第94話

「渋谷ダンジョンって、良くも悪くも代わり映えしないですよね」


:知らんが?


 なにかすることもなかったし、今からコラボの予定を立てるとかも面倒だったので普通に学校帰りに渋谷ダンジョンにやってきて配信している。今は中層の森林地帯で、なんかデカい樹の枝に座りながら、下で他の探索者たちが頑張っているの眺めながら雑談をしている。


:今日はソロでとか言ってるけどお前ソロ以外で潜らないじゃん

:コラボでは一緒に潜るだろ

:辛辣すぎて草

:ド正論パンチやめろ

:草

:確かにいつもぼっちだよな

:ボッチの奴が今日は友達いないとか言ってもいつもだろって言われるのと同じ


「……ぼっち煽り無効バリア」


:大丈夫?

:今日とんでもなくやる気ねぇな

:小学生みたいなこと言い始めて草

:燃え尽き症候群か?

:早すぎるだろ

:高校生で燃え尽き症候群は笑う

:深層行け

:学校帰りに深層とか頭イカレるからやめろ


「それにしても、渋谷ダンジョンって人多いですね……平日の夕方がだからかな。中層なのに随分と人がいるもんですね」


 何人かチラチラとこちらに視線を送ってきているのが見えるけど、多分リスナーだろうな。だって普通に考えてダンジョン潜っててこっちに視線向ける訳ないんだから、最初からここにいることを知っている人じゃないと見ないだろ。


:如月君発見したから手振ってるけどガン無視されてる

:中層行けば如月君に会えるってマジ?

:手振ってる兄貴画面に映ってて草

:普通に映ってるの笑う

:楽しそうだな

:疑似渋谷ダンジョンオフ会始まったな

:マジかよ俺も今から中層行ってくる

:ここ何回層?

:34階層やで

:現在の3個上だ


 なんか勝手にオフ会始まってるな。別に意図した訳ではないけど、視聴者が楽しそうなら別にいいかな。

 俺はなんとなくやることがないから配信しているだけであって、なにか意図がある訳ではない。まぁ、強いて言うなら暇潰しだ。


:俺中層なんて行けないんだけど?

:ここの配信中層行けるエリート探索者多くない?

:中層はエリートか?

:一応エリートだろ

:手振ってる兄貴の周りに人が増えてきたの草

:視聴者多すぎないか?

:人気配信者やね如月君


 いや、なんとなく反応したら負けかなと思って無視してるけど、手振ってる人どんどんと増えてきたんだけどなにこれ。最初は1人がひたすら手振ってて狂気かなと思ったんだけど、いつのまにか10人ぐらいになってるし。そのせいでちょっとした変な集団になってて、他の探索者の人たちも困惑してるし。


:楽しそうで草

:如月君視聴者のオフ会で草

:如月君のオフ会(本人はいない)

:いるんだよなぁ

:いや、あれをいると言い張るのは無理があるだろ

:流石に草

:滅茶苦茶楽しそうな配信してて草

:いいな俺も渋谷ダンジョン行こうかな

:全員集まれー!

:傍迷惑な集団だなwwwww


「周囲の人には迷惑をかけないようにしてくださいね? 責任問われるの俺なんですから」


:はーい

:大丈夫だって

:平和な光景だけど中層だから馬鹿なことする奴はおらんやろ


 まぁ視聴者たちが楽しそうでなによりだよ……それにしても、なんだか今日は中層のモンスターが随分と少ないな。もしかしたら、誰か実力者が来ているのかもしれないな……それこそ、下層に潜れるようなレベルの。

 黄昏ながらダンジョンをぼーっと眺めていたら、さっきまでオフ会が繰り広げられていた場所で何人かの探索者が集まって揉めているのが見えた。さっき迷惑かけるなって俺、言ったばかりなんだけどな。


:どうしたどうした?

:問題起こすなよ

:これだからダンジョン配信界隈の民度は

:バーチャル配信者のこと言えねぇよこれ

:あーあ

:いや、絡まれたみたいだぞ

:絶賛配信中のアイカスが絡んでるぞ


「アイカス? なんですかそれ……新種のモンスター?」


:んな訳

:新種のモンスターww

:アイカス連盟っていう迷惑ダンジョン配信者やで

:結局ダンジョン配信界隈じゃないか

:迷惑行為配信してる炎上系のダンジョン配信者

:実力はそれなりなんだけど態度がゴミの配信


 へー……そんな面倒な連中がいるんだ。俺って結構健全な人としか関わってこなかったから、迷惑ダンジョン配信者とか言われてもなにもわからないんだけど、流石に俺のリスナーが問題起こしたら困るからちょっと首突っ込むかな。


「お前らの方が集団で道塞いでる迷惑連中だろ? 見ましたか皆さんこんな民度の低い連中が如月君chのリスナーですって! モテないオタクみたいな顔ばっかりですね」

「……なんでもいいんですけど、あんまり人の迷惑になるようなことはしない方がいいですよ」


 なんかカメラに向かって凄い大きな声で問題提起している人が、多分【アイカス連盟】なる人だろう。正直言ってあんまり興味はないんだけど、流石に近くでうるさくされて無視はできない。


「あ、如月司本人が出てきた! 今回はこいつらを集めて勝手にダンジョンでオフ会始めたんだよな? 道塞がれて迷惑してるんだよ、お前がこのオフ会の主催者なんだからなんとかいしろ」

「そんなこと言われても、俺はそもそもオフ会なんて主催して……って言うだけ無駄ですか」

「認めた! はい認めました!」


 金髪でチャラチャラしてそうな奴と、茶髪でダンジョンで煙草吸ってる奴の二人が、アイカス連盟ってやつなのかな? なんでもいいけど、煙草吸いながらのダンジョン探索って危なくないか?


:相手にしない方がいいよ

:勝手に切り取って遊ぶだけだからやめとけ

:オフ会も解散や解散

:今回はお開きやな

:水差されたけどまたオフ会しようぜ


「如月君にリアルで会えたー」

「本当に高校生なんだなって顔見て思っちゃった」

「ばいばい如月君!」

「…………え、もう解散? 如月司本人を置いて?」

「あの、オフ会解散したからもういいですか?」


 パパっと解散していったオフ会のリスナーたちを見て、金髪の方が困惑した顔をこっちに向けてくるけど、そもそも俺が企画したオフ会でもないんでこんなもんだろ。俺ももうちょっとダンジョンぶらぶらしたら帰ろうかと思ってたし。


「ちょっと待てよ、迷惑配信してたのに解散で許せるかよ」

「……そもそも、俺は貴方たちの名前も知らないんですけどね?」


:草

:アイカス知名度で負けてんの草

:炎上商法でも負けてて恥ずかしくないの?

:そら、如月君は本当に興味ないことにはとことん興味ないし

:炎上して遊んでるだけの配信者なんて知らんやろ


「俺がアイキチ!」

「そんでオレがカスミンだよ!」

「あー……アイキチさんとカスミンさんを合わせて【アイカス】と……面白いですね」

「なにが面白いですねだ、芸人じゃねぇよ!」


:カスとキチだぞ

:キチカスとも言う

:ただの悪口で草

:なんでこいつらEXに強気で接してんの?

:言うほど強気か? 普段のアイカスならもっと偉そうにしてるし、煽られたらもう手出てるだろ

:ビビってて草

:さっさと逮捕されねぇかなこいつら


 なんか視聴者に色々言われてるけど、なんでこいつらは普通に放置されてんの?

 協会はちゃんとこういう探索者取り締まれよ。

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