第147話
弾く、弾く、弾く……ひたすら襲い掛かってくる剣を槍で叩き落す。剣術で槍術に勝つには3倍の実力が必要なんて言われるが……あれは基本的にリーチの長さがそのまま有利に働くからだと俺は考える。つまり……ここまで高速で動き回ってしまえばあんまり関係が無いんじゃないかな。
「いいね、やっぱり如月君は凄いよ」
「どうも」
なんか褒めてもらったけど、さっきから迫ってくる剣を叩き落すことしか俺にはできていない。防戦一方ではそのうち負けそうだけど……下手な攻め方をすると一瞬で返されてしまうだろうことは想像できる。
「どんどん行くよ!」
咄嗟に木の槍に魔力を通す。一気に硬度が増し、今の状態ならばこの槍で岩すらも容易く貫けるだろうというところまで強化する。次の瞬間、相沢さんの剣と俺の持つ槍がぶつかり合うと火花が散り、金属同士がぶつかったかのような音が響く。まぁ、金属より硬くなってるんだから当たり前と言えば当たり前なのかもしれないけど。
武器に魔力を通したのなら、もうここからは手加減無用ってことでいいのかな。ならこっちも反撃と行こう。
今回は屋外でやっているってこともあって、ある程度手加減なしでも建物を破壊したりする心配がないから……槍からちょっとビーム出してもいいよな。
「っ!? そこまでする!?」
「先に仕掛けてきたのはそっちですよ」
突きと同時に槍の先端から魔力を飛ばすと、地面に丸い穴が開いた。確かに当たれば怪我するかもしれないけど、そもそもこの程度の攻撃は当たらないんだから問題ないだろう。武器に魔力だけ通して、そこからただ叩き合うだけなんてつまらないことはしないさ。
5、6回魔力を飛ばしても、相沢さんはそれを的確に避けている。フェイントで魔力を飛ばさない突きも混ぜているけど、どうやってるのか知らないけど全部見切られてる。小細工しても意味はないかな。
なんて考えていたら、今度は相沢さんが斬撃を飛ばしてきた。
「やべ」
斬撃をそのまま槍で弾こうとしたら、ピキっという槍が砕けそうな音がしたので慌てて後ろに逸らしてしまった。よくよく見ると槍の半ばから割れ目ができている。魔力を通し始める前に無理をさせ過ぎたかもしれないな……今から魔力を全開に流しても、そのまま割れてしまいそうだ。
「なら、こうするまでだな!」
このまま使っていてそのまま折れてしまうと言うのならば、こっちから折ってやる。槍としてのリーチのアドバンテージを潰すのは勿体ないが、壊れてしまうよりマシだ。半ばから叩き折った片方を相沢さんに向けて投げ、視覚を限定してから一気に突っ込む。狙うのは……相沢の武器破壊。
投げた方は簡単に弾かれてしまったが、追撃にはしっかりと打ち合う姿勢を見せてくれた。なら……槍に通していた魔力を限界まで細く、薄く伸ばしていき……木刀を切断する。
「え」
木刀を切断されて虚ができた相沢さんの腹に蹴りをブチかまして俺の勝ち。限界まで魔力を薄くしたせいで、俺が持っていた木刀の方も使い物にならないぐらいバキバキになってしまったが……勝ったから結果オーライ。
「武器で打ち合う戦いだったよね……どうしてこうなったんだっけ」
「そもそも相沢さんが魔力を通して本気でやるからですよ」
「いや、俺にはどっちも見えなかったから、意味ないって」
どうやら最後の方の動きは堂林さんにはよく見えていなかったらしく、かろうじて見えていたのは、俺が木刀を切断して相沢さんを蹴り飛ばしたところだけらしい。
「結局最後は蹴りだし……神宮寺さんの弟子って感じだよね」
武器を捨てて最後は足と手が出るのは確かに婆ちゃんに似たのかもしれない。だって婆ちゃんなんて普段から手と足で戦ってるし、俺があの人と組手してた時は俺が武器を手放しても容赦なく攻撃してきたから素手で応戦するしかなかったんだよ。なにか武術を教えてくれる訳でもなく、ひたすらにボコボコにされていた記憶しかないけど。あれは流石に俺も修業とは呼ばないと思う。
折れた槍と切断された木刀を拾って、堂林さんが理解不能なものを見る目をしていた。
「そこまでやれとは言わないけど、もうちょっと魔力を使って上手く攻撃できると、君も深層探索者だよ」
「いや、無理でしょ」
知ってた。
相沢さんと別れ、堂林さんと2人で事務所に戻ってきた。堂林さんは無理とかなんとか言っていたけど、なんだかんだ自分のものにしていた部分もあったのか、ずっとなにかを思い出すように目を閉じている。
「いいなぁ……私も神宮寺さんと組手したい」
「やめておいた方がいいですよ。あの人は手加減なんて言葉知りませんから」
それに、朝川さんの戦闘スタイルから考えると師事するのは婆ちゃんじゃなくて神代さんの方がいいんじゃないかな。まぁ、あの神代璃音が人になにかを教えられると思いますかって話だけど。
逆に俺は宮本さんの方が婆ちゃんに師事した方がいいと思う。魔法は最低限で、自身の身体能力を強化することに特化した婆ちゃんのインファイトスタイルは、宮本さんには合っていると思う。あの人の速さの原理は独自の魔法だから難しいかもしれないけど、それ以外はすごく参考になると思う。ただし……師匠としてはあり得ないレベルの人だけど。
「深層かぁ……俺でも行ける日が来るのかな」
「来なかったら俺はそもそも面接合格にしてないですけどね」
「そうなんだ……え?」
ん?
「いや、採用された俺達って……下層に行けるってことじゃなかったの?」
「すぐに、下層に行ける人たちですね。将来的には深層まで行けるような人選だとは思ってましたけど……今は無理ですよ?」
あの朝川さんですら深層に行けるようになるまで半年以上かかってるんだから、今すぐ彼らが深層に行けるなんてことは言わないが、将来絶対に行けないなんて思ってもない。それだけのポテンシャルがある人たちを集めたつもりだけど?
「そ、そっか……俺もいつかは、深層探索者に」
「大丈夫! 私が深層探索者になれたのは司君のお陰だから、パンダさんも行けますよ!」
「いや、正直朝川さんは放っておいてもそのうち深層探索者になってたんじゃないですかね」
途中で死ななければ。
朝川さんの魔力が見えるというのはそれだけイカレた性能をしていると俺は思う。深層探索者になるぐらいちょちょいのちょいって感じだ。無茶して途中で死んでたかもしれないけどね。
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