第72話
俺はダンジョンに潜る時には武器を殆ど持ち込まないタイプなので、どんな武器がいいとかは良く解らない。一応、深層の素材から作られた刀は持ち込んでいるが、基本的には魔法を放つ方が楽なので、そっちを優先させている。まぁ、魔法使うより身体動かす方が得意なんだけど。
単純に俺が刀を使う時の感覚を教えてあげればいいだろう。それ以上を求めるなら、やはり普段から武器を使って戦っている相沢さんにアドバイスを求める方がいいだろうな。今度、相沢さんに会ったら聞いておこう。
「カナコンさんって武器に魔力流してますか?」
「……え?」
:ん?
:武器に魔力ってどうやんの?
:魔力武器って奴?
:それは最初から特定の魔力が組み込まれてる武器だろ
:魔力を吸収する素材で作った武器に魔力を吸収させる感じ?
「魔力操作は自分の身体を魔力で覆うような感じですけど、それを武器にもやるんですよ」
「……どうやる、んですか?」
「え、武器を自分の身体だと思い込むのが一番早いんじゃないですか?」
少なくとも、俺は刀を自分の腕の延長だと思い込んで魔力操作で硬度を上げてる。そうすれば本来の性能以上の力を引き出すことができる。やりすぎると武器の方が耐え切れなくなるけど。
火車から刀を取り出して、簡単にやってみせた方がいいだろうな。
:刀取り出してきた
:こいつ式神使いの癖に
:式神より本人の方が強いからな
:知ってた
:刀かっこいいな
:オーダーメイドかな?
:青い刀身かっこいいな
「ふぅ……」
硬い方が当然ながら、切り裂けるものは増える。ちょっと高等技術になるけど、刀に覆わせた魔力を研ぎ澄ませることで切れ味を増すこともできる。俺は高速戦闘の最中にそんな器用なことはできないからやらないけど、相沢さんはやってるらしい。実は槍を使っている朝川さんも、拙いながらも使っている技術だったりする。
刀身に魔力を流し込み、武器を研ぎ澄ませていく。ゆっくりやると楽器を調律するような感覚で結構好きなんだけど、実戦ではパッと済ませてしまうのでつまらなかったりする。
研ぎ澄ませて刀を前方に向かって振るえば、空気を裂くような音と共に広がっていた森林を数メートル範囲で全て薙ぎ倒す。これが武器を使って戦う深層探索者の必須技能だ。
「どうですか?」
「……人間ですか?」
「人間です」
:嘘だろ
:人間じゃない
:僕こんなの知らない
:せめて魔法だって言ってくれよ
:魔法なら許せるのか
:まだ許せるだろ
魔力を練り上げる感覚が苦手な宮本さんでも、魔力を流して覆わせるだけなら魔力操作の感覚を研ぎ澄ませるだけなのでできるはず。あれだけ高水準な魔力の循環も可能なんだから、これもできると思う。まぁ、総魔力量が少ない今だと付け焼き刃かもしれないけど。
:俺にもできる?
:魔力操作ってこんな感じなのか
:ちょっと本気で魔力操作勉強するわ
:マジ?
「魔力操作ができれば絶対にできる訳ではないですけど……魔力操作を極めることが近道ではあるかもしれませんね」
「……ぶ、武器に魔力を」
うーん……やっぱり意識的に魔力を動かすことが苦手なのかな。循環はかなり無意識的に行っているみたいだし、これはもっと基礎的な部分も叩き直さないと駄目かも。
「カナコンさんはまず、自分の魔力の動きをなんとなくでもいいので感じ取ることですね。寝る前に10分ぐらい魔力を意識的に循環させて瞑想したりするといいかもしれません」
「瞑想ですか? こう……ヨガみたいな?」
「まぁ、そんな感じです」
なんかちょっと違う気もするけど、まぁ本人が納得できるならいいか。あくまで魔力の流れは個人の感覚であって、俺の感覚がそのまま他人に伝わる訳ではないからな。
:むずいな
:知ってただろ
:誰でもできたら中層行ってるんだよなぁ
:俺も専業探索者になりてぇよ
:ガンバ
:やはり瞑想か
「とりあえず、今日はこのままひたすら中層のモンスターと戦ってみましょうか」
「え」
「大丈夫です。拙いですけど、しっかり武器に魔力を流し込むことはできてますから」
:拙いって言うな
:かわいそう
:もっと優しく言え
:超人め
:人外がよぉ
:拙くてもできてる時点で凄いよ
:渋谷ダンジョンにいるんだけど、何人かが武器を持ったまま目を閉じてるの草
:如月君の配信見ながらダンジョン潜るな
:草
:リアルタイムで修業とは……
え、見ながらダンジョン潜ってる人とかいるんだ。普通に想定外だったな……じゃあさっきの視線も配信を見てる人がここまでやってきたとかなのかな。
「ながらダンジョン攻略は危険ですよ」
:それはそう
:急に常識人になるな
:普通のこと言うな
:理不尽だろ
:草
:でも配信見ながらダンジョン攻略はやめようね(1敗)
:成仏しろ
少し進んだ先に森林地帯の中でも開けた場所があるから、そこを中心にしてしばらく宮本さんを戦わせ続けてみるかな。やっぱり魔力量を増やすには地道な戦闘が一番いいからな。
「お、お疲れさまでした……」
「お疲れ様です」
そのままひたすらに宮本さんを中層のモンスターと戦闘させて、配信は終了した。地味な配信だとは思うけど、探索者として強くなる為に必須な技能はあっても、近道なんてない。後は己の才能を信じてどこまで伸ばせるか、だな。
「今日はありがとう、ございました。色々と知れましたし……多分申請すればDランクになれると、受付の人にも言われました」
「そうですね……でもまだまだ基礎が足りないですから、無茶をしないでくださいね」
「は、はい」
ランクが上がって新たな場所へと行けるようになった時こそ、探索者の死亡率が跳ね上がる瞬間だ。具体的に言うならば、中層に行けるようになるDや、下層に行けるようになるCがそうだ。まぁ、Aになったから深層に即突入する人が少ないのは、やはりBの人はそれなりに経験があるからだろうな。
宮本さんの実力を考えると、現状でも命が脅かされるほどのモンスターは中層でも少ないだろうけど、ダンジョンなんてどれだけ用心していても足りないような場所だ。
「あ……」
「な、なにか?」
どうしよう……一回面倒を見たんだから、これ以降も気になることがあるなら連絡してくれてもと思ったんだけど……連絡先交換してないんだからできないよな。今から連絡先交換しませんかって言ったら、なんか出会い目的のコラボみたいな印象にならないかな。宮本さんは美人だし、そういうことは気にしてそうだし……いやでも、宮本さんが一人前の探索者になるためには……うぅん……駄目だ、勇気が出ない。
「そ、それでは」
「あの……連絡先を、教えてくれませんか? 色々と、聞きたいこともできるかもしれませんから」
「……も、もちろんです!」
よかった!
向こうから言って来てくれたなら大丈夫。気持ち悪いとは思われない筈だ!
その後、家に帰ってからちょっとテンション高めに連絡先を交換していたことを思い出して死んだ。
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