第125話
「配信の方は上手く言っているみたいで良かったね」
「どうも」
こうして相沢さんと面と向かって喋るのは久しぶりだ。最近は企業の方で忙しかったから……単純なEXの探索者として人と接するのも実は久しぶりだったりする。
今日は、社長としての如月司ではなくて、ランクEXの探索者として相沢さんと喋っている。
「それで早速本題なんだけどね。最近、国連の方で組まれたパーティーによって……南極ダンジョンを攻略しようって話が上がってるんだ。勿論、日本のダンジョン組合長でもある私にも話の簡単な内容が流れて来たんだけど……君はどう思うかな?」
「いいんじゃないですか? 南極の登山だって金かければ普通にツアー組んでもらえる世の中ですし、南極ダンジョンの攻略ぐらいすればいいじゃないですか」
正直、俺には全く関係ない話だ。今は企業も忙しいので、是非参加してくれって話だったら普通に断る。そもそも、俺の戦闘スタイルは見知った相手と組むならいいけど、初対面の相手と組むとなると……どうにも動きづらくなる。いや、状況に合わせて式神を召喚すればいいんだけど、最後は1人でやった方が早くなるから嫌いなのだ。
「そもそも、南極ダンジョンってまともに階層を確認したことあるんですか?」
「30年ぐらい前に、3階層ぐらいまでは進んだみたいだよ。でも、その時はちゃんとした実力者を連れて行っていなかったから、ただ確認しただけみたい。それに……ダンジョンがあるのは南極点だからね」
「その南極点だって、別に1000万ぐらい払えばツアーで行けて、しかもキャンプする世の中ですよ? 有難味ないですよ」
「有難味の話じゃないんだけどなぁ」
まぁ、未開の地を開拓したくなる気持ちは全然わかるけど、それならわざわざ南極のダンジョンまで行かなくたって、そもそも最下層まで攻略されたダンジョンの数が世界中でも見ても少ないんだから、そっちから攻略するべきだと俺は思うけど。
そこまで強引に南極ダンジョンを攻略したいのは……やはり世界中に対する探索者は仕事をしているとアピールしたいのか、もしくはなにかしらの資源がある可能性とかなのかもしれない。でも、南極条約があるから結局南極ダンジョン内のものは誰のものでもないし、下手するとなんにも持ち帰れないんでしょ? 行く意味ある?
「で、その話を俺にしたってことは……日本からもEXを出せって言われたんですか」
「うん……そうなんだけどね」
「はぁ……婆ちゃんは速攻断って、神代さんは適当に断ったんですよね?」
「よくわかるね」
「で、俺にも断られたと」
「……日本のEXは、4人しかいないんだよねぇ」
大変だなぁ……でも俺は受けないぞ。そんなものを受けたってなんの得にもならないし、多分海外の規格外の称号を持つ探索者たちも同様に、旨味が薄いダンジョン探索を受けるぐらいなら、自力でダンジョンに潜るだろう。
「国連ってのも大変なんですね。アピールするために色々と」
「はぁ……南極ダンジョン探索そのものがご破算になってくれると楽なんだけどねぇ」
まぁ、まだ一般に漏れてない情報なら全然ご破算になる可能性はある。実際、一般に漏れてメディアが盛大に煽った所で、ダンジョン探索にあまり興味もない民衆は「で?」で終わるだろうし、多少興味がある人も「身近なダンジョン攻略してから言え」って言われるだけだろう。いずれやらなければならないことではあるだろうが、今やることではないってのが俺の意見だ。
「それで、今日はそれだけですか?」
「もう一つ」
まだあるのか。
「君が数ヵ月前に取ってきたダンジョンのクリスタル……あれの解析に進展があったみたいでね?」
「進展? そんなものあったんですか? 俺が寿命で死んでも解析できないと思ってたんですけど」
「案外酷いこと考えるよね、如月君」
そうじゃない? 大体謎の物体って解析するのに数百年とかかかったりするじゃん。特に、今回俺が発見してきたクリスタルなんて魔力に関するものだから、科学技術だけじゃ理解できないことばかりだろう。だから、詳しく解明されるのは俺が死んで数百年ぐらい経ってからだと思ってた。
「結論から言うとね、あのクリスタル……多分しばらくするとまたダンジョンに生えてくるんじゃないかな?」
「と言うと?」
「あのクリスタルは、大きくなった魔石……そしてその魔石そのものがモンスターのように活動しているみたいなんだ」
あぁ……なんとなくわかった。つまり、あのクリスタルは名古屋ダンジョンの最下層に存在したただのクリスタルではなく、あれそのものが名古屋ダンジョンの最下層に存在するモンスターだったって言いたい訳だ。
「君は、最下層のモンスターを意図せずに生きたまま持って帰ってきたってことだね。幸い……あのクリスタルは単独ではなんにもできないみたいだから大丈夫だけど、周囲の魔力を吸収しながら周辺の全ての物体に干渉しようとしているみたいで」
「じゃあ、あの遺跡はやっぱりダンジョンが作ったものじゃなくて……本当に過去からあったものだと?」
「まだ何にもわかってないけど……もしかしたらそんな可能性もあるかも」
そんな馬鹿な、と否定したいがしきれないのがダンジョンの不思議なところ。俺としては、ダンジョンそのものが異世界からやってきたと言われた方がまだ納得できる……それくらい謎ばかりで、ある日突然世界中に現れたのだ。しかも、少しのタイムラグもなく一斉に、そしてそれ以降一切増えていない。まだ異世界からダンジョンが生えてきた方が理解できる。
「鎌倉ダンジョンのモンスターが外の世界に適応した……いや、そもそもモンスターがなにを食べているのかもわからないですが、とにかく地上で数十年生活していましたね」
「そうだね。深層のモンスターはモンスター同士で共食いなんかもするけど、その理由だってよくわかってない」
生物のようであって非生物のような存在……それがモンスターだ。過去に鎌倉ダンジョンから溢れ出したモンスターは、総数もわからず何処に行ったのかもわからないまま数百名の死者を出してしまった。数十年という長い年月をかけて根絶させたことを政府は宣言したけど、それが本当かどうかも誰にもわからない。
まぁ、ダンジョンからモンスターが溢れたのはなにも世界中で鎌倉ダンジョンだけだった訳ではないから、もしかしたら既に外の世界に適応したモンスターが存在しているかもしれない。推測でしかないけど。
「あのクリスタルは、地上でモンスターがどう活動するのか……その解明に役立つかもしれないね」
「本当ですか?」
正直、あんなのただの魔力タンクとして使って発電でもした方がいいと思うけどな。名古屋ダンジョンの最下層に行けば無限に手に入ると考えれば、俺にはただの大容量蓄電池にしか見えないけど。
まぁ、未知のものを解明したいのが科学者ってやつなのかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます