第9章 染毒市/汚染された都市
千は、
染毒市は、前は綺麗な水や植物を生かした庭園がおしゃれな都市だった。しかし今の染毒市は水や空気が汚く、空は暗い。
「ここの空気は、ひどい臭いがするなぁ」
その汚染のせいで、染毒市には人が全くいない。千が辺りを見渡しても、人は発見できない。
「魔機使いでなければ、ここには住めないね」
千はデバイスの地図を頼りに、染毒隊本部へとやって来る。染毒隊本部は石造りの建物だ。
本部内のメインルームには、女性がいた。女性はゴシックなドレスを着ている。
「私は、
「僕は千。各都市を旅しているんだ。よろしく」
千と芽園は、握手する。
「染毒市は綺麗って聞いたけど、今の染毒市は反対だね」
「そうよ。染毒市は、暗魔によって汚染されたわ。私は、そんな染毒市を綺麗にしているの」
千は拳を握り、口を開く。
「僕も、芽園に協力するよ。一緒に染毒市を綺麗にしよう」
「そうね。1人でも協力してくれるのは、ありがたいわ」
芽園は微笑み、デバイスで地図を表示する。地図のピンは沼を差している。
「まずは、沼の浄化から始めるわ。ここに沼を汚染している暗魔がいるの」
芽園はそう言って、千を沼へと連れてくる。
沼は毒沼と化しており、中央にはザリガニの暗魔がいる。ザリガニの暗魔は毒液を吐き出し、沼を汚染している。
千は魔法使いの魔機を、芽園は青バラの魔機を具現化する。青バラの魔機は、青バラをモチーフとした鞭である。
千は魔法使いの魔機で魔法を飛ばす。
ザリガニの暗魔は毒液を飛ばすが、千達は毒液をよける。
千達は魔波を飛ばして、ザリガニの暗魔を倒す。ザリガニの暗魔は消滅する。
芽園は青バラを具現化し、沼に刺す。すると毒沼は元の沼に戻った。
次は、廃墟一帯の空気を浄化する。その為千達は廃墟へとやって来た。
廃墟の周りの空気は、色やにおいが濃い。
「この廃墟の中に、空気を汚染している暗魔がいるわ。向かいましょう」
千達は、廃墟へ入る。
廃墟の中はところどころ汚れや壊れた部分がある。
千達が入ると、入口のドアが閉まる。
「きゃっ!」
驚いた芽園が声を出す。
千達が再び前を見ると、中にある椅子やロウソクが勝手に浮かんでいる。
「まるでお化け屋敷だなぁ」
千はつぶやく。
ダイニングに入ると、食器やフォークが勝手に浮かぶ。そして、千達に向かって飛んでくる。千達は魔機を具現化し、叩き落とす。そうして、千達は廃墟を探索する。
廃墟の探索は、最上階を残すのみとなった。最上階へ登る途中にも、最上階の床がきしむ音が聞こえてくる。
千達は最上階へと上った。最上階には、クモの暗魔と魔機使いがいる。クモの暗魔は息を吐き、空気を汚染している。魔機使いは、フリルの付いた鎧を着ている。
「誰だ?」
「わらわの名はクイーン。最近、染毒市の暗魔が倒されていてのう。わらわは暗魔を守る為に、ここにいるのじゃ」
クイーンが装備している魔機は、蝶がモチーフのレイピア。
クモの暗魔は糸で物を吊る。
芽園はうなずく。
「不可思議現象は、この暗魔の仕業だったのね」
「来るよ!」
クモの暗魔は吊った物をぶつけてくる。千は糸を切ってかわす。芽園は叩き、吊られた物をクモの暗魔にぶつける。
クイーンは千達を止めようと斬りかかる。千達はそれをかわしながら、クモの暗魔を攻撃し、倒す。クモの暗魔は消滅する。
「まだ次がある……」
クイーンは蝶となり、去る。
芽園は青バラを具現化し、床に刺す。すると、空気が綺麗になり、見通しが良くなる。
夜遅く、千はメインルームの前を通る。メインルームは電気が付いている。
