ざまぁしようと思ったけどできなかった百合
川木
ざまぁとかどうでもいいか
高校卒業の日、恋人ができた。高校で出会った美少女、佐藤京子のことは最初から気になっていた。友達になって親しくなればなるほど好きになったし、大学の進路が違って離れ離れになるのが嫌で思い切って告白して恋人になれた。
お互い実家住みのままだし、遠距離と言うわけでもない。だから別の大学になっても全然大丈夫、と思っていたのだけど、半年であっさりフられてしまった。
「な、なんで? 私の何が悪かったの?」
「えー、別に友美ちゃんの何が悪いとかないけど、飽きた?」
京子はとてつもなく残酷なことを、にこっといつもの可愛い笑顔で言ってきた。ショックを受ける私に京子はこれからも友達でいてね、などとさらになめたことを言った。
付き合ってからの半年、デートは京子の行きたいところに合わせたし、京子に合わせる為にあれこれ苦心して、京子を思いやってキスだってまだだったのに。なのにこの仕打ちである。許せるはずもない。
私は決意した。京子断ちをしてめちゃくちゃいい女になってこの女を見返してやる! と。
ダイエットをした。すごく太っていたわけじゃないけど中肉中背のちょっと太ももが太かったのが、ほどよく引き締まったように思う。腹筋もちょっと透けて見えるようになった。
色んなオシャレを研究して、様々なスタイルを身に着けた。元々私は好みが広いのであれこれ楽しみたいタイプだったけど、高校時代はお金や校則の制約があったのが大学でバイトもして枷が外れた私は興味があるだけ楽しんで、どんなスタイルにも自分が魅力的に見えるような着こなしや魅せ方を獲得した。
交友関係をひろげ、色んなことを学んだ。大学の知識以上に、興味があることはどんどん学ぶことにした。元々好奇心は旺盛なほうだったけど、面倒だったりハードルが高くてまごついていたことも、京子へ復讐する為、いい女を目指すためと思えばスタートを切るハードルはないに等しかった。
様々なことを経験し、見た目だけではなく中身もそれなりに知識や経験のある、いい女になれたと思う。少なくとも同い年に比べて向上心とやる気は人一倍で学んできたのだから、出来栄えも人一倍だと自負している。少なくとも、複数人から思いを寄せてもらえるくらいには魅力的になったのは間違いない。
告白をしてくれた人には申し訳なかったけど、その全てを断った。私の目標はただ一つ。京子をふりむかせ、私にメロメロにして私なしじゃいられないと思わせてから盛大にフって、ざまぁしてやるのだ。
そうして準備万端用意して迎える成人式がついにやってきた。未練なんてないし、もう京子に興味もありません。という顔をしながらも自然に会える絶好の機会だ。
予定通り身支度を完璧にすませ、ひとまず小学校ごとに集まることになっていたので指示通りそこへ行き式を受けた。大勢集まるので、式をする側に従わないと大変だろうし、純粋に小学校時代の級友たちと会うのも少しは楽しみにしていたのだ。
式自体は何ということもなかったけれど、子供の頃仲が良かったけれど進学で自然に離れていった友人と再会するのは驚きと懐かしくも楽しい時間だった。だけどそれと同時に、やはり距離が離れると言うのはどうしても疎遠になりやすいのだと改めて理解した。
京子と別れてしまったのは、もちろん京子に大きな責任があるし今思い出してもふざけるなよ、とは思うけれど、遠距離恋愛をちょっと軽く考えていた私にも少しは要因があった気がしないでもない。
今度そう言ったことがある時は、もうちょっと気をつかったほうがいいだろう。それはそれとして、京子のことはめっちゃくちゃにフって反省させてやるけど。
「あ、もう解散だって。この後晩御飯食べに行く予定だけど、友美ちゃんも行く? 式これなかった人も何人か来る予定だし」
「んー、ちょっと人と会うから、その後決めるよ。行けそうならまた連絡するから」
「おっけ。人数多めに予約してるけど、食べホだから七時までに連絡してね」
「あんがと、またね」
懐かしい面々と連絡先の交換もできたし、これだけでも成人式にきた甲斐はあった。でもそれはそれとして、今このめっちゃ着飾っていてかつ無理のない再会はそうそうないので、なんとか京子と一目会いたい。
京子は北区の小学校だし、あっちの辺のはず。解散されてすぐ出ていくタイプじゃないけど、早く行かないと。
「あっ」
と思わず声がもれてしまった。あそこにいるのは京子。やば。二年ぶりくらいだけど、成長期も終わってるし大きな変化はない。でも、めっちゃ可愛い。
こういうイベントごと好きだし絶対参加して絶対着付けしてくると思ったけど、卒業してすぐにしたまま髪の毛金髪のままの癖に和装めちゃくちゃ似合ってるじゃん。青い振袖と合ってて雰囲気完璧だし、髪の毛アップにしてるのも珍しくて色っぽくて最高じゃん。あー、相変わらずビジュアル神! 可愛すぎる! 好みすぎるー!!
