第4話

 如月司、学生としての本分を久しぶりに思い出しました。

 まぁ、単純に今日は依頼がないから学校に来てるだけなんだけども。とは言え、探索者ランクEXに割り振られる依頼の数はそれなりに多いから、久しぶりに学校に来た感じがする……多分1週間ぶりくらい? つまり、俺には学校に友達もいなければ青春をつぎ込むような部活動もないし、当然ながら甘酸っぱい日々を共に過ごす恋人なんていない。強いて言うならダンジョンが恋人だ。なんとも色気のない青春ですこと。


 ダンジョン探索者で生きて行こうとは中学生の時から考えていたから、遺産を使ってそれなりに学費が高い私立高校に入学して、後はダンジョンで稼いだ金で通ってはいるけど、休みが多すぎるんだよな。公欠扱いが多いから単位は別に問題ないけど、これだったら、普通に通信制の高校にでもしておけばよかったと高校三年生にして後悔している馬鹿は俺です。

 別に頭が滅茶苦茶いい訳でもないから、テストの点数も平均点より少し上ぐらいだし、出席日数も相まって内申点は結構ボロクソです。それでもあんまり担任の先生に心配されていないのは、俺がダンジョン探索者として稼いでいることをある程度知っているからだろう。まぁ、億単位で稼いでいることは知らないだろうけど。


 実際、最近の高校生はダンジョン探索が結構流行りらしい。年々、ダンジョン探索者の数が減っているとか国が嘆いていたけど、高校生はそれなりにダンジョン探索者やっている。

 国としてはもっと専業ダンジョン探索者が増えれば増えるほど、魔石とかを輸出できるからもっと増えて欲しいんだろうけどな。だから当初は探索者資格が20歳からだったのが数年後には18歳になって、今じゃ中学校を卒業した次年度の春から取れるようになったからね。


 で、高校生のダンジョン探索者が増えている理由だけど……ちょっと頑張って最上層から上層へと降りることができれば、そこら辺のバイトより儲かるから。これにつきる。だから知らないけど、うちの学校のクラスメイトたちも半分ぐらいが探索者資格を持っている。


「おはよう!」

「あ、七海っ!?」

「大丈夫だったの!?」


 クラスの端っこで厚い本を読みながらだらだらと考え事をしてホームルームが始まるのを待っていたら、なんだか一気にクラスが騒がしくなった。本から少しだけ視線を上げて、クラスのうるさい方へと目を向けると、昨日俺が助けた女の子が包帯を頭に巻きながら笑っていた。


「なんか、親切な人に助けられたみたい」

「それは配信見てたから知ってるわよ!」

「やっぱり危険だから下層なんて行かない方がよかったのに」

「ごめんね」


 彼女の名前は……確か朝川七海あさかわななみ……だったかな?

 俺が昨日助けた女の子、どっかで見たことがあるなーと思ったらクラスメイトだったのか。制服じゃないし髪型も違ったから普通に気が付かなかった。でも、関りが薄いクラスメイトなんてそんなもんじゃない?


「でも、昨日の配信で助けてくれた人は誰だったの?」

「……そう言えば、配信切れてなかったんだっけ?」

「今更? ダンジョンの入り口で協会の人が切ってくれるまで配信繋がってたわよ」

「そ、そうなんだ……なんとなく恥ずかしくてアーカイブ見れてないんだ。なんか……狼? みたいなのに助けてもらったのだけは覚えてる!」


 それにしても、こうやってクラスを眺めていると、どれだけあの朝川七海さんが人気者なのかがよくわかる。だって、彼女が来るまではみんなバラバラに喋っていたのに、彼女一人が来ただけでみんなが集まっているんだから。

 確かに、かなりの美人だと思う。女性にしては背も高いし、スタイルもバッチリな感じ。下層までソロで行けるダンジョン探索者なだけあって、身体は引き締まっているのに胸は自己主張が激しそうだし、今日日珍しい大和撫子を彷彿とさせる濡烏色の髪の毛は滅茶苦茶綺麗。陰キャコミュ障ぼっちでワンチャンない俺でも普通に見惚れるレベルの完璧美少女だと思う。

 俺は脚フェチだから普通に好きです。でも恋人になりたいとか、ヤリたいとかではなくて普通に可愛いなぁ、みたいな?

