第68話
そろそろ夏休みも後半になって、受験に追われている同級生はきっと大変だろうな、と思いながら適当にモンスターの首を刈り取る。最近なにかと式神任せの戦いが多かったので、自分で剣を手にしてモンスターと戦っていた。まぁ……いつもの趣味じゃなくて、今日は仕事で来てるんだけども。
探索者として戦うことはもう仕事みたいなもので、純粋に趣味とか興味本位で出来るものじゃなくなってきた気もするけど……やっぱり俺はダンジョンに潜るのが好きなんだと思う。まぁ、八王子ダンジョンみたいなクソつまらない場所もあるけど。
「ふぅ……」
渋谷ダンジョンの下層で出現した強力なモンスターを一体倒してくるだけの仕事だったが、なんとなく配信もせずにダンジョンに潜ることに、違和感を覚え始める今日この頃。すっかりダンジョン配信にハマってしまった気がする……見るのも、自分でやるのも。
【コラボのお誘いを受けてくださってありがとうございます】
【未熟な身ですが、如月さんの足を引っ張らないように頑張ります】
【日付は如月さんの予定が合う日で結構ですので、決まったら連絡ください】
仕事を終えて家に帰ってきてから、携帯にメッセージの通知が来ていることに気が付いた。コラボ依頼を受けた話だな……そこまで固くならなくてもいいんじゃないかと思うのは、俺がなにも知らない高校生だからなのか。
でも、俺としては彼女のことは結構以前から気にかけていたダンジョン配信者で、才能だけで言うなら朝川さんにも劣らないと勝手に思っている。まぁ、実際に生で見てみないとわからないかもしれないけど、少なくとも上層に留まってるような才能ではないと思う。
相沢さんの真似、ではないけど……EXとして、そして初心者講座なんてやっていた配信者としても、ダンジョン探索者全体の底上げは俺の仕事の一部みたいなものだ。
【連絡ありがとうございます】
【明々後日には予定を空けることができそうなので、もし都合がよろしければその日でよろしいでしょうか?】
「……渋谷ダンジョンでいいんだよな?」
基本的には配信でも渋谷ダンジョンで活動しているみたいだし、多分コラボ配信も渋谷ダンジョンになるだろうな。俺の配信で上層を映すなんて逆に新鮮なんじゃないだろうか。
【大丈夫です】
【では明々後日の午前9時に渋谷ダンジョンに集合と言うことでよろしいでしょうか?】
【そちらも大丈夫です。楽しみに待ってます】
大丈夫みたいだな……朝川さんとコラボした時は顔を向かい合わせてリアルでそのまま約束したし、神代さんは向こうが勝手についてきただけで、相沢さんはいつも通りのノリで普通に緩く誘ったから、こうやって真剣に打ち合わせるをすると少し緊張する。まぁ、別に嫌と言う訳ではないんだけど……大丈夫かな。
不安に思いながら仕事をこなし、約束の日に渋谷ダンジョンへとやってきた。
「……あの、如月さん?」
「あ……おはようございます、カナコンさん」
「は、はい!」
この人が今日の俺のコラボ相手……探索者ランクがEのカナコンさん。
どうやら相沢さんと同じ様に、脱サラして専業の探索者として生きて行こうと思ったが上手くいかず、広告収入目当てで配信を始めて見るもそちらも伸び悩み中って感じらしい。
「
「如月司です……って、知ってますよね」
「そ、そうですね……本名そのままだとは、ちょっと半信半疑でしたけど」
カナコンさん──宮本さんは、配信者としてのスタートダッシュは上手く言っていた。こう言ってはなんだが、その……暴力的と表現される胸と、おっとり系と表現される穏やかな声質、そして性格もおおらかな感じ。しかもダンジョン配信者としては見て分かりやすい両手斧を振り回すというインパクトで、一度はSNSで大きな話題にもなったことでそれなりの固定層を獲得している。
今回、俺にコラボの依頼を頼んだのは、配信者として数字に伸び悩んでいたのでテコ入れをするためではなく、朝川さんを短期間で強くした方をお望みらしい。つまり、コラボのお誘いをしながらも本命は強くなりたい方らしい。
俺としては、配信のコラボよりもそっちの方が重要なのでありがたい。
「レクチャーも全て配信内でいいですか?」
「だ、大丈夫です!」
少し緊張気味だが……まぁ、大丈夫だろう。普段から配信してる訳だしな。
因みに「コンコンch」という名前で活動しているが、顔出しが恥ずかしいから狐面をつけてるので、コンコンchらしい。本名の宮本佳奈にコンコンでカナコンなんだとか。脱サラのお姉さんなのにネーミングセンスがちょっとかわいいな。
「はい、おはようございます……今日も朝から多いですね」
:そらそうよ
:ちゃんと前日に予告されてたしな、今日は
:今日は、な
:普段は突然始まること根に持たれてて草
:仕方ない
:ニートしか追えない配信時間してるよな
「勿論、夏休みですから」
「わ……凄い視聴者の数……」
:ん?
:コラボ相手もういるの?
:女の声だった!
:許せねぇ……
:やっぱり裏切ったな!
:EX俺たちの恥晒しめ!
「え、いつの間にEX俺たちなんて名前ついてたんですか?」
知らない間に俺の蔑称がレベルアップしてるんですが?
もしかして、結構掲示板とかで俺って好き勝手言われてるのでは?
「まぁ、俺のことはいいんです。今日はカナコンさんとコラボと言うことになります」
「か、カナコン、です……よろしくお願いします!」
:かわいい
:もしかして如月君のチャンネルで初めての正統派美女では?
:性格は一番まとも
:いい人来たな
:知らないけど、絶対かわいい
:カナコンちゃん頑張れ!!
「わ、私の視聴者の方も来てくれてたんですね。ありがとうございます」
「と言う訳で……今日はカナコンさんとコラボしていきます。内容としては……まぁ、アサガオさんにやった感じと同じで、ダンジョンの戦い方とか叩き込んでいきますよ」
「は、はい! 頑張ります師匠!」
:おー
:師匠枠か
:まぁ、如月君はそっちなら向いてる
:正統派のコラボは向いてないとも言う
:やっぱりダンジョン配信が生き甲斐だよ
:ダンジョン配信向いてるよお前
:カナコンちゃんが滅茶苦茶強くなるのか
:なんか前にSNSで見たことあるな
狐面に黒色の両手斧を背負った特徴的な「カナコン」の見た目は、流石に結構知っている人が多いみたいだな。コメント欄にも、ちょくちょくSNSで見た的なコメントも見かける。かく言う俺も、そのSNSの流れてきた映像で才能あるなーと思って見始めたんだが。
「じゃあ……今日の探索で中層に入れるように頑張りましょうか」
「はい! え!? はい!?」
:は?
:草
:え、一日でEからDにするってこと?
:草
:そんな方法あるのかよ……
:これもうダンジョン基礎講座の続きだろ
:草
因みに、俺は本気だからな。
逆になんで宮本さんの実力で上層に燻ってるのかよくわからないから、そもそもコラボ依頼を受けたんだけどな。
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