千は中へ入る。すると芽園は、パソコンを操作している。
「こんな時間まで、何をしているの?」
芽園はパソコンに向かいながら答える。
「染毒市の汚染源を調べているのよ」
「大変だね。染毒隊の、他の隊員はいないの?」
「隊員は私1人だけ。染毒隊の他の隊員は、流れ星に買収されたのよ」
芽園は歯を食いしばっている。
「流れ星は聞いた事があるよ。魔機のメーカーの1つだね。でも、買収なんて……」
「知らないわ。お金が欲しかったんじゃないかしら」
芽園は、続けて言う。
「私は汚れた物が嫌いなの。だから汚職も、お金も嫌いよ。汚れた染毒市も嫌だから、私は染毒市を綺麗にしているわ」
「そっか……。それが芽園の戦う理由。そして染毒隊は全員……」
芽園は、ゆっくりと口を開く。
「正確に言うとね、1人だけ残ってくれたわ。でもその人は、暗魔になった。その名は、クイーン」
千は、目を見開く。
「だから私は、彼女も助けたい」
芽園は、解析結果をデバイスの地図に反映させる。地図のピンが示している場所は、植物園。
「解析結果が出たわ。どうやら植物園にいる暗魔が、土壌を汚染しているみたい。明日、植物園へ行きましょう」
「うん、一刻も早く汚染を止めなくちゃ」
そう聞くと、芽園はパソコンを閉じてメインルームを出た。
翌日、千達は植物園に来た。
植物園の植物は枯れていて、土は紫色になっている。
植物園には、クイーンがいる。クイーンは蝶の魔機を地面に刺し、土壌を汚染している。
「クイーン、汚染をやめろ!」
千は叫ぶ。
「ふむ、確かにわらわは暗魔を守り、暗魔と共に染毒市を汚染している。じゃが、染毒市の汚染は、王の剣の意思じゃ」
「王の剣が……?」
千は戸惑いの色を見せる。
「全ての王の剣は暗魔の他に、土地のエネルギーから出来ておる。なので流れ星の強引な都市開発によって染毒市のエネルギーが暴走。王の剣は自らの意思で染毒市を人が住めない土地に変えてしまったのじゃ」
クイーンは続けて話す。
「王の剣は誰も制御できておらん。もちろん流れ星も。しかし流れ星は、これこそ選ばれた者だけを残す剣に相応しいと目をつけたのじゃ。具体的には、王の剣の力を利用する事にしたのじゃ」
「流れ星の社屋も、染毒市にあるものね」
芽園が補足する。
「それでも、僕は暗魔を、そして王の剣を止める!」
「私もそのつもりよ」
千は宣言し、芽園はそれに同意する。
「邪魔するそなた達は、わらわが倒す!」
クイーンは蝶の魔機と蜂の魔機を具現化する。蜂の魔機は、蜂をモチーフとしたレイピアだ。
「2本も魔機を使える!?」
目を開く千。
「わらわは暗魔だからこそ、このような芸当ができるのじゃ。行け、アリの暗魔達よ!」
クイーンはアリの暗魔を数体召喚する。千達は魔機を具現化し、アリの暗魔らと戦い、倒す。
クイーンは蝶の魔機で斬り、蜂の魔機で刺す。千達はクイーンの動きをよく見て、反撃する。そうして、千達は苦戦しながらも、クイーンに勝つ。
千は蝶の魔機の石を、芽園は蜂の魔機の石を破壊する。
芽園は青バラを刺して、土壌を元に戻す。
「おのれ……」
クイーンは走って逃げる。千達は、後を追う。
「王の剣!」
クイーンが逃げた先には、王の剣があった。王の剣は浮いていて、禍々しい瘴気を放っている。
クイーンは王の剣に祈る。
「王の剣よ。わらわに更なる力を、そして美貌を保つ力を、与えるのじゃ!」
するとクイーンの足元に黒い影ができ、クイーンは呑み込まれていく。
「嫌じゃ! わらわは死にとうない!」
