ドラグライク・ファンタジア

海星めりい

第1話


「ついに出来たー! 全能力SSの『グランメテオドラゴン』!」


 きゃっほーい! と私――天海あまみ 竜姫たつきはベッドに仰向けに寝転んだまま、足をバタバタさせ歓喜していた。


 私のスマホに表示されているのは紅金色の鱗と宝石みたいな輝きの黄色の瞳を持ち、巨大な翼を広げたドラゴン!!


 そのあまりの凜々しさと美しさに思わず頬が緩んで、よだれが垂れそうになる――おっとっと、本当に垂らしかけちゃった。来年には中学生になる女子としてそれはよくない。


 でも、仕方ないともいえる。だって、ドラゴンがこんなに格好良いのが悪い。


 そう、私は昔っからドラゴンが好きで好きでたまらないのだ。ドラゴン好きの始まりが何だったのかは覚えていないけど、幼い頃から気が付けば恐竜図鑑やらドラゴン図鑑やらが増えていく感じだった。


 恐竜はちょっとドラゴンとは違うけど、あれはあれで好きというやつだ。

 それとおなじでリアルのトカゲもけっこう好きだったりする。


 けど、ペットとして飼うにはちょっと厳しい。イモリやヤモリくらいなら飼えるのかもしれないけど……お母さんがヘビとかトカゲ――爬虫類が苦手だからなあ。許可してくれないんだよね。


 そんな私がドラゴンを育成できるアプリ『レジェンドチャンピオンズ』にハマったのは自然なことだった。


 『レジェンドチャンピオンズ』は色んなユニットを育成して、バトルやレースに挑んでいくという育成RPG。

 ランダム要素のイベントなんかもあって、強いユニットを作るのは苦労もするけど同時に頑張った分だけ愛着もわく。

 公式大会なんかもあって、ネットでプレイ動画を配信している人もいるんだけど……。


「ドラゴンとかは微妙に人気ないんだよねー」


 超カッコイイ私の相棒をスクショしつつ、思わず愚痴をこぼす。

 コレに関してはドラゴンだけが! というわけではなく。人型ユニットに比べてドラゴンみたいな非人型ユニットの人気がないっていうのが正しい。

 非人型ユニットは全体的に知能が低い傾向があって、種族的に状態異常に掛かりやすいのだ。その他の能力を高めにして補うというのが運営の方針らしいが、バランスをとるのは難しいらしく何回か上方修正されてもなお人気が無い状況だったりする。


 さらに、大人のプレイヤーだとちょっとエロ目の天使とか悪魔の方が喜ばれるみたいで、ここら辺のが新キャラとして紹介されると公式動画のチャット欄の反応が滅茶苦茶いい。

 この間の公式大会だと非人型ユニットの人は、決勝トーナメントには一二人中二人しかいなかった。おまけにどっちも決勝までは行けなかったというオチだし。


(あー、いいよ。最高だよー!)


 ドラゴンの人気のなさを残念がりつつ、その端正な姿を堪能していたら――


「まだ、起きてるのー! もう寝なさい、明日も学校でしょー!」


「はーい!」


 夜の自由時間はとっくに過ぎていたようで、お母さんから注意されてしまった。

 アプリを落としてスマホをスリープモードにすると、私は部屋の電気を消してベッドに潜り込むのだった。


 ―――――――――


『次のニュースです。全国で子供達が意識不明となる事件が発生しています。ネット上では謎の奇病、呪いなどと騒がれているこの事件ですが、警察や医師の見解と一緒に解説していきます』