「はっ」
ってやば! 普通に見惚れていた。やばいやばい。目的を忘れるな私。今日は京子に惚れにきたんじゃない。京子に私を惚れさせにきたんだから!
私は思わずにやけそうな顔をなんとか整え、ささっと手鏡で前髪を整えなおしてからさりげなく京子に近づく。京子と同じ小学校の知り合いもいたから、そっちを探している体で。お、いた。あいつちゃんと参加するタイプだったんだ。意外だな。仕方ない、声かけておくか。
「やま」
「あっ、友美ちゃん!?」
「!? あ、あー、京子。びっくりした。久しぶりだね」
京子と別グループで会話してる山本に話しかけようとしたところで、私に気付いてはっとしたように振り向いて駆け足に近寄って声をかけてきた京子に、びっくりして肩までゆらしてしまった。
なんとか軌道修正して、いま気づきましたとばかりに返事をする。
「久しぶりー。というか、めっちゃ綺麗じゃん! えー、すごーい、雰囲気変わったね」
え、なんかめっちゃ目をキラキラさせてない? やば、可愛い。じゃなくて! おいおい、こんなに想定通りでいいの? 駄目だ、にやけるな私。
ここは余裕をみせて、京子をその気にさせて、もっともっと私に惚れさせて告白させてからフるのが目的だぞ!
「ありがとう。京子も似合ってるよ。綺麗だね」
「ほんとー? 嬉しい。小学校南区でしょ? なに、私に会いに来てくれたの?」
んん、これは、どう答えるか。ここまで好意的に反応してくれてるんだし、ここは私もいい反応すべきかな。
「まあそうだよ。折角だし、知ってる顔いるかなーって。京子も絶対いるだろうし」
「わーい。じゃ、行こ!」
「えっ」
「みんなまた連絡するねー」
私の返事に京子は目を輝かせて私の腕を抱き着くように掴んで、そのまま私を会場の外に連れ出した。これは想像してなかった。
もちろん鍛えているし、振袖とは言え京子の動きを制止するくらいわけない。だけど久しぶりの京子、それも至近距離でふんわり京子から香ってくる京子お気に入りの香水の匂いが懐かしくて、思わずされるがままになってしまった。
「んふふ。ねー、友美ちゃん」
「な、なに?」
「この後どこ行きたい? 晩御飯は食べるとして、まだ時間はやいし」
見上げる様にして可愛い顔で尋ねられて、浮かれそうになるのを堪えながら頭を回す。
「ん。そうだね。ほぼずっと立ちっぱだったし、喫茶店でも入ろっか。あと折角だしこの格好残したいよね。プリ、この辺は混んでるだろうし、ちょっと移動する? あとは、普通の写真もとりたいよね。神社で写真撮るのもいいし、なんならスタジオで軽くとってもらうのもいいよね。ちょっと離れるけど私の地元行ったら空いてる写真館あるし、車も出せるよ」
「おー! 車の免許とったんだ? かっこいー」
「そ、そう? じゃあ、とりあえず喫茶店はいって話しながら決めよっか。駅まで向かうまでに空いてるとこあったら言ってね」
「おっけー」
あれこれ思い浮かぶままに提案すると難色は示されなかったけど決め手はなかったみたいなので、とりあえず時間稼ぎも兼ねて休憩することにした。
さすがに会場近くは同じ目的の人がいっぱいいて混んでいたけど、大人数のグループも多かったからか、ちょっとお高めのケーキ屋が空いていたのでなんとか滑り込んだ。
「久しぶりに会えて嬉しいから、ここは私が出すよ。これでいい?」
「うん。ありがと」
京子は素直に私の提案に頷いた。その笑顔可愛すぎる。プライスレス。こういう甘え上手なとこ、ほんと可愛いよね。ますます甘やかしたくなっちゃうし、何でも京子のしたいようにしていいんだよってついついそうしちゃってたんだよね。
でもそれで飽きられたんだし、ニュー私は以前よりぐいぐい行って頼れる大人の女の風格を見せて惚れさせるぞ!
