第152話
『どーもー、アイリスでーす』
:可愛い
:もう可愛い
:だるだる挨拶好き
今日はダンジョンに潜ることもなく事務所のパソコンで他人の配信を見ている。
シンプルにアイリスと名乗ったバーチャル配信者は……先日俺が面接した調月真央、その人である。コメント欄を見る感じ、どうやら普段ダンジョン配信を見ている人たちとはまた違った層が多めに来ているようだ。まぁ、配信し始めてまだ少ししか経ってないんだから今後どうなるのかわからないけど、今のところあんまりアイドルとしての処女性はそこまで求められていなさそうに見える。
画面の中では金髪碧眼の美少女……簡単に言うと不思議の国のアリスをイメージしたようなこてこてなお姫様風の少女が動いている。モーションキャプチャーとかは導入してないし、簡単なLive2Dしかないのでただ2Dの絵が喋っているような形だけど、声の感じですごいダウナーなのはわかる。というか、面接している俺だからわかるけど普通に地声のままだらだら喋っているだけだ。
『今日はねー……なんと、社長に酒をご馳走してもらったので、それを飲みながらゲームしたいと思ってまーす』
:まさかの
:まだバーチャル配信者になって数日なのに酒飲み配信するとかすごいなwww
:社長の奢りなのか
:社長、まだ酒飲めないよね?
:社長はね
俺は買ってないから。調月さんのマネージャーさんとして就職した方に、なにかプレゼントって形でお祝いの品を渡したいんですけどなにがいいですかねって言ったら、速攻で酒って返ってきたので買ってきた貰ったんだ。だから、俺の奢りではあるけど俺が買った訳じゃないからな?
「社長、今いいですか……なに見てるんですか?」
「調月さんの配信を」
「あぁ……よくそうして社員の配信を見てますけど、そういうの毎回ちゃんと監視してるんですか?」
「別に……ただ俺が、好きで見てるだけですよ」
「……趣味人間ですね」
まぁ、それは否定しない。朝川さんの修行に付き合ったのも、俺がダンジョン配信をしているのも、ダンジョン配信用の企業を立ち上げてのも、この企業にバーチャル配信者を増やしたのも……全部俺の趣味みたいなもんだ。
会社を立ち上げるなら当然、売り上げのことも考えてはいたけど、それ以上にみんなのやりたいことをやらせるのがいいんだ。その先に俺の趣味があるんだからな。
「失礼しまーすっ!」
「……桐生さん、もう少し静かに入ってきてください」
「あ、すいません!」
今入ってきた声の大きな女性は、
調月さんとは正反対と言える明るいキャラで、完全な陽キャみたいなノリをしているパリピ女子だ。いや、年齢的に女子って言うのか?
面接で応対した時に、冷静に考えてみてもearly birdにこういう完全な明るいお馬鹿キャラっていなかったなって思ったのが気になったきっかけだ。天王寺さんはギャルみたいな明るさの中に、見え隠れする知性がお馬鹿キャラを名乗れなくなっている。それを踏まえて桐生さんは……はっきり言って頭は弱い。
「あ、真央ちゃんの配信見てるんですか!?」
「まぁ……それで、桐生さんは何の用件ですか?」
「え? ただ事務所に用があったから……社長に挨拶して行こうかなーと」
「……別に必要ないんですけどね」
頭は弱いが……歌は滅茶苦茶上手い。どれくらいに上手いかって言うと、なんで動画配信サイトで歌ってみたを投稿とか、歌手を目指していないんだろうって思うぐらいには歌が上手かった。ゲームもそれなりに好きだと言うので、これ以上の人材はいないだろうと合格にした訳だ。
「いやぁ、でも真央ちゃん凄いですよね! 私、ゲーム下手くそで」
「それが逆に視聴者に受けてるんですから、いいんじゃないですか?」
桐生さんと調月さんは狙った訳でもないのに同い年だった。だからなのか、あの明らかに陰キャですよってオーラを出している調月さんと一瞬で友達になっていた。やはり真の陽キャってのは誰とでも仲良くなることができる万能人のことを呼ぶんだね。陰キャは友達なんてできないのに。
で、肝心の視聴者からの反応なんだけども……思ったより好評である。というのも、early birdはあくまでダンジョン配信の企業であると評価していた人たちから、思ったよりまともなバーチャル配信者が出てきたと高評価を貰っているのだ。でも、SNSでダンジョン配信してるイカレた連中からは考えられない、ごく普通のバーチャル配信者が出て来て驚いてるって言った奴は許さんからな。社長がイカレてるのにまともに動いてて驚いたって言ってた奴は出会ったら殴る自信がある。
「社長たちのお陰で私と真央ちゃんの伸びも順調だし、ちゃんと会社に貢献しますよ!」
「いや、別にしばらくはそんなこと考えずに自由にしてても……」
「期待しててくださいね!」
「社長、無駄ですよ」
うん、そうだね。
「と、そう言えばそっちの用件は聞いていませんでしたね」
「そうでしたね……渋谷ダンジョンの下層の後編、その紹介動画が完成しましたよ、という話です」
「あ、そうなんですね」
思ったより早かったな。なんか、資料の量が多すぎて動画時間が長くなりすぎて、みたいなことを愚痴っていたのは聞いてたんだけど……どうにか短く纏められたのかな。
「ふふ……社長は10分ぐらいでまとめると言っていましたが、完成した動画は34分でした」
「……もう無理?」
「無理です。正直、更に2つに分けてもいいんじゃないかと思うぐらいです」
そっかぁ……そうなんだね。
「うーん……いっそのこと、1時間以内ならいいんじゃないですかね?」
「流石にそこまで伸ばすと視聴数が減るのでは?」
「大丈夫だと思います。情報が正確なら見られますよ」
多分。
まぁ……1回で視聴しきる人はそんなに多くないかもしれないけど、そこは何とかなると思う。今すぐは伸びなくても、話題になればそのうち数字はついてくるさ。
「社長も頑張ってるんですね! 真央ちゃんも頑張ってたし、私も帰って配信します!」
「まぁ……好きにして貰っても大丈夫ですけど」
「はい!」
うーん……バーチャル配信に関してはダンジョン配信と違ってこれってアドバイスがしにくいからな。調月さんと桐生さんに任せきりになってしまっているけど、数字が伸びてるからいいか。今は、ダンジョン紹介動画の方をなんとかしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます