第154話
「そろそろダンジョン攻略に乗り出そうかなと」
「え、どこの?」
「それはまだ決めてないですけど」
昼飯を食べながら雑談目的で今後のことを喋ったら、弁当をつついていた朝川さんがすぐに反応してきた。
「最近は社長としての仕事もあったりして、国からの依頼も受けたり断ったりで半々って感じなんですけど、そろそろ成果というか……なにかしらの動きは見せておきたいなと」
「え、でも司君って正直ありえないぐらいにダンジョン探索者として活躍してるよね」
ありえないぐらいの活躍って何だろう。よくわからないけど、俺はここ1年で名古屋ダンジョンと札幌ダンジョンしか攻略してないぞ。全体の数から考えると滅茶苦茶攻略している風に聞こえるけど、実際に数字で見るとたったの2つだ。
ダンジョンを2つ攻略ってのをいいと捉えるのか、悪いと捉えるのかは人によるとしか言いようがないんだが……俺としては今年も幾つかのダンジョンを攻略していきたいと思っている。
「会社の方は新しく加わったバーチャル配信者のお二人が活躍してくれているので、全然大丈夫だとは思うんだけど……次のダンジョン配信者を募集する前にインパクトが強いことをしておきたいなと」
「うーん……司君はインパクトが好きだね。地球でも滅ぼすの?」
ジャイアントインパクト説か? いや、全く意味が分からないこと言わないでくれ。
「で、本題なんですけど……朝川さんも一緒に行きませんか? ダンジョン攻略」
「…………え?」
コンビニのおにぎりを口にしてからそう告げたら、朝川さんが信じられないものを見るような目でこちらを見つめたまま固まってしまった。深層一緒に攻略したいとか、色々と言ってたと思うけど……嫌だったかな?
「いいのっ!?」
「おわ」
急に立ち上がった朝川さんに両肩を捕まえれてしまった。急に物音をたてて立ち上がった朝川さんに反応して、事務所に来ていた人がなんだなんだと視線を向けてきたが、朝川さんが俺の肩を掴んでいるのを見ていつものことかと言わんばかりに呆れたような視線だけ向けてそのまま無視された。いや、いつもはこんなことしてないんですけどね。
「深層の攻略ってことは本気なんだよね!? どこに連れてってくれるの!?」
「いや、だからまだ考えている最中でして……そんなに俺と深層行きたいんですか?」
「うん!」
首が取れるのではないかと思うぐらいぶんぶんと縦に振る朝川さんに、思わず苦笑いが浮かんでしまった。
まぁ……流石にここまで直球で好意示されるとなんとなく……申し訳ない気持ちになってくると言うか。だって朝川さんは、多分俺がそういうことを考えていないから黙っていてくれるだけで……俺の行動が原因で彼女は前に進めていないんじゃないかと思っている。
「……あ」
「え、どうしたの?」
攻略するダンジョン……良さそうな場所があるな。
「攻略するダンジョンですけど、鎌倉ダンジョンとかどうですか? 東京から近いですし……それに、色々と国としても攻略しておいた方がいいダンジョンだと思うんですよね」
過去にダンジョンの入口を破壊してモンスターが大量に外へと飛び出したことがある、日本で唯一のダンジョンである鎌倉ダンジョン。当時若手でブイブイ言わせていた婆ちゃんが結構な数を駆除したらしいけど、巧みに隠れたりしていたせいで完全に駆除するまでに数十年の歳月を要した場所。
あそこには日本政府も苦い思い出しかないだろう。さっさと攻略してやれば、そんなことを考える必要もないだろう。それに……婆ちゃんが攻略しなかったダンジョンを、一応は弟子である俺が攻略するってのも面白そうだ。
「鎌倉ダンジョンって、モンスターが外に出た?」
「そうです。今はそんなことないですけど……あそこは他のダンジョンより厳重に管理されてますからね」
あれはたまたま運が悪く条件が重なったからモンスターが飛び出していっただけで、鎌倉ダンジョンだからモンスターがダンジョンから飛び出す訳じゃない。条件が揃えば、当然渋谷ダンジョンからだってモンスターが湧き出すだろう。まぁ……日本では鎌倉ダンジョンだけしかしたことないけど。
世界的に見えれば、ダンジョンが現れた直後は結構な国でモンスターが外に出てくるような事故もあったみたいだけど、今は基本的に全て駆除されているのだとか。まぁ……絶滅種がどこかで生きているのかもって話と同様に、モンスターも人間が知らない場所で生きている可能性はあるけど。
「そう言えば、鎌倉ダンジョンって行ったことないかも。近いけど」
「そうですね……結構、渋谷ダンジョンの方が儲かるからって軽視されているダンジョンではありますが、八王子ダンジョンと比べると遥かにマシなダンジョンですよ」
儲けって点だけ見れば。
「内部も複雑な構造になっていませんし、そこまで過酷な環境ってこともないですから……初めてのまともな深層攻略には丁度いいダンジョンかもしれません」
「……そっか、私も頑張るよ!」
じゃあ決まりだな。ただ、ダンジョンの最下層を目指すとなるとそれなりの準備が必要なのは確かだ。実際、鎌倉ダンジョンの最高到達階層は70で止まっているが、100階層を超えて更に下がある可能性だってある訳だし。まぁ、人類が発見したダンジョンで今のところ最も深いのは渋谷ダンジョンなんだけども。
「ふっふっふ……私、肩慣らしに明日は渋谷の深層まで行こうかな」
「ほどほどにしておいてくださいね。怪我でもされたら困りますし」
「治せるでしょ?」
「肉体の怪我は簡単に治せても、心の傷までは治せませんから……無茶して深く潜って、恐怖心に囚われて戦えませんなんてやめてくださいね」
「そんな無茶はしないよ。司君じゃないんだし」
俺がいつダンジョン探索で無茶したよ。俺はこの上なく慎重にダンジョン探索を進めるタイプだろ。常に状況に有利な式神を選択して安全を確保して、攻める時は一気に相手の息の根が止まるまで攻める。これが俺の考える安全なダンジョン探索だ。
「……社長、鎌倉ダンジョンの攻略するって本気ですか?」
「ん? 最下層まで行ってくるだけですよ」
「それが既に頭おかしいんですけどね」
おかしいとはなんだ。事務員さんの毒舌には少しずつ慣れて来たけど、面と向かって頭おかしいとか言われると傷つくんだからな。
「くれぐれも、放送事故なんてしないでくださいよ」
「放送事故……手足がもげるとか?」
「絶対にやめてください」
冗談だって……そんな本気な目をしないでくれ。
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