第65話

「……そろそろ60階層が見えてくる頃だね」

「……そうですね」

「……本当になんにもないね」

「知ってました」


:うーん

:配信向けじゃないダンジョンだな

:マジでつまらなんダンジョンだよな

:これは……人気がないのもわかる


 視聴者も朝川さんも俺も、正直このダンジョンの全てに飽きてきている感じがある。元々、朝川さんの興味本位で八王子ダンジョンに行くことになった訳だけども、なんの問題もなく60階層付近まで来てしまった。

 やはり殺風景なダンジョンに、少ないモンスターの出現数と、面白い要素がとことん排除されているダンジョンなだけあって、普段より視聴者の数も少なくなっている。やはり八王子ダンジョンなんて配信するもんじゃないな。


「なんか、もっとド派手なドラゴンとか……とんでもなく大きいモンスターとか期待してたんだけどなぁ」

「それを期待するんだったら、深層に潜った方がいいですよ」

「深層に行けるだけの探索者ランクがありません!」

「……ちゃんと申請してますか?」

「まだしてなーい」


 はぁ……探索者のランクは、しっかりと協会に申請しないと上がらない。EXは別だけど、朝川さんの場合はCからBに上がるのに、ちゃんと実績を報告しながら協会に書類を提出して申請しないといけないのだ。勝手に協会側がランクを上げてくれる、なんてことはない。そんなことはEXに上がる時だけだ。


「でも、書類とか書くの面倒くさいんだよね……それに、CからBに上がると依頼とか来るんでしょ?」

「そういう人は多いですね」


 以前にも言っていたが、今の協会は魔石を探索者からなるべく安く買い取って、Bランク以上になったら金で依頼を頼むようになるなんてことをしている。故に、実力があってもCランクから申請せずにBに上がらない人もいるらしい。同様に、深層に行けと言われるのが嫌だからという理由でBランクで留まっている人も多い。そう言う所を、本当に国がなんとかしないといけないんじゃないのかと思うけど……まぁ、無理か。


「なんかもっとさー……メリット? とかあればいいけどさ」

「ないですよ。まぁ、別に国からの依頼を何回断ろうともランクが下がる訳じゃないですけど」


 結局、国から依頼を断る人は多い。それでも、依頼を断り続ける探索者のランクを下げるのは、組合からの文句も出るだろうし、ただでさえ人手不足な探索者に追い打ちをかけるようなものだからな。

 こっちは命かけてるんだからもっと金を寄越せって言うのが探索者の意見で、人手不足だから金はやるから手伝えって言うのが国の意見だ。まぁ、どっちが優勢かなんてのは今の現状を見ればわかる。


:アメリカとかどうしてるの?

:オーストラリアは結構義務化されてるか言うけど

:ダンジョン大国同士の連携とかないの?

:国との争いになってて草

:探索者も大変だねぇ


「アメリカはそこまで詳しくないですけど……ダンジョンがある州によって違うとかなんとか。オーストラリアはそもそも魔石の買取価格が高いし、探索者の優遇措置が結構多いので不満はそこまでないみたいですよ」


 オーストラリアとしては、ダンジョンが現れたことで急に世界に対して発言力を手に入れたのだから、その力を失わないように必死なんだろうな。でも、実際オーストラリアはダンジョンが出現してからすごい勢いで経済的にも成長して、人口も爆発してるみたいだし。

 逆にちょっと衰退してしまったのが中国だな……あそこはまだダンジョンを探索できるほど魔力が強くない世代だった頃に、無理にダンジョンを攻略させようとして大量死を招いた結果、多くの人が国外に逃亡したとか。今でこそ落ち着いてまたダンジョン以外での経済で強国までのし上がってるけど。


「あ、階段……どうする司君……60階層まで行く?」

「……正直、行ってもなんにもないですよね」

「うん」


:即答で草

:知ってた

:このまま配信終わってもいいんじゃない?