そうして美味しいケーキで一息入れると共に気合を入れ直した私は、京子に媚びすぎず、それでいて京子と一緒に楽しみつつ自然にリードして最高の再会デートを演出していく。
京子が一番可愛く見えるきらきらした瞳の輝きをキープさせることに成功しながら夕食も済ませた。手ごたえしかない。今日でかなりポイントを稼げたのではないだろうか。
元々高校で出会ってから三年の付き合いがあったのだ。恋人としてはともかく、友達としては京子がなにを好きでどういうことにテンションが上がるかくらい知っている。
強引とは言え一度はOKしてもらったのだから、普通に京子を楽しませていれば、惚れさせることは可能なはずだ。この調子でまずは友達として友好関係を復活させ、積極的に遊びに誘ってさり気なくデートして、改めて京子がどういうタイプが好きか探ってより京子の好みになって、惚れさせてやる!
「今日は楽しかったよ。あんがとね。ちょっと疎遠になってたけど喧嘩したわけでもないし、また連絡していい? 連絡先変わってないよね?」
「もっちろん。それは全然いいけど、なんか終わりみたいな雰囲気だしてない? 明日か明後日には返却しなきゃなんだし、今日はオールしようよ!」
「あー、そう? でも逆に脱ぎたいんだけど。さすがにずっとだと疲れたし」
「えー。しょうがないなぁ。じゃあ、友美ちゃん家に寄って、あー、てか泊まっていい? それならゆっくりできるし。無理ならいいけど」
「えっ、無理じゃーないけど」
突然の提案に困惑するけど、夕飯も食べたし、あと寝るだけなら泊まるくらい余裕だ。実家だけど、京子のことは友達の時よく泊めていて家族と顔見知りだし、京子なら全然問題ない。
私の目的としても、好感度を稼げていると言うことなので好都合、なのだけど、いやさすがに順調すぎというか、恋人になってからは私の家には泊めてなかったし、再会して久しぶりでまだ京子の可愛さに落ち着けていないのにいきなり家って。
「じゃ、決定ね!」
つい優柔不断な態度をしてしまう私に構わず、京子は強引にそう言って歩き出した。
ああもう。こういうとこも好きなんだよね! 私もあれこれやりたいなーってなっても中々二の足踏んだりするとこ引っ張ってくれて、そう言う行動力あるとこ最高って言うか。今も変わってなくてほんと好き!!
お、落ち着け私。大丈夫。計画通り? だから。
なんとか自分に言い聞かせ、私はすっかり別れてからどんな文章を送って次の約束を取り付けるか、まで考えていたのを軌道修正するのに頭を使いながら自宅に向かった。
そして自宅である。家族は帰ってきたこと自体に驚きつつ、京子が泊まると言うと久しぶりだねー。って感じで軽く挨拶してスルーされた。まあ京子が恋人だったことは言ってないからね。そりゃあそうだろう。
私の自室に迎えてなんとか着替えて、順番にお風呂もすませた。勝手知ったるとばかりに普通に私の箪笥をあさって寝間着をだした京子は、まだ私も着ていない新品を勝手に開封していた。いいけど、一言くらいあってもいいよね? 相変わらず図々しいな。
「うーん、こうやってお風呂はいると、やっぱちょっと疲れちゃったね」
「そだね。ま、久しぶりだし、ゆっくり話すのでもいいでしょ。そう言えばだけど、あー、恋人とかいる?」
ベッドに並んで腰かけた状態で、今更だけど念のため質問しておく。いたとしても私の計画に変更はない。だってあくまで惚れさせてからフるなので、浮気するわけでもないし、あくまで京子の責任だ。でもまあ、いたほうが難易度が高いのは間違いないからね。
「ふふ、いないよ。友美ちゃんは?」
「いないなー。誰かさんに面白くないってフられちゃったし」
「えー? そんなひどいこと言う人いるんだー?」
「……おい」
笑いながら軽く言われた否定にホッとしながら軽口を叩くと、あまりにひどい言葉に声を低くしてつっこんでしまった。お前、いくらなんでもそれはないだろ。
「え? 私? 私は飽きたから別れただけで、面白くないとか言ってないけど? まあ、思いはしたけど」
「ひっど!」
睨んだ私に悪びれた様子もなく京子はケラケラ笑った。直接言われてなくても、面白かったら飽きないんだしそういうことだ。しかも思ってたって、それ言う必要ある!?
