第181話

「どうですか?」

「怖い」


 全てのモンスターを蹴散らした宮本さんの第一声に対して、俺は即答した。


:草

:確かにちょっと怖い

:なんで?

:かっこいいの間違いだろ

:ちょっとかっこいいけど、普通に見たら怖いからね?


 いや、鎧だけ纏っている姿はかっこいいかもしれないけど、片手に斧を持った状態でバラバラにされたブリキ兵隊が足元に転がっているのを見たら、普通に怖いと思うだろ。


「魔力で生み出した鎧を纏う魔法、ですか」

「はい。普通の魔法は使えないですけど、それならいっそのこと魔力を極限まで纏ってしまえばいいと思って」

「うーん、違いがわからない」


 俺にはどっちもできるので宮本さんの中にあるできるできないの基準で話されてもなにもわからない。ただ、富山ダンジョンで見た獅子のように鎧を纏う魔法を使えるようになったのはデカいと思う。

 実際、鎧を纏ってからの宮本さんはブリキ兵の攻撃なんて全く気にすることもなく、その身で受けながら斧を振り回して丁寧に潰していた。深層のモンスターの攻撃を受けても全く怯むこともなく突き進む斧を持った鎧の戦士……バーサーカーかな?


「ちょっと自信が出てきました。このまま進んでみましょうか」

「まぁ……いいですけど」


 流石に困惑してるぞ。


 宣言通り、深層をしばらく進んでいるのだが……宮本さんの勢いが止まらない。


「ふぅ……この程度なら」


 深層のモンスターから攻撃を受けて、この程度とか呟いちゃうぐらいに凶暴になった宮本さんは、斧の一振りでモンスターの首を落した。こちらに向かって飛んできたリザードンマンっぽいモンスターの首を見て、ちょっと引いた。


:うーん……この

:やっぱり如月君は関わった人間を怪物にする能力を持っている

:新たなステージへと上ったと思えばいいだろ

:EXのレベルにまでは到達してない……のかな?

:流石にEXを名乗れるレベルではないと思う


 うん……確かに、規格外かって言われるとどうでもないんだろうけど、普通に探索者と比べて遥か高みに到達したと言っても過言ではないね。少なくとも、深層のモンスターが攻撃してきても全く動かずに鎧で受け止める人間はいないと思うからね、

 下手なタンクよりタンクしてるよ、今の宮本さん。


「どうですか? これでどこの深層に行っても通用しますか?」

「まぁ……環境はともかく、モンスター相手ならなんとかなるんじゃないですかね。正直、硬すぎてちょっと引いてますけど」


 外骨格のように魔力で身体を覆い、それに形をつけることで生み出している、のかな? やろうと思えば俺だってできるだろうけど、そこまで防御力を高める意味はないと思う。それに、多分だけど俺がやってもあそこまで硬くなったりはしない。

 恐らくだけど、宮本さんは他人よりも多く魔力を体内で循環させることが可能なんだと思う。徐々に徐々にと体内で循環させていた魔力の量が、高くなっていたのは俺も理解していた。でも、ある一定のラインから宮本さんはその魔力を体外に放出して……自分の周囲に固めたのだ。言わば、自身の認識による身体の拡張。意識してやっている訳ではないだろうが、宮本さんは自分の身体の外にもう一つ身体が存在すると定義して、そこに魔力を流したのだ。それが、鎧となっただけ。


「この身体から溢れる万能感……初めて魔力を体内で循環させた時に似ていますね。今は、その比じゃない実力を手にした訳ですけど」

「恐ろしいですねー……」


:お前が言うな

:お前もどうせできるだろ

:如月君は自分のことを考えて

:どうせこいつは怪物なんだから考えるだけ無駄だぞ


 みんな酷いな。

 獅子があの魔法を使っていた時、七海さんは弱点を見つけていた。それは高速移動時や魔力を利用した攻撃時に、どうしても鎧の硬度が墜ちると言うものだ。それは獅子の魔力量によるものなのか、結論が出る前に決着はついていたけど……どうやらそうだったらしい。だって、宮本さんにはその欠点が見当たらないんだから。

 獅子と同じ魔法を使いながら全く別の結果になっている理由は、至極簡単な理由である。獅子はその身を守るために魔力を使って鎧を纏っていたが、宮本さんは余った魔力で鎧を生み出しているにすぎないからな。身体能力を強化する分の魔力を鎧に回した獅子と、身体能力を極限まで強化しながらまだ魔力が余っていたので鎧を生成した宮本さん。結果が違うのは当たり前だ。


「これからも色々と教えてくださいね、如月さん」

「お、俺が教えられることなんてもうない気もしますけど……頑張ります」


 他になんかあった?


:まぁ、確かにここまで強くなると習うこともあんまりないんじゃないかな

:カナコンちゃんもついに免許皆伝か

:いや、深層でここまで暴れられる人間は免許皆伝で当たり前だろ

:これからは単独での配信が……元々多かったわ

:草

:逆に、最近はアサガオちゃんが如月君との配信ばっかりしてるんだよなぁ

:それは仕方ない、実質カップルチャンネルや

:作らないって言ってたのにwwww

:作っては無いからな


 笑顔で両手斧を持ちながら漆黒の鎧に身を包んだ宮本さん……やっぱり怖いよね。



 強くなることへの手がかり……と言うか、一つの答えを見つけ出したので、宮本さんを引っ張って地上まで帰ってきた。もっと奥深くまで行きたかったって感じの目をされたけど、それは自分でSランクになってから行ってくれ。

 相も変わらず人がいない八王子ダンジョンから、2人で電車に揺られながら事務所に帰ってきたら、無言でにこやかな笑みを浮かべている七海さんが出迎えてくれた。


「……」

「た、ただいま戻りました」

「戻りました」


 七海さんににっこりとした笑顔を向けながら、帰ってきたことを告げた宮本さんに俺は視線を向けられなかった。助けを求めて事務所で作業していた社員たちに目を向けると、全員からさっと視線を逸らされた。こ、この社員共……全員一瞬で社長のことを見捨てやがった。


「色々と聞きたいことができちゃったから、私の司君借りるね」

「はい、別に構いませんよ……私たちの、社長ですから」


 七海さんに引っ張られていく俺を助けようとする社員は1人もいない。むしろ、関わり合いになりたくないからこっちを見るなって空気すらも感じる。なんてことだ……俺はもう駄目かもしれない。


「自業自得って言えば……自業自得なのかな」


 後で覚えておけよ、パンダ。

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