第31話
蟹を高山ダンジョンの協会に預けて、肉はある程度分だけ郵送で送ってもらうことにした。残りの部分は、多分すぐに高級料理店とかに流れていくんだろうな。
高山ダンジョンの外で待っていてくれた運転手さんに、高めのランチを奢りますよと言ったら申し訳ないのでと遠慮されてしまったので、無理矢理ラーメン屋に引きずっていった。
鶏ガラスープにちぢれ麵が特徴の高山ラーメンだが、やっぱり個人的にはチャーシューが美味いのが素晴らしい点だと思う。飛騨牛ってやっぱりすごい。高そうな店、と言うよりは個人経営みたいなこじんまりとした店のラーメンがやっぱり好きだ。
会計の時に俺が有無を言わさず電子マネーで払ってしまった時、運転手さんはすごく申し訳なさそうな顔をしていたけど、サラリーマンの生涯年収を何回分稼いだかわからないような人間に払わせて欲しいものだ。多分、高校生に奢られることの方が気になるんだろうけど、社畜みたいに疲れ切っている人にそこまでさせられない。
「……ありがとうございました」
「あはは……全然、気にしなくていいんですよ?」
車に揺られながらこちらにお礼を、と言ってくる運転手さんに苦笑いが出てしまった。
探索者協会は当たり前だが、ダンジョン省の直轄ということもあって一般的にはエリートの公務員なんだけども、仕事量が多かったり面倒だったりするらしく、出会う人の大半が疲れ切った社畜みたいになっている。そんな人に運転してもらったのに、その上で俺はEX探索者なんだからVIP待遇にしろなんて言える訳が無いし、少しぐらい奢ってやりたいとも思って当然だろう。
『……なんか、今日の配信つまらなくない?』
:中層のモンスター相手に長時間無双しておいて何言ってんた
:感覚麻痺してますよ
:他のダンジョン配信見たことないでしょ?
:アサガオちゃん無自覚最強やったー
:中層にいる配信者ってだけで異常なんだよ?
画面の中の朝川さんは、相も変わらず中層のモンスターと連戦しているらしい。まぁ、魔力量を増やすにはひたすら戦い続けるのが一番いいと教えたのは俺だけど、ここまでストイックにやるとは予想……できたな。
見た感じ、なるべく魔力消費の少ないように戦っているようだけど、昼食の休憩を挟んでも数時間も戦闘し続けているのでそろそろきつくなってくる頃だと思う。まぁ、本当に無理そうだなと思ったら電話なり、メッセージを送ったりしてやればいいと思うけど。
『もうちょっと行けそうだから、まだやろっか』
:ひぇ
:いつの間にかこんな化け物に
:アサガオちゃんは元から化け物
:キサラギ君のせいだぞ
:つまり男に染められた、と
:絶許
:草
:アサガオちゃんの身体がキサラギ君に調教されて戦いを求めるようになっちゃった
:NTRの導入かなと思ったらゲームの新作が発売されそうな文章だな
:つまりキサラギ君は歴戦の傭兵だった訳だ
朝川さんの配信のコメント欄でちょくちょく、自分の名前があげられているのを見ると、公式アカウントとして使おうと思って色々と設定した自分のSNS公式アカウントに、怒りのメッセージが飛んできている理由がなんとなくわかってしまう。多分、彼らはガチ恋勢と言われる人たちで、朝川さんとリアルで繋がりのある俺が許せないんだろう。
なにを言われても、今更朝川さんと関わらないようにしますなんて言わないんだけども。
『あ、オークが来たね。3体かぁ……1分で終わらせたいな』
:どこを目指しているのか
:そりゃあ深層でしょう
:下層飛び越すな
:EXでしょ
:つまり人間卒業を目指している
:アサガオちゃんが人間やめても推してくぞ
:元々人間離れはしてる
:オーク3体を1分は草
朝川さんはコメントには全く反応せずに、カメラ内でぶれるような速度で走り出して手前にいたオークの首を貫通するように槍を突き刺し、その背後にいたオークに対して指先からビームを発射して脳天を貫いた。ここまで、実に5秒程度の時間だ。ただ、オークは首を貫通したぐらいでは死なないので、倒せたのは真ん中にいた1体だけ。
奇襲をかけられたオークはすぐさま反撃しようと棍棒を振り上げたが、再びカメラで追いかけきれない速度で動いた朝川さんには当たらず、魔力によって生み出された牙のような魔法を複数展開され、首を貫かれていたオークは身体をぐちゃぐちゃにされて死亡し、その流れのまま5本の指から5本のビームを放って最後の1体を倒した。
『どうだった?』
:……
:え、どう反応すればいい?
:すごい
:やばい
:おかしい
:うーん、怪物
:アサガオちゃんかっこいい!
:記録は……41秒!
:遠い所まで、行ってしまったな
今の戦闘を見ればわかるけど、朝川さんは魔力量を上げる修行と同時並行で、自らの魔法の威力を上げる方法を模索して、ある程度の解決策を発見した。正直、魔法の開発なんかも見ていると、俺なんかとは比べものにならない魔法の才能があると思う。
『実は、司君の魔法を参考にして色々と魔法を開発したんだ。さっきまでは使うほどのモンスターもいなかったから使ってなかったけど、やっぱり魔力消費が激しいなー』
:あの……ビーム?
:ビーム
:どうみてもビーム
:ビームは魔法なのか?
『雷の魔法を圧縮して打ち出しているだけだよ』
:だけ、とは
:魔法の圧縮という概念に俺氏、完全敗北
:理解不能
:やっぱり探索者は異次元の存在や
:かわいい
:かっこいいぞアサガオちゃん
:アサガオちゃんがロボットになったのかと思った
配信では触れていないけど、朝川さんは魔力による身体強化の出力を大幅に上げることに成功したみたいだ。カメラが速度を追い切れていないのは、まだ設定が済んでいないからだろうな。使い初めであれだけの速度で動けるなら、最速の探索者とも言われる婆ちゃんを、そのうち速度で超えることができるかもしれない。俺も、速度だけなら婆ちゃんには勝てないからな。
それにしても、これだけ中層のモンスターを圧倒しながら配信者として喋ることができる余裕があるなら、単独でも充分に下層で通用するようになってきているはずだ。メッセージ送っておこう。
【配信見てます。本当に頑張ってますね】
【今の朝川さんなら下層も行けると思いますよ】
さて、俺は東京に着くまでちょっと眠らせてもらうかな。
『あ、メッセージ飛んできた。ちょっと待っててね』
:男か
:女か
:友達だろ
:俺だ
:キサラギ君に一票
:協会とか
:俺だぞ
:俺
:キサラギ君が有力だろ
:高山ダンジョンとか言ってなかったか?
【ありがとう!】
【司君はお仕事終わったのかな?】
【配信見られてると思うと、ちょっと緊張しちゃうな(笑)】
【ちょっと挑戦してみようかなとは思ったんだけどね】
【やっぱり司君と一緒に行ってみたいなって】
【我儘かな?】
【東京に戻ってきたらまた教えてね!】
返信……速いよ。配信内で堂々と携帯にメッセージ打ち込んでるし。
『メッセージ貰ったし、もうちょっと頑張ってみるよ!』
:おー頑張れ
:頑張って
:おじさんはお昼寝するぞ
:もうそろそろ夕方だぞ
:仕事しないと
:仕事中に配信見るな
:下層にチャレンジも近いかな
やっぱり、なんか気になるから寝ずに配信見てるか。
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