く、くそ。というか、私としては結構いい女になったと自負してるし、結構自信あったんだけど。こうやって京子と再会して話していると、ちょっと不安になってきたかも。
よく考えたら、京子が恋愛的にはどういうのがタイプなのかよくわかってないし。具体的な好みは交友関係復活させてからとは思ってたけど、相変わらず京子めっちゃ可愛いけど、私に対してちょっと毒舌なのも変わってないし。気安いのも距離が近いからだって思ってたけど、実は全然恋愛の相手として見てないからの可能性あったりするのかな?
「ごめんごめん。でも、今の友美ちゃんなら飽きなさそう」
「えっ?」
と、ちょっと不安になったのを隠しながらも今後の方向性をどうするか、と意識をそらした私に、京子はにこっと笑って私の手をとった。なんて?
「ね? 付き合わない? 久しぶりに会って、また好きになっちゃった」
「は?」
は? え? え? なに? もしかして思考読まれてる!?
「ど、ドッキリ?」
「んはは、そんなわけないじゃん。相変わらず友美ちゃんは面白いなぁ」
さっき面白くなかったと言った口でふざけたことを。とツッコむのは簡単だ。だけどぎゅっと私の手を握ってくる京子はほんのり、風呂上がりにしたってちょっと強めに頬をそめていて、それは期間は短いけど恋人としての付き合いの中、初めて手をつないだりして何回かだけ見たときめきの顔と重なって見えて、冗談には見えなかった。
いや、早すぎる。これから惚れられる予定だったのに。いやいや、でも、だからって不都合はない。むしろ好都合! 計画が前倒しになっただけだ。
私が好き!? ふてぇ野郎が! 私の計画通り、魅力的になった私にまんまと惚れやがって! だが残念だったな! 京子はこれから無残にフラれて涙するんだよ! ざまぁみろ! 当時三日くらい夜泣いてた私の悲しみを思い知れ!!
「いやー、そんなこと急に言われてもなぁ」
「ねぇ、駄目? 私の事、もう嫌いになっちゃった?」
「好き」
……は!? く、口が勝手に!
いやだって。困ったなぁ、そんな気なかったのに。ごめんね。と断るつもりだったのに、ぎゅっと握った手を胸まであげて体ごとすり寄ってじっとそのキラキラした目で見つめられてさぁ! 嫌いとか言えるわけなくない!?
「ほんと? 嬉しい。じゃ、改めてよろしくね。友美ちゃん」
「……うん」
いや、ちがくて。あの、はい。いやだって、フラれてからずっと京子を見返してやるって努力したわけで、その、要はずっと私の頭の中から京子が消えないくらい大好きだったわけで。久しぶりに見ても京子めっちゃ可愛いし私が好きだった京子のままだし。はい、あの。
……ま! 今度こそ京子も私に夢中にさせちゃえばいいよね!?
こうして、私がざまぁするはずだった再会の日は、私の恋が再燃する日になった。いやまあ、再燃ていうか、なんならずっと燃えてたとも言えるような。はい。まあ、幸せだからいっか!