クイーンが完全に呑み込まれると、黒い影は消える。
王の剣の元に、男性が歩いて来る。男性は防護服を着ている。
「所詮、主もこの程度か」
「誰?」
「私の名は
優人は腕に付けているデバイスで、この星の上空を映す。そこには隕石がこの星に迫ってきている様子が映されている。
「今染毒市に隕石が迫ってきている。隕石が衝突すれば、世界は闇に包まれる」
「なんでそんな事を!」
千は叫ぶ。
「我々流れ星の望みは選ばれた人間のみを残し、選ばれなかった人間を消すこと。そのためにキャンバスの力で隕石を呼んだのだ」
すると、覚史が駆け付ける。
「覚史!」
「千、久しぶりだね」
千と覚史は笑う。
「あなたは?」
「僕は覚史。流れ星を追っていてね、ここにたどり着いたんだ。ここには流れ星の社長がいる。こんなにいい機会はない」
覚史は、芽園に説明した。
「覚史か。お前は、我々の望みに賛同していると思っていたが」
優人は、覚史に話しかける。
「琳に会う為に賛同していたけど、もうその必要も無い」
「そうか。ならばこの者達と共に始末する。行け、王の剣よ!」
優人が手を掲げると、王の剣は千達の前に立ちふさがる。
「王の剣が、自らの意思で、命令を聞いた!?」
「優人社長は魔機使いではないと聞いていたけど、王の剣を従わせられるとはね」
「ここでこの剣を倒せば、汚染の原因も倒せる! こんないい機会は無いわ!」
千達は、魔機を具現化する。
王の剣はアリの暗魔を召喚する。アリの暗魔らは、禍々しい気をまとっている。
禍々しいアリの暗魔らは、通常よりも力が強い。その為、千達は劣勢を強いられる。
「もし汚染が暗魔と同じなら、この手が使えるはずね!」
芽園はアリの暗魔らに青バラを刺す。アリの暗魔らは浄化され、元のアリの暗魔になる。
「今だ!」
千と覚史は、アリの暗魔らを倒す。
王の剣はあらゆる方向に魔波を飛ばす。千達はかわすのに精一杯で、王の剣に近付けない。
「どうしたら……」
すると、覚史は冠の力を使う。覚史は王冠をかぶり、骨でできたガウンを着る。
「何なの? その力は」
「これが冠。暗魔の王の力を身にまとうのさ」
覚史は色々な方向に階路を伸ばす。
「この上を進めば、王の剣にたどり着ける!」
千はその上を走り、魔波をかわす。芽園は千の真似をする。
覚史はティラノサウルスの化石を召喚し、王の剣に向けて突進させる。王の剣はひるみ、その隙に千が王の剣の石を破壊する。瘴気は消え、王の剣は落ちる。
「隕石はどうなったかな……?」
千はデバイスで上空を映す。隕石は消えている。
芽園は王の剣を拾う。
「我々流れ星の元にはもう王の剣が無い。これ以上、我々の計画を進めるのは不可能だ。故に流れ星は、解散する」
優人は、うなだれる。
「流れ星の事は、任せてくれ」
「分かった」
千と芽園は、覚史と別れる。
千達は、本部までの道を歩いている。その途中で、夜になる。夜になると、王の剣の石は再生した。
「私は、染毒市を元の美しい都市に戻す。そのため復興に取り組む。そして人が戻ってくるようにするわ。千はどうするの?」
「僕は、次の王の剣を探しに行くよ」
「では、ここでお別れね」
すると芽園が持っていた王の剣が浮かぶ。王の剣は空間を切り開き、風が吹く丘へとつなげる。
「また会いましょう」
「そうだね。今度は綺麗な染毒市になっているといいなぁ」
千は芽園と別れ、風が吹く丘へと向かった。
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