第150話
『どうも……えーっと……こういうのってなに喋ればいいんですかね?』
「いや、まだなんも言ってないです」
『あ、すいません……』
リモートでの面接中なのだが、こう言っては失礼だがピンとくるような人がいない。書類選考ではいいんじゃないかって思った人も、実際に面接しているとなんとなく違うなーみたいな感じで、保留って形になってしまう。そんな中で本日最後の面接相手となっていた女性と通話を繋げたんだけど……なんともマイペースそうな人だ。
『えー……
「はい。では……志望動機とかって言いたい所なんですけど、大体金か知名度なので別にいらないです」
『金っすね』
「言わなくていいです」
面接ってのをもっとちゃんとした方がいいのかもしれないけど、俺はそういう堅苦しい対策してきた話は聞きたくないんだ。俺が確かめたいのはナニカがあると思わせてくれるだけの才能。それを、書類と面接で見ている。事務員の方なら面接も真面目でいいのかもしれないけど……これはバーチャル配信者の面接だ。
「じゃあ率直に聞きますけど、もし自分が所属バーチャル配信者になったらなにがしたいですか?」
『え? ゲームして……投げ銭貰って生きていきたいですね。好きなことやって生きてくのって、やっぱり憧れるじゃないですか』
「そうですね。楽して稼ぐって意味では」
『楽して稼ごうなんてやめておいたほうがいいってよく言われますけど、そもそも金を稼ぐ理由が生きていくためなら、楽して稼いでこそ人間の生活だと思うんすよね』
「一理ありますね」
否定はしない。楽して稼ぐのが悪だって考えは、俺もあんまりわからない。だって金を得てなにかするには時間が必要な訳だろ? その時間はなんとか捻出しようとするんじゃなくて、最初からあった方がいい。具体的に言うと、毎日2時間ぐらいの労働で金を稼ぐのが最適、みたいな。人によると思うけどな。
楽して稼ぐ方法って幾つか世の中にはあると思う。その中でも、もっとも簡単なのは仕事そのものを娯楽としてしまうこと。これなら息抜きをしている延長線上で金が手に入る。これが一番楽だろう。まぁ、そういうのって大体金にするのが難しかったり、仕事をしている間に段々と苦痛にしてしまうかだろうな。
『逆に如月君……社長さんは楽して稼いだりしないの?』
「いや、俺にとっての天職はダンジョン探索者で、それが実質的に趣味になってるんで楽して稼いではいますね」
『え、ダンジョン潜るのって本当に趣味なの? じゃあ無敵じゃん』
「捉え方によっては無敵かもしれないですね」
ダンジョン探索するのは俺にとって趣味みたいなものだって言ったけど、あんまり理解されてないから普段からそうやって言っているだけで……俺にとってダンジョンを探索して魔石を取ってくるのは朝に起きたら歯磨きするのとなにも変わらない。習慣ってだけだ。呼吸のようなものとは言わないが、朝に起きたらなんとなく朝食を食べるのと同じように、なんとなくって理由だけでダンジョンに潜ったりするのだ。これ、婆ちゃんと相沢さんだけならまだしも、神代さんにもおかしいって言われたから基本的には誰にも言わないようにしている。
じゃあ趣味じゃないのかって言われたらそれも違うんだけどね。俺にとってダンジョンってのは結構複雑な位置にあるのだ。
「バーチャル配信者と言えば、時にはリアルのアイドル以上に処女性を求められると思いますけど、そこら辺は大丈夫ですか?」
『え? まぁ……はっきり言ってearly birdのメイン客層を考えると言うほどじゃないかなって』
「確かに」
うちの配信はあんまりそういう雰囲気はない。多分……朝川さんがかなり分かり易く俺にアピールしてたりするせいだってのもあると思うけど、そういう連中は他のところに行ってるかアンチスレに籠っているんだろう。
元々リアルで配信している人が複数いる場所に新しく生えてくるバーチャル配信者なんだから、通常のバーチャル配信者よりも求められるものは違うと思う。だからと言って堂々と恋愛してますみたいな話したら多分駄目……なんじゃないかな? 実際にそうなってみないとわからないけど。
「殆ど合格が決まってるようなもんなんですけど」
『それ、言っちゃうんだ』
「相方さんが結構面白い人なんで、ツッコミ役になるかもしれないですね」
『相方って……普通に同期ってことっすよね? ツッコミ役かぁ……常識的な範囲なら?』
「充分です」
喋っているとこの人の独特な感性と言うか……そういう部分が実にうちの配信者としてやっていけそうな感じがしている。はっきりと明言はしてないが、元々early birdがダンジョン配信者を中心に始まった企業であるがゆえに、バーチャル配信者となってもリアルの配信者との絡みが多くなると思う。特に、堂林さんと天王寺さんは性格的にもバーチャル配信者なんかと絡ませやすいだろう。まぁ、逆に言うと宮本さんと蘆屋さんはダンジョン配信者専門って感じの人だけど。
『その同期の人もゲームメインなんですか?』
「本人希望は歌とダンス? らしいですけど、はっきり言ってダンスはさせる気ないですねぇ……バーチャル配信者である必要性ないですから」
『知ってた』
調月さんがどういう人なのかはこの面接で大体掴めたので、ゲーム配信がメインになってくるだろうな。まぁ、ちょっと即興で歌ってもらったけどそれなりに上手かったから歌唱動画とかもいいかもしれないけど。
『あ、私は完全にゲーム専門なんで。カラオケレベルなら歌えますけど』
「酒飲みながらカラオケレベルで歌う配信みたいなのも面白いと思いますけどね。そういう声優ラジオ、昔はあったじゃないですか」
『えぇ……』
キャピキャピアイドル路線より、そういうよくわからない距離の近さこそがうちの配信には求められている……と思う。
「じゃあ、今日はお疲れ様です。後で資料を送っておきます」
『あ、郵送面倒なんでデータでください』
「わかりました」
ふむ……履歴書を見る感じ、調月さんはある程度自分でパソコンが使えそうな感じなので、全くの機械音痴だった相方さんのこともちょとと任せよう。なんだかんだと言いながらも、配信を見るようなオタクは百合が好きなのだ。俺は知っている……だって俺も男同士の配信より女の子同士の配信の方がいいと思うもん。
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