葉にみんなは頷いてくれた。


 質量操作で体重を軽くしてジャンプして高い位置から施設を覗き見てみると、鬼が大勢いた。飛び降りて、天宮たちに連携する。

「ダムの施設を見てきた。武器持ちが七体くらいいるな。それに中にもいるみたいだ」

「どうするの?」

「一体ずつ倒して行くのは無理だな。強硬突破しよう」

 俺はそう言って、

「天宮は俺と前衛を白浜は後方の確認や、フォローを頼む」

 二人は頷いてくれた。

「よし、そろそろ、行くか?」

 ダムの施設前のトイレには先ほど見た通り、鬼たちが三体いた。いずれもボロボロの服を着ていた。

「行こう!」

 俺は刀を抜いて歩き出した。

 鬼たちが俺たちを見て、近づいてきた。手には木の枝が握られている。

 俺は質量を込めた刀で首を切った。鬼が倒れる。隣で天宮も倒していた。

 音につられたのか、トイレ内から鬼たちが四体出てきた。包丁や箒、デッキブラシを持っている。

 俺は鬼の包丁を刀で払い。そのまま、首筋に重い刀を振るった。首が飛ぶ。

 隣にいた鬼がデッキブラシを振るった。俺はブラシの前を右手で掴む。そのまま、刀を鬼の首筋に突き刺す。俺は蹴り飛ばして、刀を抜く。

 もう二体の鬼は天宮たちが処理してくれたようだ。トイレの陰から施設を覗く、鬼には気づかれていなかった。

「隠れながら行こう」

 施設――管理事務所らしき建物は、一階は空洞でトンネルのように道が先に続いている。俺たちは建物の左側から回り込んだ。なるべく音を立てずに慎重に歩みを進める。

 管理事務所の左側奥の草木の陰から、覗くとそこには鬼たちが集まっていた。背丈が高い大鬼の姿もある。鬼たちは円状に座っていた。素通りは難しそうだ。

 不意に一体の鬼がこちらに来た。

 不明瞭の声を出して、こちらを指さす。

「どうする?」

 天宮が震える声で訊いてきた。

「一気にやるぞ!」

 俺たちは管理事務所の陰から躍り出た。俺は刀を投げた。それは大鬼に突き刺さり倒れた。すぐさま、テレポートで刀を回収した。

 残った鬼は六体ほど、どの個体も武器を持っている。俺は手前にいるワイシャツと制服のズボンを着た鬼に刀を振るった。鬼は剣で対応しようとしたが、刀が剣に当たる瞬間、重くする。剣がはじき飛び、そのまま首を狙った。

 これで、二体目。

 後方にいた鬼の目は黄色に光っていた。日本の鎧を付けている。俺は後方に下がり近づいてきた。鬼の背後に飛んで素早く刀を振るったが、兜に引っかかり、致命傷からずれる。鬼の刀が振られる。俺は刀で対応した。刀と刀がぶつかり、鍔迫り合いとなる。

 力は向こうの方が上手だった。刀が跳ねのけられ、俺は思わずバックステップで距離を取る。

 後方にいた鬼がナイフを投げてきた。右手でぎりぎりのところを掴む。事前に浅井さんたちの話を聞いていたおかげだ。右手に傷がつくが、そのまま、右手でナイフを質量を込めて投げた。それは後方の鬼の首を貫通した。

 これで三体目だ。

 チラッと横を見ると、白浜が重力操作で鬼の動きを止めて、天宮が杖を突きだして、鬼の頸動脈を切る連携をしていた。

 コツンと何かが落ちる音が聞こえた。

「施設から何か投げられています!」

 白浜の声がした。素早く、後ろを見上げると、施設の窓が開いていて、そこから鬼が何かを投げつけていた。道路には石が転がっていた。

 黄色い目の鎧の鬼の攻撃を刀で受け流しながら、

「気を付けろ、石だ!」

 俺はそう叫び、再び、鎧の鬼と対面した。

 質量を込めた一撃を加えるが、鬼は刀を放さない。

 コツンと鈍い音が聞こえた。布がすれる音がする。見れば天宮が倒れていた。

「天宮!」

 天宮は意識がなかった。近くには石が落ちている。後ろを見れば、目から血を吹き出した大鬼が起き上がろうとしていた。

 白浜が足を踏んで重力をかけるが、大鬼は倒れない。そればかりか、道路標識を手ぶらの白浜に振るった。俺はとっさに鎧の鬼に思い切り刀を振るい体制を崩させると、白浜の前に出て、刀で受け止めた。手が痺れる。なんて力だよ。

