第116話
『はーい、アサガオです! 今日は折角企業所属になったので、仲間とコラボするよ! と言う訳でカナコンさんと一緒にやって行くよ!』
『ど、どうも……顔出し始めたカナコンです。よろしくお願いします』
:アサガオちゃん好き
:カナコンちゃん好き
:どっちだよw
:企業所属になっちゃったアサガオちゃん
:今日は美人さんがゲストだ
朝川さんと宮本さんが昨日配信していたので、そのアーカイブを見ているのだが……なんとなくコメント欄の客層が以前とは変わっている気がする。こういう言い方は失礼だと思うけど……ガチ恋勢の囲いが消えたと言うか……そんな感じ?
推測でしかないけど、多分男が存在する企業に所属したから……とか? そういう人たちの生態なんて全く理解できないからあくまで推測でしかないんだけど、最近は俺のアンチスレも活発に動いてるらしいから。
「なに見てるんですか?」
「……昨日のアーカイブです」
「あー……アサガオさんとカナコンさんの」
後ろからパンダ……堂林さんが携帯の画面を覗き込んできた。
今は平日の朝7時前なのだが……俺と堂林さんは渋谷ダンジョン前のベンチで携帯を見ながら、蘆屋さんと天王寺さんを待っていた。目的は当然、ダンジョンで3人の実力を伸ばすこと。取り敢えず、今日の目標は蘆屋さんと天王寺さんの探索者ランクをGからEに上げること。
「お、お待たせしちゃいましたか?」
「おはようございます、社長!」
「……如月でいいです」
「えー? 折角社長なんですから、社長って呼ばせてください!」
うーん……天王寺さんのこの明らかな陽キャオーラ。蘆屋さんは苦笑しているけど、堂林さんは俺と同じ様に微妙な反応をしているから、どちらかというと堂林さん陰キャよりで、蘆屋さんは陽キャ寄りだと思われる。
メンバーが揃ったので取り敢えずでパーティー申請をしておく。パーティーランクは俺がいてもEの扱い。今日はGが2人もいるから、中層は行かないでくださいねってことだろうけど……別にGランクが2人いようが3人いようが中層ぐらいなら問題ないと思うけど。取り敢えず、今回は上層での基礎的な話になるので堂林さはあくまでついでだ。
「どうも、やっぱり箱用のチャンネルは必要ないと思う如月司です」
:いる
:でも作ってもなー
:社長の如月君がチャンネル名を『【early bird】如月司ch』とかにすれば?
:まぁ、多分みんな集まってする配信は如月君がやるんだろうから、箱用のチャンネルは如月君のでいいんじゃないかな?
「……平日の朝なのに人が多いですね」
「これが100万人の輝き……流石に社長なだけはある」
「凄いね社長!」
「え、あ……社長、凄いです」
「岸谷さんは無理やりにでも乗ろうとしなくて大丈夫です。パンダは後で説教」
「なんでぇ!?」
:草
:そらパンダが言い始めたことだからな
:パンダさぁ……
:愛玩動物なのに不埒な扱いをされるパンダ
:early birdのペット枠パンダ好き
それにしても、本当に朝から人が多いな。まぁ、この時間だと通勤している人とか、まだ授業始まってない学生とかが多いのかもしれないけど。後、月曜日だから単純に休みって人もいるのかな?
「で、今回の目的は配信タイトルと事前告知通り、初心者の岸谷堂満さんと美美香さんの為に色々とやっていきます。具体的に言うと、今日で上層を無双できてランクがEになるぐらいに」
「……おかしくない? 俺、FからEになるのに1年ぐらいかかったよね?」
:パンダが平常なんやで
:如月君の頭がおかしいだけだから気にするな
:パンダも充分に才能がある方なんだよなぁ
:それでもパンダは如月君に才能ありって判断されたから所属してるんだろ?
「今日は皆さんに自分が得意な戦闘スタイルの武器を用意してきてくださいって事前に言ったんですけど……」
「うん。俺はいつも通り」
「私もー」
「ぼ、僕もですね」
堂林さんは以前から配信していたから戦闘スタイルは知っている。この人は魔力による自己強化がとにかく強く、大盾と槍を持って隙を逃さずに相手を攻撃する。良く言えば堅実、悪く言えば臆病な戦闘スタイル。ネットではガン盾チク槍パンダとか呼ばれている。
平然といつもこれで潜っていると言っている天王寺さんは、ダガーのような小さなナイフ1本だけ。そして、それに頷く蘆屋さんは弓を持っている。この2人も面接での事前情報通り。
:美美香ちゃんダガー1本ってマジ?
:流石にやばいだろ
:岸谷君は弓だけで矢持ってないの草
:おいおいおい流石は新人
:予想外の装備で笑ってる
:なお、刀1本の如月君
:如月君は全身凶器なのでセーフ
「じゃあ取り敢えず最上層の敵で様子見しますか。堂々さんは盾構えるだけで攻撃しないでくださいね」
「はーい」
天王寺さんは以前から渋谷ダンジョンに潜っているらしいけど、蘆屋さんはearly birdに合格したからってことで、この春から東北地方から東京に移住してきている。つまり、渋谷ダンジョンは未経験。
「丁度ゴブリンが数匹来ましたね」
「いくよ!」
あ、指示する前に飛び出していった。
5匹のゴブリンに対して、天王寺さんは数メートル離れた場所からダガーを突くような動作を行った。謎の行動の次の瞬間、1匹のゴブリンの頭が握りつぶされた果実のように弾け飛んだ。
:ひぇ
:グロ
:ちょっと気持ち悪くなってきた
:どういうこと?
:知らん
:やばすぎぃ……
:頭悪そうとか舐めた口聞いてすいませんでした
あれは単純に、ダガーを通して魔力を前方に向かって射出しているだけである。魔力を固める訳でもなく、魔法として形にする訳でもないので、大した威力は無いし狙った敵に対してぶつけるのは難しいはずだけど……多分、天王寺さんは大体の感覚だけでそれを当てている。と、言うか……動きが慣れているから普段からあんな戦い方をしているんだと思う。
「ぼ、僕もやったほうがいいですか?」
「できれば」
天王寺さんがダガー片手に走り出していたので、反応が遅れていた蘆屋さんがおずおずと弓を構えた。彼に関しては実際にどうやって戦うのか、それを事前に説明してもらったので俺は知っている。
引いた弦を弾いた瞬間に、弓から風の刃が放たれ、ゴブリンを縦に真っ二つにする。矢をダンジョンに持ち込まない彼は、弓の弦を引くことで魔力の矢を放つことができる。
「……俺がGランクだった時より遥かに強いんだけど」
「大丈夫です。今は貴方の方が強いですから」
「本当?」
:草
:自信持っていいよパンダ
:如月君の戦力分析に嘘はない……はず
:多分きっと
:微妙な所で草
:ガン盾してれば勝てる勝てる
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