世界一短いラブレター
三珠
第1章 出会い 〜小学校編〜
第1話 「はじめまして」
「明日からお隣に同い年の子が引越してくるから、仲良くしてあげてね」
小学5年生の夏、
正直に言えば、興味が無かった。
僕は当時、地元のソフトボールチームに所属して、毎晩遅くまで練習し、その後は塾に通うなど、小学生にしては比較的忙しい日々を過ごしていた。
そんな中で仲良くしてと言われても、遊ぶには時間的にも体力的にも余裕はなかった。
「女の子の三姉妹らしくて、一番上の子が拓海と同級生になるから、学校のこととか、色々教えてあげてね」
母からの続けざまのお願いに余計に無理だなと思った。
小学生の高学年ともなれば思春期突入の時期であり、その頃には男子は男子、女子は女子のグループが形成され、馬鹿騒ぎする男子を冷ややかに見下す女子という構図が一般的であった。ましてや本人達にその気がないにしても、男女の関係を匂わすようなことをすれば、どんな目に遭うかは明白だった。
根っからの人見知りだった僕は、男同士の馬鹿騒ぎにはノリで参加しても、そういった男女関係のいざこざには巻き込まれたくなかった。
曖昧に頷く僕を母はどう捉えたかは分からないが、その話はそれで終わり、よくある一日が過ぎていった。
翌朝、5年2組のクラスはいつも通りだった。
仲のいい女子グループは挨拶を交わしながら昨日のドラマの感想を伝え合い、男子は自席で本を読んだり、机に突っ伏して遅めの二度寝をしていた。
僕も静かに席につき、静かに何もしない時間を数分間満喫して、ホームルームのチャイムを待っていた。
ホームルームが始まると、担任の先生から定番かつお約束のあの言葉を聞くことになった。
「今日からこのクラスに転校生が入ります。みんな仲良くしてあげてください。」
担任からの開幕一声に当然ながらクラスはざわつきだした。
元々、僕の通う小学校は福井県の中心部近くにあり、在校生の数も県内トップクラスではあるが、田舎の小学校には違いない。
つまりは転校生自体が珍しいので、普段からトピックス供給の少ない子供たちにとっては、それはそれは一大スクープとなりうる事だった。
周囲が目を輝かせて騒いでる間、僕の脳裏には昨晩の母の言葉から、もしかしてと予想は立っていた。
転出入が少ないこの学校に転校生、隣に引越してきた同い年の女の子。もはや答えが出てるも同然である。
「さあ、入ってきてください」
担任の声が響き、クラスは一瞬の静寂が訪れた。
実を言うと、僕はその子の容姿を知らなかった。昨日はソフトボールの練習の時に引越しの挨拶が家にあったらしく、母のみが知っていたことだった。
そうして教室の扉が開かれ、教壇に立ったその子に対する第一印象はーーー
「はじめまして」
満面の笑顔という感じではなかったが、ミディアムショートの髪型から覗く表情は柔らかく、緊張や不安を感じさせない第一声と立ち居振る舞いから高い社交性を感じさせた。
背丈は僕と同じくらいで、第二次性徴期を迎えた同じ年の女子の身長としても一般的であった。
全体的に大人びた印象を受けるが、容姿としては普通だなというのが、僕の中の第一印象だった。
「
転校生の挨拶が終わり、パチパチとクラスからの拍手の音が響いた。
席は窓際の後ろに決まり、和やかに転校生紹介イベントが終わろうとしたその時、担任から「あ、そういえば」となにかを思い出したように口を開いた。
「お家は都村君のお隣みたいだね」
その瞬間、クラスは再び騒ぎ出す始末になった。
僕はというと、突然の担任の爆弾投下と視線の集中砲火に反応できず、一瞬呆けて固まってしまった。
そして、羞恥でいたたまれない気持ちがいっぱいになると、照れを必死で隠すように机に突っ伏してしまった。
突っ伏す直前、一瞬だけ立花瑞穂と目が合った。
立花瑞穂は少し困ったような表情をしていたように見えた。
これが、僕と彼女の最初の出会い。
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