「施設から、鬼が来ます」

 白浜の声は震えていた。絶望的な状態だった。大鬼の道路標識が再びこちらに向かってきた。俺は倒れている天宮の前に立って、刀を振るった。同時に質量をかける。

 大鬼の道路標識と俺の刀が当たった。気力をそぎ落とすようなしびれが手にかかった。

 大鬼は再度、道路標識を振るってきた。俺も全身全霊で質量を込めて刀を振るう。衝撃が再び襲った。思わず刀を落としそうになるが、俺は気迫で何とか持ちこたえた。

 大鬼はなぜか頭を抑えていた。石か? 助かった。俺は出来た隙に思い切り、質量を込めた刀を足に振るう。大鬼が態勢を崩したところで首に刀を突き刺した。

 施設から鬼が下りてきた。チラッと後ろを見ると、白浜がぎりぎりのところで鎧の鬼の攻撃を防いでいた。俺は鎧の鬼の首に大鬼から抜き去った刀をねじ込んだ。

 近くの鬼に白浜が蹴りを入れていた。

「逃げるぞ!」

 俺はそう言って、天宮の脇と膝を抱えた。意識が少し戻ってきたのか、少し目を開けたが、目はうつろだった。

 俺は軽さを意識しながら走った。

 右手にあるダム湖に面した道をみんなで走る。前方に三体の鬼の姿が見える。白浜が通り過ぎざまに重力操作で鬼を倒していく。

「もう追いかけて来ないみたいです」

 白浜が後ろを見て、額の汗を服で拭いながら言った。

「この先に水遊び広場がある。そこで休憩しよう」

 俺は肩で息をしながら言った。


 東屋に着いたところで、俺は念のため、後ろを見た。鬼はいない。

 白浜は心配そうに天宮を見ていた。

 俺は天宮を下ろしてベンチに寝かせた。天宮は少しして、上体を起こした。頭を手で抑えている。

「大丈夫か?」

 俺は思わず訊いた。

「うん、大丈夫、その、助けてくれて、ありがとう」

 天宮は顔が赤かった。俺は頭を振った。

「頭に、怪我はないですか?」

 白浜が心配そうに訊いた。天宮は自分の頭に手を当てていた。手は白く光っている。

「うん、外傷はないけど、脳震盪だと思う」

「病院に連れていく!」

 俺が言うと、天宮は頭を振った。

「大丈夫! 少し安静にできれば、ここで治療するから」

 どうすると言ったように白浜がこちらを見てきた。

「治療で本当に治るのか?」

「うん、意識が消失した場合、本来は一週間くらい安静が必要なんだけど、能力の治療によって十五分くらいで済むわ」

「わかった。ここで休憩して、先に進むけど、何か異変を感じたらすぐに教えてくれ!」

 天宮は頷いた。

「危なかったですね」

 白浜が安堵したのかホッと息をつく。本当にそうだ。

 俺は周囲を見た。自然に囲まれた小川になっている。

「湧き水だな」

 上流を見れば、斜面から綺麗な水が流れていた。

 水があるおかげか辺りは涼しい。俺は湧き水を手ですくい一口飲んでみた。冷たくて口当たりがいい。

 湧き水をペットボトルに汲み、タオルに水を染み込ませて、汗をぬぐった。ひんやりして冷たい。

 白浜は少し下流の方で靴と靴下を脱ぎ水に足を付けて涼んでいた。

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