第3話
風が強かった。地上ではそれほどでもないが、空では獣が唸るような音を立てている。
窓を開けっ放しにしていたせいで、風を受けたカーテンがまるで船の帆の様に大きく広がり、カーテンレールを軋ませている。
「
教壇に立っていた講師の
馬渕はすぐさま席を立ち上がり、風を受けて目一杯広がったカーテンを避けながら窓ガラスを閉めにいった。
風が入ってこなくなったと同時に、教室内には蒸し暑い空気が立ち込めはじめたが、それについて誰も文句を言うことは無かった。
「――というオペレーティングシステムが導入されたことによって、機人は新たなるステージに進むことが出来るようになった」
赤城はパイプ椅子に腰を下ろしながら、教科書の内容を読み進めていく。
ここでは授業をまじめに聞かない人間はいない。学生時代ならともかく、社会人になってから勉強するということは、会社から給料を貰いながら学べるという又と無いチャンスを貰っているからである。もし、後々に行われるテストに合格しなければ、会社からなにを言われるかわかったものではない。そういうプレッシャーもあってか、授業を真剣に聞かない人間などは誰一人としていなかった。
重工機人は、いまや建設現場や港湾作業の現場では欠かせない存在となっており、作業現場で重工機人の姿を目にしないことはない。重工機人は、人間のおよそ四倍の力を発揮することができる。いままでであればフォークリフトなどを使って運んでいた物資なども、重工機人であれば足場が平らでなくとも運ぶことが出来るため重宝されていた。
対する装甲機人はといえば、街中などで目にすることはほとんど無かった。警視庁に新設された特殊機動隊の機人部隊は、配備された装甲機人がたったの四体だけという状態であるし、他の道府県においては各二体程度しか配備されていないのが現状であった。これには警察庁による機人犯罪への想定の甘さなどが近年国会で指摘されてはいるが、一機数億という警察用装甲機人の生産を可能とする国家予算が下りてこないという現実もそこにはあったりしている。
そんな警察とは裏腹に、自衛隊が所有する装甲機人は数百体に及んでいた。これには数年前に起きたアメリカ南部での戦闘に国連平和維持軍として自衛隊が参戦したことをきっかけに、国防には装甲機人が必要だという世論が高まったためであった。いまでは日本の軍事用装甲機人は世界一だといわれるほどの実力があり、他国へのけん制にも繋がっているのであった。
そして、警察や自衛隊と同じく、装甲機人の所有を認められているのが、国から指定を受けた特定の警備会社である。これには特殊な事情が絡んでいた。前記もしたように警察には装甲機人の配備が少ないのが現状である。そこをカバーするために、民間企業である警備会社が装甲機人を持ち、対機人の事案処理を行っているのである。国から指定を受けた特定の警備会社というのも、実際は警察の別会社のような存在ばかりであり、基本的には警察OBが社長や幹部を務めているというパターンが多い。このような警備会社は、重工機人を扱っている建設業者や港湾管理会社などと契約をしており、重工機人が何らかの原因で暴走などした際に連絡を受けて、そのトラブルの処理を行っている。こういった警備会社があるお陰で、警察が装甲機人を出動させる事案というものはごく限られたものとなっており、現在の装甲機人の数でもやっていけているというカラクリでもあった。
「――――などの認証を越えてはじめて、OSの起動を可能とするのである」
テキストのページが終わるところまで読み終えたとき、赤城は左腕にしている腕時計へと目を落とした。それと同時に、授業の終了を知らせるチャイムが鳴る。いつも通り、ぴったりに終わった。赤城は満足していた。教科書を閉じると、次回の講義時間を説明して、教室を出た。
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