 翌朝、朝食を食べているとお母さんがつけたテレビからそんな話が聞こえてきていた。


 私は食べる手を止めなかったけど、お母さんは食べる手が止まってテレビに視線が釘付けになっていた。


『子供達はスマホを使用している最中に意識を失った可能性が高いとのことですが……先生、何が原因なんでしょうか』


『意識を失う原因は色々考えられますが、いずれの子も持病は無かったとのことで、現段階では断定するのは難しいですね。――……』


 その後もなんか難しそうなことをアナウンサーの人とお医者さんが話していた。とりあえずスマホを使っている時に意識不明になる子供がいるってことみたい。

 それってちょっと怖いかも、なんて思っていたらお母さんもおんなじことを思ったみたい。

 ため息を一つ吐いて、


「竜姫も気をつけなさい。スマホばっかりしてちゃダメよ?」


「いつもそんなに長くはしてないよ」


「うーん……一応そうね。昨日も注意したらすぐ寝たみたいだし。使うときは姿勢を悪くしないように使いなさいね」


 お母さんも私が四六時中スマホを触っているわけじゃないのは分かってるみたい。

 というか、昨日、あの後確認してたの!? 隠れて夜更かしとかしてなくて良かった……。


「分かってるよ。じゃあ、食べ終わったし学校行くね」


 ごちそうさまでした、と言って椅子から腰を上げる。


「車に気をつけてね。裏路地とかも通っちゃダメよ? 才羽さいば君もまだ見つかっていないんだから……」


「前も聞いたから、大丈夫!」


 才羽君は私の従兄弟の子だ。基本的にお正月とかお盆とかにしか会わないから、そこまで中が良かったわけじゃない。

 それに才羽君のお母さんは『レジェンドチャンピオン』の開発者なんだけど、才羽君は好きじゃないらしく。話が合わなかったんだよね。

 でも、流石に一週間ぐらい前に行方不明って聞いた時はビックリした。本当にそんなこと起きるんだ……って。心配はしてるけど私が何か出来るわけでもないから、実感がわきにくいというか……。


 ただ、それ以来お母さんの心配性が始まったんだよね……。

 私がちょっと面倒くさそうに答えたせいか、お母さんが追加の確認をしてくる。


「もし、登下校中に声を掛けられたら?」


「知り合いでも気をつける。知らない人ならもっと気をつける」


「よし! いってらっしゃい」


「いってきまーす!」


 お母さんに軽く手を振って私は学校へと向かうのだった。


 ―――――――――


「おっはよー!」


 友達やクラスメイトに挨拶しつつ、カバンを教室後ろのロッカーに入れて教室内を見回す。


(えーっと、西島君は……まだ来てないのかな? 珍しいような……)


 話したかった相手がいないことに少し気落ちしつつ、朝のSHRの時間まで皆と一緒に過ごしているとチャイムが鳴った。

 私を含めてバタバタと教室にいる全員が自分の席へと向かっていく。

 その少し後に、担任の門脇先生が教室へとやって来る。

 門脇先生はそのまま出席確認をしていく――と、そこで西島君がまだ来ていないことに気付く。


「西島はカゼで休みだと連絡を貰っているから……これで全員だな」


 クラスメイトは先生の言葉に特に思うところは無かったみたいだけど私は違う。


(あーあ、西島君に全能力SSの『グランメテオドラゴン』出来たって自慢しようと思ったのになぁ……)


 クラスで『レジェンドチャンピオンズ』をやっている子は他にもいるのだが、皆、天使や悪魔とか、所謂、人型ユニットを育てている。

 人型に属さない、竜系ユニットを中心に育てている私とはちょっと話が合わなかったりする。

 その点、西島君は別だ。西島君はおうちで犬二匹に猫二匹を飼っている動物好きで、ドラゴンではないが、獣系のユニットを中心に育てている。

 非人型ユニット同盟とでも言えば良いのだろうか。


(それにしても……カゼ? 昨日の夜はそんなこと言ってなかったけどなぁ?)


 昨日の夜も私が『グランメテオドラゴン』を育成しているときにチャットでやりとりしていたが、その時は普通に返信もしてきてたし……。

 疑問に思いつつも私に確認するすべはない。本当にカゼなら連絡したところで、返事が来る可能性は低いだろう。


 私はちょっと気落ちした状態で授業を受けるのだった。




 学校から帰ってきた私はリビングのソファに寝そべりながら、『レジェンドチャンピオンズ』をプレイしていた。


 昨日は試せていなかった『グランメテオドラゴン』の実力を試すのだ! と意気込んで対戦モードを開始した直後のことだった。


 あれ……? 指が動かない?

 それになんか……頭がボーっとするような……おかしいな……眠くはなかったはずなんだけど……まだ『グランメテオドラゴン』の実力……試せて無いのになぁ……。

 ソファからずり落ちながら、焦ったようなお母さんの声が聞こえた気もするけど、よく分からないまま私は意識を失った。



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