:それかアサガオちゃんが深層のモンスターと戦うとか

:Cランクが深層入っちゃ駄目でしょ

:一応、踏み入れることは罰があるとかではないよ

:命の保証はありませんってだけの話だからな


「帰ろっか!」


 知ってた。


:知ってた

:ですよねー

:成果、無しw

:仕方ない

:これも経験よ

:八王子ダンジョンは二度と配信で見れなさそうですね

:ますます人が来なくなりそうな配信でしたね


 仕方ない。どう取り繕っても面白くないダンジョンは面白くないし、どこまで行っても殺風景なダンジョンは殺風景なんだ。このまま仮に深層まで突き進んだとしても、残るのは雑談配信と言う名の垂れ流しグダグダだけだ。それならさっさと地上に戻って地上で雑談配信してた方がマシなレベルだろう。


「じゃあ帰りは麒麟ちゃんに乗せてもらうからね!」

「……まぁ、いいですけど」


:乙

:お疲れ

:今日の配信はここまでやな

:最後に質問タイムプリーズ

:質問タイムくれ

:おつー


 質問タイム?

 この八王子ダンジョンで質問タイムとかする必要ある?


「なんでも聞いていいよ……あ、セクハラ系はブロックするからね」


 なんでチャンネルの主じゃない朝川さんが普通に応えているのか。別にいいけども。


:アサガオちゃんは学校のテストどれくらいの点数なの?

:名古屋ダンジョンの34層まで行ったってマジ?

:アサガオちゃんはアニメとか見る?

:アサガオちゃんの好きなゲーム

:如月君って野球好き?

:神代さんについてどう思う?


「私のテスト?」

「この人、夏休み前の学期末テスト学年1位でしたよ」

「なんで知ってるの!?」

「教室で大きな声で喋ってたので」


:学年1位ってマジ?

:勉強できるタイプの陽キャだったか

:陽キャって結構できる奴多くない?

:わかる

:陰キャの方が実は勉強できない説ある

:草

:500点ぐらい?


「489点だったよ」


:は?

:頭の中どうなってんの?

:同じ人間とは思えないぞ


 わかる。

 なんで頭いい人ってあんな点数取れるのか全く理解できないわ。俺は普通に学年で言うと100位ぐらいなのに……朝川さんはあの顔の良さで頭もいいからな。


「次の質問はこれ!」

『:名古屋ダンジョンの34層まで行ったってマジ?』

「マジ」


 あのダンジョン、本当に面倒だから34で帰ったけどね。


:えぇ……

:水没してんのに?

:草

:どうやって行ったんだよ

:名古屋ダンジョンの意味不明な最高到達階層お前だったのかよww

:ダンジョン七不思議の一つ、名古屋ダンジョンの最高到達階層が解明される


「それは……式神の力を使ってちょちょっと、ね?」

「はい意味わかんないから次の質問」


 えー?

 まぁ、あのダンジョンに関しては俺の方が非常識だって流石にわかるから黙っておこう。


『:アサガオちゃんはアニメとか見る?』

『:アサガオちゃんの好きなゲーム』

「アニメはあんまり見ないなぁ……ゲームはアクション系やるよ」

「へー」


 ゲームとかやるんだ。今時のキラキラ無趣味虚無系女子高生のように、SNSでキャッキャッしてるもんだと思ってた。マジで最近の若者ってなにしてるんだろうな……俺はダンジョン潜ってゲームしてるだけなのに、最近の若者にカウントしないでください。


「次」

『:如月君って野球好き?』

「普通に好きですよ。個人的には神奈川に本拠地のあるチームが好きです」


:あそこかぁ……

:意外だった

:ゲームとダンジョンだけだと思ったのに

:充分では?

:草

:じゃあ神代ちゃんとも野球の話するんだ


「しますよ。あの人も結構野球好きですからね」

「はい最後」

『:神代さんについてどう思う?』

「これは……俺じゃないですよね?」

「私?」


 いや、だって俺は配信内で結構好き放題言ってますし。


「私はねぇ……ライバル、かな? 絶対負けたくない」

「へぇ……歳が近いからですか?」

「うん。趣味趣向も合ってそうだから」


 合ってるか?

 神代さんと朝川さんなんて正反対そうな感じするけどな。


:あ

:縄張り争い始まったな

:怖い怖い

:女は怖いぞ如月君

:そっとしておけ

:触れるなよ、お前デリカシー無さそうだし

:アンチスレが爆速ですねこれは


 は?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る