 なんか言い訳みたいでキモイな、やめやめ。


「いやぁ……本当に配信見てて心配したんだよ、俺も。朝川さんのこと助けに行こうかと迷ってたんだ」

「あ、ありがと……」


 なんか明らかにチャラ男イケメンっぽい奴が絡みに行ったな。なんでアイツみたいなのってモテるんだろう。最早陰キャ差別だろ。でも、ああやってモテる奴って結構裏ではモテるための努力とか怠らなかったり、自信満々な態度が本能的に優秀な雄だと思われてモテるらしい。優しいだけ、誠実なだけの男はモテないからな。俺は自分のことを優しいとも誠実だとも思わないけど。

 それにしても、周囲の男女の反応を見る限りあの男は相当モテると思うんだけど、肝心の朝川さんの反応が微妙なのが気になるな。


「頼ってくれれば、一緒に下層までついて行ってあげたのにさ」

「個人の配信だから……1人で挑戦、してみたかったんだ」

「用心棒って形でさ。クラスに2人しかいないCランクなんだから、もっと頼ってくれていいんだよ?」


 マジか。

 自分がEXだからあんまり口出ししないけど、高校三年生でCランクの探索者ってかなり有能だぞ。イケメンで高身長で、多分頭いい感じなのに探索者の実力もあるとか普通に羨ましいんだが?

 とか言ってるけど、まともに学校に来る回数が多くないからあんまり名前を覚えてないな。


「俊介かっこいいぜ! 俺たちも探索者ランク上げてぇ!」

「努力しかないさ。探索者は才能じゃなくて、努力だからね」


 あいつ、性格いい感じの奴なのかな?

 いや、マジで学校来る回数少ないからわからん。来ても途中で抜けたりするし、大体はこうやって本を読みながら時間が過ぎるのを待ってるだけだからな。

 それで……多分だけど、名前は栗原俊介くりはらしゅんすけ……だったと思う。あってるかどうかはわからないけど。


「ん?」


 え、なんかこっち見たぞ。


「あれ? 今日は来てるんだ。いつも来てないのにさ」

「は? 誰その陰キャ」

「いっつも休みの奴じゃね? 不登校君でしょ」


 ひ、酷い。人が気にしてることをズバズバと言いやがって。これだからギャルは嫌いなんだ。


「みんな集まって喋ってるんだからさ、君も加わりなよ」

「い、いや……別に」


 興味ないって言ったら怒られるかな。早く先生来てくれないかな……生き地獄なんだけども。


「そうやってクラスの端っこで本ばっかり読んでるから陰キャなんだよ」

「あ……返して、くれませんか?」


 なんか知らないけど本を取り上げられた。多分、別に面白くないと思いますよ……日本の妖怪大全なんて読んでも。


「ぷっ……こんな小学生みたいな本読んでんの? 大人になりなよ」

「あははははは! 妖怪だって!」

「完全に陰キャオタクじゃん」


 泣きそう。でも取り敢えず謝っておけば許してくれるかな。普通に買った本だから汚されたくないし……謝ればなんとか。


「ご、ごめんなさい。返してください」

「は? 別にちょっと読むぐらい良いだろ」

「い、良いですけど……」

「良いんだ!? 馬鹿みたい!」

「なよなよしてんなー」


 なんか、クラス全員に馬鹿にされてる気がする。もしかして、このクラスの陰キャコミュ障枠、俺だけですか?

 教室の中をキョロキョロと見渡してみたけど、みんな俺のことを笑っていた。どうやら、俺は何故か陽キャ集団のクラスに間違えて入れられてしまったようだ。

 くっ! 陰キャコミュ障として本を返してもらう方法は、他に1つしか思い浮かばない。土下座だ。


「返してあげたら? そろそろ先生来ると思うけど」

「お、そうだね……ごめんな陰キャぼっち君」


 よ、汚さずに返してくれた。いい奴かと思ったら性格ゴミだった、と思ったらやっぱりそれなりにいい奴だった。このギャップの連続がきっと女性を虜にするんだろうな。参考になります。

 ただ、俺に助け舟を出してくれた朝川さんの方が女神に見えるぞ。なんかこっちを見て首を傾げてるけどな。


「静謐で澄んだ魔力。こんな魔力見たことないなぁ……」


 なんか呟いているけど、俺に聞こえる距離で言ってください。これで普通に悪口とかだったら普通に泣いて早退するから、ちゃんと聞こえるように言ってください。

 はー……久しぶりに学校来たのに、面倒な絡まれ方されちゃった。放課後は憂さ晴らしにダンジョン行こ……毎日行ってたわ。自ら社畜の道を進むとは、何たる愚か者か如月司。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る