第38話
「ふぅ……『がしゃどくろ』」
火山亀はこちらのことを既に敵として認識しているから、さっさと攻撃するのに限る。
「『雷獣』『牛鬼』」
魔力を籠めてがしゃどくろを普段より更に大きく召喚して、雷獣と牛鬼で攻撃させる。がしゃどくろは多分20メートルぐらいの大きさで召喚したけど、それでも火山亀の方が2倍以上でかい。流石に、こんなデカい亀を真正面から倒すには普通の式神だけじゃ火力が足りないだろうな。
火力が足りなそうな時は、俺が自分で火力になる魔法を放つのが定石。
:式神祭りや
:世紀末始まったな
:如月君が負けたら世界が終わると聞いて
:あながち間違いでもないから困る
:ところで、この亀は倒したことあるの?
:深層怖すぎないか?
「ありますよ。この亀はかなり強いですけど、別に不死身って訳じゃないですから」
朝川さんが行っていた、雷魔法を圧縮してビームのように放出するという応用方法は、実に興味深い威力の上げ方だと思う。式神が主体となる戦い方をしているから、俺はそういう魔法の応用は特に考えたことが無かったから、思いつきもしなかった。
魔法の多重展開と違い、圧縮することの理論自体は実に簡単だ。魔力を収縮させていき、その反発で一気に放つだけ。俺でも……できる。
:ビーム撃ったぞ
:やはりロボットか
:日本が人工的に作り出した兵器だろ
:やばすぎ
雷魔法を圧縮して放ったビームは、確かに凄まじい威力を持っていた。火山亀の背負っている火山の端っこを削り取るぐらいの威力はあったんだけど……制御が難しくて外してしまった。それに、圧縮しすぎて魔力の効率がひたすらに悪い。朝川さんみたいに、魔力量を底上げしようとしている人間には逆に丁度いい負荷かもしれないけど。
「がしゃどくろも流石に押され気味か……押し返すならやっぱり倍ぐらい魔力注いでおかないといけないか」
火山亀の勢いは凄まじく、80階層クラスの敵なだけあって雷獣と牛鬼だけじゃ仕留め切れない……どころか、このまま放置してると3体揃って負けるだけだろう。
今度は上手く狙って、ビームをもう一発放って俺が支援するって言うのもいいんだけど、手っ取り早く倒す方法は他にある。自分の手札を配信で全世界に公開することにはなるけど、特に関係ないだろう。
がしゃどくろ、雷獣、牛鬼を消して新たな式神召喚の為に魔力を手に込める。
「『
召喚するのは、俺が持っている式神術の切り札とも言える存在。十二天将をまとめる文字通り、最強の式神。
『久しぶりのお呼び出しだと思いましたのに……相手はあの亀ですか?』
「あぁ……頼むよ」
:女の人出てきた!?
:喋った!
:式神喋るの!?
:人体錬成だ……
:なんでもありか?
長い黒髪を靡かせながら笑って喋りかけてくる貴人に、俺は苦笑いを浮かべてしまった。確かに俺が貴人を……十二天将を召喚するのは久しぶりだけども、こんなクソ暑い火山地帯で微笑まれるとも思っていなかった。
『では参りましょうか?』
「頼むぞ……『
召喚するのは十二天将の白虎。日本でよく知られる四神の一柱であり、五行思想で言う所の「金」を司る西方の守護神獣。
貴人は基本的になんでもできる式神で、サポートに特化した自分をもう一人召喚するようなもの。俺が十二天将を召喚する際に必ず初めに召喚する補佐官、とでも言うべき存在。頼りになる美女だけど、たまにこちらを揶揄ってくるのが……なんとも。
:白虎!
:四神だ
:神様じゃん
:強すぎないか?
:もうこいつ一人でいいんじゃないかな
俺が持つ通常の式神の中で最速なのは雷獣だが、十二天将で言えば白虎の方が速い。
俺が跨っても問題ない位のサイズを持つ白虎は、俺に指示を貰わなくても自分がやるべきことを理解している。瞬きした瞬間には既に白虎の姿はなく、火山亀に向かって襲い掛かっている。
『サポートしますよ』
貴人が持つ特異な能力として、俺が召喚した式神を後から強化することができる。例えば、恐らくそのまま突っ込んでいった白虎の力を使っても火山亀に致命傷を与えることは不可能だと思うが、そこに貴人の強化……まぁゲームで言う所のバフを駆ければ。
「……派手にやるなぁ」
:は?
:もはや意味不明
:大怪獣バトルかな?
:勝った方が我々の敵になるだけ定期
:白虎は敵じゃないだろ
白虎が魔法によって地面から生み出した金属の刃は、貴人の強化を得て易々と火山亀の甲羅を貫通した。四方八方から生えてくる巨大な刃によって身体を縫い付けられた火山亀は、抵抗することもできずに接近した白虎の牙によって喉を噛みちぎられている。
『さぁ、貴方様? 先ほどの魔法を使ってみてください』
「……制御は任せる」
『その為に私がいるのです』
貴人に言われるまでもなく、今度は制御のことなど度外視で雷魔法を圧縮していく。ただ威力だけを追求して、どこに飛んでいくのかもわからないビームになるが、そこは貴人がなんとかしてくれる。
とはいえ、標的の火山亀は身体を縫い付けられ、白虎に対抗しようと既にこちらのことなど眼中になく、口から溶岩の塊を吐き出しまくっっているだけだ。ならばそこに照準を合わせて撃つのみ。
『……はい。流石は貴方様です』
:は?
:ワンパンで草
:こんなの人間が撃っていい威力じゃないぞ
:アサガオちゃんに謝れ
:やっぱりEXってクソだわ
:草
:火山亀、かわいそう
:チャンネル登録した
:毎日配信しろ
「人が、反動で肩を痛めてるって言うのに……なんて酷いコメント欄なんでしょう……」
:ビーム撃つ奴は反動じゃ死なない
:自分でやったんだろ
:アサガオちゃんの技を上位互換にしてパクるな
:またアサガオとコラボしろ
:関係ないコメント混ざってるぞ
:SNSでトレンド1位になってるぞ
まぁ、自分でも放ったビーム一発で火山亀の身体を貫通して、そのまま消し飛ばすぐらいの威力があるとは思わなかったけども。巻き込まれかけた白虎が睨みつけてきているような気もするけど、取り敢えずは良しとしよう。
それにしても肩が痛い。銃の反動なんて全く考えずに、適当に片手で射撃したようなもんだからかな。
「あ、トレンド1位ありがとうございます」
それはそれとしてトレンド1位は嬉しい。注目されたいと思っている訳ではないけど、やっぱり誰かにすごいと思ってもらえるのは、人間として嬉しいと思えるだけの承認欲求は持っている。
『ふふ……ついに貴方様の雄姿が全世界へと……これから』
「はい帰ってね」
『あぁ、そんな殺生な……』
貴人は便利で愛用してるけど、ああやって語り始めると止まらなくなるのでさっさと消して置いた。
:式神が召喚者のオタクってどうなのよ
:俺らだったぞ
:美人な俺らだった
:推しを語っている俺が美少女化したらあんな感じ
「……なんとなく貴人が召喚し辛くなること、言うの辞めてもらっていいですか?」
はぁ……随分と久しぶりに召喚したけど、やっぱり身体的ではなく精神的に疲れる。今度から素直に白虎だけ召喚しようかな。
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