第88話

 今日も今日とて、沢山のコラボ依頼が届いている。というか最近は毎日大量のコラボ依頼が来ているのだが、全てを無視している。まぁ、宮本さんとコラボしたという事実だけで一縷の望みを託して俺にコラボ依頼をする人が多いんだろう。SNSのメッセージが来てたからコラボしたって言ったしな。でも、宮本さんとコラボしたのは俺が元々宮本さんのことを気にかけていたからであり、あまりよく知らない人とコラボするつもりはない。

 そんな宮本さんだが、ランクがDに上昇したことで、カナコンとして中層に潜って頑張っているようだ。俺のチャンネル登録者数も既に100万を軽く超えているので、そこから流れ込んだ人もいたらしく、以前より遥かに多い視聴者に困惑しながらも中層で上手くやっているのをアーカイブとして見た。

 朝川さんに続き、直接の弟子のような形で面倒を見た人はこれで2人。本当はもっと多くの人を見てあげたいのだが、そこまで器用ではないのでそういうのは相沢さんとか婆ちゃんに頼みたいところだ。


 札幌ダンジョンの攻略という大きな目標をクリアしたことで、学生でもある俺はしばらく協会からの依頼が激減するらしい。俺は別に気にしていなかったのだが、信濃さんが獅子島さんに直談判してスケジュールを空けてくれたらしい。なんか……アイドルのマネージャーみたいだな。

 婆ちゃんは引退とか言ってたけど、やっぱり協会の方に縋りつかれたようだ。最終的には旦那さんにやんわりと説得されて現役続行を考えたらしい。やっぱり、あの人と上手く夫婦生活やっていけている時点で、旦那さんは凄い人だと思うの。

 まぁ、なにが言いたいかって話なんだけど……単純に時間が有り余ってしまっているのだ。そう「暇」の一言に尽きる。


 ダンジョンに潜るのは俺の生活の一部みたいなもんだけど、流石に札幌ダンジョンから帰って来てすぐにダンジョンに行くのはなーとか思いながら、野球中継を見たり他人の配信を見たりとだらだらしてたら、残りの夏休みが速攻で終わった。

 公欠ばかりではあるが、やばいというほどテストの点数が悪い訳ではないので、なんか勉強する気にもならないし。社長になるからって色々と買った経済学系の本とかも、胡散臭いようなものが多かった。自己啓発本を買って、そのまま満足して殆ど読まずに二束三文で売るのと同じだな。


「ん?」


 ピロン、という通知音と共に携帯が揺れた。誰かが俺に連絡してきたみたいだけど……誰だろう。


「……宮本さん?」


 携帯の画面に表示されているのは「宮本佳奈」の文字。コラボした時に連絡先は交換していたけど、まさか本当に向こうから連絡が来るなんて思ってもなかった。政経の教科書を放り投げて飛んできたメッセージに目を通す。


【お疲れ様です】

【宮本佳奈です】

【本日は如月さんに相談したいことがあってご連絡させていただきました】

【時間に余裕のある時に返信ください】

【待ってます】


【どうかしましたか?】


 普通に暇なので即座に返信する。宮本さんの相談事なんて朝川さんと違って、ダンジョン関係のことしかないだろうから楽に返信できる。相手は年上のお姉さんだけど、ダンジョン探索者としては俺の方が先達って形になるからな。


【返信が早くて少し驚いてしまいました】

【相談事なのですが】

【そろそろ手持ちの武器である斧を新調した方がいいと、お世話になっている鍛冶師の方に言われてしまって】

【両手斧用の素材で、将来的に下層でも通用するようなものはありませんか?】


 ふぅむ……確かに、宮本さんのように武器をメインにして戦う人にとって、武器の性能は死活問題。俺のように式神や魔法を併用するなら、ある程度は適当な素材でなんとかなったりもするんだが、魔法が使えない宮本さんはそうもいかないだろう。とは言え、俺は普段から式神と魔法で戦い、刀を使っての同時攻撃をするのはそれが有効な敵に対してのみだ。つまり、俺に武器への詳しい知識はない。こういうのは普段から武器を試用している人……それこそ相沢さんなんかに聞いた方がいい。


【こちらの知り合いに聞いてみます】

【下層に通用する素材となると、下層のモンスターが必要かもしれませんけど】


【わかりました】

【もう少し、こちらでも頑張ってみます】


【なにか良さそうなものが見つかったら連絡します】


 さて、両手斧用の素材なんて気にしたことないから全く分からないぞ。ここは素直に相沢さんに聞いてみるのが手っ取り早いか。

 ただ、あの人はダンジョンに潜ってなくても組合長として忙しそうにしている人だから、適当にメッセージを一つだけ送っておけばいいだろう。

 そうだな……宮本さんのメッセージで思い出したけど、俺も使ってる刀をそろそろ新しいものに変える頃かもしれない。今使っている刀は、俺がEXになってすぐに作ってもらった簡単なもので、素材こそ深層のものだがオーダーメイド品と言う訳でもない。札幌ダンジョンのあの水晶トカゲの素材も貰ったし、それでもっといいものでも作ってもらおうかな。


【両手斧系だと、重すぎるぐらいが丁度いいかもしれないね】

【素材としてはモンスターの牙とかよりも、ゴーレムみたいな無機物系のものが最適かもしれない】

【戦闘スタイルにもよるけどね】


 適当なことを考えていたら、珍しく相沢さんから即座に返信が帰ってきた。もしかしたら、あの人も札幌ダンジョンから帰ってきた後で色々とあってダンジョンに行ってないのかも。

 それにしても宮本さんの戦闘スタイルか……完全に魔力による強化頼りの武器特化型だな。


【魔力で武器を強化して近接に特化した形ですね】

【魔法が苦手なようですから】


【なら、重さや硬さよりも魔力を伝導しやすい素材を選ぶといいよ】

【魔力さえ効率よく流せるなら、多少脆い素材でも充分な強さとして扱えるからね】

【それでも、魔力を通さなくても使えるぐらいの強度は欲しいけど】


【ありがとうございます】


【素材の詳しい要望は鍛冶師に直接聞くといいよ】

【探索者よりも、彼らの方がよほど素材に精通しているからね】


 いや、そもそも探索者がモンスターの素材に興味なさすぎるのが悪いんだけどね……俺も人のことは言えないけども。素材をしっかり気にしているのって、相沢さんみたいな真面目な探索者ぐらいじゃないかな。他の人たちは基本的に金になるかならないかでしか判断してないと思う。

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