30.メイド男爵、「盗賊団」と対決する!



「あの人たち、砦の外で整列してますよ!?」


「ぐぅむ、どこかの国の兵隊かな」


 どうしたものかと構えていると、男たちは砦の外で並び始めた。

 私はあんまり詳しくないが明らかに訓練された動きである。


 このまま屋上にいるのは目立ちそうだと判断し、私たちは下の階に降りることにした。

 砦の外に出ることはせず、鎧戸の隙間から彼らを観察することにする。


「誰かいるか? 我々は栄光国のものだ! いるならば、返事をしろ!」


 そのうち、女の人が隊列の正面に現れて、大きな声を出す。

 どうやらトルカ王国の隣国、栄光国の人々らしい。


「あの人、変な服、着てますね……」


 メイメイがぽつりと呟くのも無理はない。

 大きな声を出した女の人の服装が、男の妄想を具現化したような感じなのだ。


 やたらと体型にフィットした軍服!

 大きな胸がででん!

 細い腰がきゅっ!

 大きなお尻がばばん!


 歩くわいせつ物っていう表現がぴたりと当てはまる服である。

 何なのよ、あの人、恥ずかしくないわけ!?


「メイメイ、あぁいうのあんまり見ない方がいいよ。変な大人になっちゃうし」


 とりあえず、私はメイメイの視界をふさぐことにした。

 子どもの教育上よくない気がしたからね。


 それにしても、彼女は栄光国から来たと言っていた。

 それは魔導技術とやらの研究が盛んな国で、トルカ王国よりも豊かな国だ。

 

 そんな国の人たちが何の用だろうか。

 言っておくけど、うちの領地はトルカ王国に所属する。

 隣国の人々に好き勝手されるいわれはないのだが。


「男爵、やっぱり、私は奥に引っ込んでますよっ! 口下手なので……」


 私が腕組みをしていると、マツはそそくさと砦の奥に移動する。

 まぁ、確かに彼女は口下手だ。

 いつだって口を滑らせて余計なことを言いまくり、人の神経を逆なでにしている。


 彼女に応対させたら、相手が怒らないとも限らない。


「はぁい……、何の御用でしょうか?」


 そんなわけで私自らが出ていくことにした。

 とはいえ、こちらもびっくびくである。


 私は扉を少しだけ開けて、用件だけをうかがうことにした。

 水や食料が欲しいとかなら、分けてあげなくもない。

 私は寛容なのである。


「我々は栄光国のものだ。この砦の調査と使用の権利をトルカ王国の王兄様より頂いている。この砦から早急に退去するようにお前の主人に伝えよ。それと、その旗は何だ? 目障りだから外すように言え」


 こちらに近づいてきた彼女はとびきりの美人だった。

 しかし、傲岸不遜な態度で、とんでもないことを言ってくる。


 なんだかよく分からないが、この砦を使うから、私たちに出て行けというではないか。

 しかも、旗をはずせとまで言ってくる。

 正直、非常に腹立たしい。


「……あ、えー、そうなんですか。……でも、ごめんなさい、ご要望には応えられません!不可能です! それじゃ!」


 私はできるだけ彼女らの神経を逆なでしないように、きっぱりと断る。

 そりゃそうだ、この砦は私が頂いたものなのである。

 モンスターの群れを撃退し、ゴブリンを突き落とし、ドラゴンをやっつけて、守り抜いてきたものなのである。

 はいそうですかと出て行けるわけがない。


「んなにをぉおっ!? 貴様のような、メイドごときが判断できることではない! さっさとお前の主人に伝えてこい!」


 女の人は私の言葉を聞いただけで激昂する。

 怒りっぽすぎるよ、あんた。


 私は男爵の地位を正規の手続きでもって頂いたのである。

 いくらメイド服を着ているからってバカにされる筋合いはない。

 それに、言うに事を欠いてメイドごときって何よ。

 メイドは素晴らしい職業なのよ!?


「私がこの砦の主の男爵なので、無理です! この砦も王兄様から正式に頂いたものですので! ほらっ、証文もありますよっ! そっちこそ王兄様の委任状とかあるんですか?」


 こちらも怒鳴り返してあげたかったが、私は冷静かつ沈着な女。

 そんなに簡単に怒ったりなんかしない。


 ポケットから王兄様の例の書類を取り出すと、わいせつ女にばばっと掲げて見せる。

 そして、連中のぐぅの音も出ないことを言ってやったのだ。

 これが証拠だ、と。


「委任状だと!? そんなもの……、ぐ、ぐぅむむむ……」


 彼女らはやっぱり口から出まかせを言っていたらしい。

 証文も何も提示できずに、苦虫を嚙み潰したような顔をしている。


 大方、栄光国の軍隊が愚連隊化して、この砦を奪い取りに来たのだろう。

 あのグラマー女が色気を使って部下を扇動したに違いない。


「ないんですね? それじゃあ、帰ってくださぁい! サヨナラ!」


 私はそう言って、ぴしゃりと鎧戸を閉める。

 諦めて帰ってくれればいいんだけど、どうだろうか。


「ぐぎぎぎぎ、おんのれ、メイドごときが増長しおって! 我々を侮辱するというのなら、身のほどを教えてやる! 貴様ら、これより戦闘に入る! 準備に入れ!」


 てっきりこれで一件落着と思っていたら、女の人はきな臭いことを言い始めるではないか。

 ひぇええ、戦闘って何!?

 まさか、この砦に攻めてくるってこと!?


「あの人たち許せませんね! 力づくで人のものを奪うだなんて、強盗と同じですよ!」

 

 私のそばで話を聞いていたメイメイは連中の言葉に怒り心頭の様子。

 そうだね、たぶん、あいつらはただの軍隊崩れの愚連隊か強盗団なのだろう。

 栄光国の名前を名乗って変装しているだけで。


「三手に分かれて生け捕りにしろ! 相手はメイドが数人程度、おそらく兵士はおるまい。一気に畳みかけるぞ! ただし、砦の破壊は最小限にとどめよっ!」


 外から怒号にも似た声が聞こえてくる。

 どうやら部隊を三つに分けて攻めてくるつもりらしい。

 作戦の内容が私たちに筒抜けだけど、どうでもいいようだ。


 私たちも舐められたもんだよ。

 こう見えて、数多のモンスターを屠ってきたというのに。

 ドラゴンだってやっつけちゃったっていうのに!

 そっちがその気なら、こっちもやる気なんだけど!


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