人生やり直して復讐するってよ。
@namatyu
第1話:無念無惨
1945年の8月6日。
第二次世界大戦末期—―日本の広島県に核爆弾が落とされた。
その瞬間、この世は地獄に変わった。
高エネルギー爆発によって次元が裂けた。
そして異なる時層から魔物が地球にやってきた。
人類同士の争いから一転、人魔大戦に変わった。
悪夢は七日続いた。一方的な虐殺は七日で十分であった。
その間だけで人類は大幅に数を減らしてしまったのだから。
魔物は七日で消えた。全てではない。
一部ではあるが、カードになったのだ。
それを扱う事で人類は、再び生活圏を取り戻した。
時は2020年。令和2年。
俺はA
俺はダンジョンで生計を立てていた生粋の探索者。
そして此処は、A級
パーティーメンバーは
一人当たり――A級迷宮で同時召喚できる上限数は3。
「天夜叉ッ、ヴァルキリー!前線で時間を稼げ!!
「御意。」
『仰せのままに。』
俺が使役している三体の
決断は早かった。俺は自分を犠牲にすることに決めたのだ。
自殺願望があるわけではない。パーティーメンバーだけでも逃がすためだ。
「逃げろっ!早くッ!!」
「アキ……ぐすっ」
メンバーは黙って、後方へ走り去っていくのが足音で分かった。
最後に俺の名を呼んだのは
「ギシャアアアアアアアアアアアっ!」
目の前には蜂に
何故、そのような恐ろしい名前が付いているのか。
純粋な《数の暴力》が過ぎるのだ。巣には1000体から3000体の成虫—―
これは実力派冒険者が百人集まって倒せる敵だ。
大規模レイドに参加した友が、討伐報告を語ってくれた。巣の内情を知った時は血の気が引いたよ。
遭遇しませんように、なんて神に祈ったりしてたっけな。
その厄災が今、目の前にいる。パーティーメンバーは5人。皆、熟練の冒険者だ。圧倒的に、人数が足りない。勝てるわけがない。幸い、
俺達は、魔物との闘いに明け暮れる日々だった。
後悔しかない。
結婚すべきだった。
A級迷宮に挑戦なんてしなければ良かった。
ギルドマスター達を説き伏せるべきだった。
そうすれば、そもそも死ぬことはなかったのではないか。
そもそもこの罠に引っかかったのは俺達のせいじゃない。
ギルドマスターの
なのに転移罠が此方に作用した。
本来はギルドマスター達が飛ばされる筈だったろう?
どうしてこうなった。
恐らく、身代わり人形でも使ったのだろう。
罠系に引っかかってしまった場合、それを近くの生物(魔物や人間)に擦り付けられるアイテムだ。
そうとしか考えられない。
だが、もう文句を言ってもしょうがない。
ああ、でも許せない。
ギルドマスターのせいで死ぬのかと思うと。
それでも直面すると恐怖には抗えない。
足が震える。
良い歳したおっさんが情けない。
仲間の為に、命を張るんだろ?
そう言い聞かせることで、俺は逃げずに戦い抜けた。
天夜叉は武芸に秀でた亜人系人型魔物。A
二本の薙刀を装備し、無双している。この短時間に50は斬り殺しているか?
ヴァルキリーは三姉妹構成。三体一対のA級神話系人型
しかし、ジリ貧だ。何故か?
理由は簡単。
後方支援がいないから。
召喚する順番が良くなかった。
それだけだが、致命的だった。
使役している魔物がやられると、探索者にもダメージが入る。
精神的にも肉体的にも。
B級下位の
《数の暴力》の恐ろしさの代表格である蜂の全てを捌き切れるわけではないからだ。
俺の身体のあちこちにも切り傷が出来る。
盾と片手剣を持ったヴァルキリーの内の一体がやられた。
切断するような鋭い痛みの後、右足の感覚がなくなった。
実際には切断されてはいないが、使役魔物がやられた際に起きる、ペナルティだ。これで俺自身、走って逃げることは不可能になった。迷宮の恐ろしい点だ。逃がさないとでも言っているかのようだ。
痛みで脳が焼き切れそうになるのを必死にこらえていると、脳内に笑い声が木霊してきた。
「馬鹿だなぁ。あいつら。」
ギルドマスターの声だ。
「身代わり人形で飛ばすとか悪質過ぎ。だが、そこがいい。」
サブギルドマスターだ。
「帰ってこれちゃったらどうするんですか?」
腰巾着のヨータ。
「皆殺しよ。飛ばしたのはバレてんだから。」
冷酷な女—―
「カード!カード!奪おう!奪おう!最近賭けに負けちまって散財したからな~。」
賭け狂いの
「あ、女は?女はどうすんの?
無類の女好き――
「興奮してきたああああああ!」
無類の女好き2—―
「うーわ、きも。でも最後だし、女の幸せ?でも感じさせてあげたら?」
性悪女—―
「さっさと終わらしてよね。アタシもう帰りたいし。」
「ねーアネキ。帰って、一緒にネイルサロンいこ。」
「いいね。いこいこ」
この声は
突如、聞こえてきた声は全員聞き覚えのある声だった。
ギルドマスターとサブギルドマスターの隊の連中だ。
間違いない。間違えようがない。三年。移籍して三年、このゴミ共とやってきた。こいつ等が仕組んだのか?ふざけるな。命からがら逃げ延びた仲間が殺される?そんなことがあっていいものか。違約金を払ってでも脱退出来ていれば……。
後悔が涙となって止めどなく溢れてくる。
どうして、このような醜悪な会話が聞こえてくるのかは分からない。もしかしたら、発動した転移罠が再起動したのかもしれない。罠を通して、仲間だった奴等の会話は筒抜けになっているのかもしれない。
「あ、なんだ。
ギルドマスターが多く生き残り過ぎだろ、と悪態を吐く。
「仕事ですよ。みなさん」
サブギルドマスターが指示をする。
向こうでも蹂躙が、暴虐が、あっという間に、惨禍の悲鳴が、筒抜けになって聞こえてくる。
「やめろぉおおお!やめて!いやああああ!!」
望結の声だ。
「ひどい!どうして、こんなこと!ありえない!なんのために、ぐすっ、いたい、やめて、…………アキごめ。」
遥の声だ。
「ぎゃははっはっははは!!!さいっこう!中出ししてやるよ!殺すからいいよな!!!くーーーーーっきもちいいいいいいい!!!」
「早漏が。」
「あくしゅみぃ。」
辛すぎる。好きな女がレイプされている。俺の魔物は全滅だ。故に指一本動かせず、四肢は引き千切られ、生餌として蜂に身体を貪られている。瀕死なのに嫌っくらい奴等の声が聞こえる。愉しんでいる。俺は憎しみで気がおかしくなった。
おかしくなって、死んだ。
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