○
友美ちゃんは私の大切なお友達で、初恋の人だった。私は自分で言うのもなんだけど飽きっぽくて、つまらないことが嫌いで、友達といつも連れだって日々ルーティーンをこなす、みたいなのが苦手だった。
友達のことはみんな好きだった。例えば本が好きなお友達と一緒に静かに本を読み、好きな本の情報を交換するのは好きだった。例えば体を動かすのが好きなお友達と一緒に休み時間の間ずっと駆けずり回ったりボールをぶつけあったりするのは好きだった。
だけど毎日同じようなことをすると途端に嫌になってしまうから、毎日別のお友達と遊ぶのが一番楽しかった。トイレに一緒に行っていちいち待つとか、そう言う意味の分からない手持無沙汰で暇な時間が一番嫌いだった。
だけどそんな風に飽きっぽい私はみんなにとって理解できないみたいだった。他の子と仲良くしないでとか、私と居ても本当は楽しいと思ってないんでしょとか、そう言うわけのわからない嫌疑をかけられたりもした。八方美人だと言われて避けられたりもした。
そんな私だけど、高校で友美ちゃんと出会って変わった。友美ちゃんは何でも楽しむ多趣味な人で、いつもあれこれと新しいものを探しては楽しんでいた。好奇心が旺盛であれも気になるこれも気になるとなにもかもを好きになる天才だった。
そんな友美ちゃんは私があれは飽きた、と言えばじゃあ次は、とどんどん新しい楽しみを見つけてくれた。飽きたのが嫌いなったと言う訳じゃないと言うのをわかってくれていて、いろんなことを同時進行でたくさん一緒に楽しんでくれた。
いつだって一緒にいて、飽きることなく何をするにも一緒のテンションで楽しんでくれる。そんな人は生まれて初めてだった。
そんな彼女を大好きになるのに時間はかからなかったし、いつの間にかそれが恋愛感情になっていたのも気づいていたけど、そんなことは言わない方が一緒にいられるだろうから黙っていた。
だけど、友美ちゃんから告白してきた。友達すら自分ではつくれなかったのに、恋人になってちゃんとできる気はしなかった。だけど他ならぬ友美ちゃんだから、大丈夫かも知れないと思えた。
「京子はどうする? どうしたい? 合わせるけど」
だけどそうではなかった。恋人になってからの友美ちゃんはいつも私の顔色を窺うようで、いつもみたいにあれがしたい、ああしようこうしようと何にも言ってくれなくなった。私の意見を聞くばかりでつまらなかった。私が言うのに合わせてくれるばかりで、友美ちゃんも本当に楽しんでくれているのかちっともわからなくて、全然面白くない。
恋人になったらもっと二人でできる色んなことが増えて、もっと楽しくなると思ったのに。だけど何より嫌だったのが、大好きだったいつも生き生きしていた友美ちゃんじゃなくなってしまったことが嫌だった。
私と友美ちゃんは恋人になるべきじゃなかったと判断して別れた。だけど友達をやめる気はなかったのに、友美ちゃんは連れなくなって疎遠になってしまった。
やっぱり断るべきじゃなかった。あんな風になった友美ちゃんを見ていられないと思ったけど、恋人になったばかりでなれていないだけだったかもしれない。つまらないなら私が積極的になってもよかったのに。もっと話し合えばよかった。友美ちゃんとの恋人関係は退屈でうんざりして飽きたけれど、友人関係は本当にずっとそうしていたいくらい楽しくて最高の関係だったのに。
いなくなってとても寂しくて、そんな風に後悔をした。
私にはどうすればいいのか分からなかった。私もそれなりに成長し、無難に当たり障りなく人付き合いくらいはできたから、表面的にはなんでもないように日々は過ぎていった。このままなんとなく死ぬまで生きていくのかな。
そんな風に思っていた、成人式の日。ちょっとだけ期待した。もしかして友美ちゃんと会えないかなと。
そうしたら本当に友美ちゃんに会えた。雰囲気は変わっていたけど、かつて大好きだった生き生きして輝いていた友美ちゃんそのままだった。友美ちゃんに声をかけて、その目を見て、あ、まだ私のことが好きだってすぐわかった。
それにちょっとがっかりして、でもすぐに、友美ちゃんが恋人だった時と違って、友達だった時と同じようにきらきらした振る舞いをしてくれて、私はすごく嬉しくなった。
私はいじけて足踏みしていただけだった。でも友美ちゃんは違ったんだ。きっといろんなことがあって変わったんだろう。それに関われなかったのは残念だけど、でも今、友美ちゃんは私を好きだけど、前みたいにはならないんだ。
いつも楽しくてあれこれやりたいことであふれていて、楽しそうに目をきらきらさせていた。私の大好きで楽しくて面白くて恋をした人。
それに気づいて、告白した。私からフったから怒られるかな? ってちょっと思ったけど、全然そんなことはなくてすぐに好きって言ってくれた。そのちょっと照れた感じは可愛くて、でもあの頃と違って力強さがちっとも失われていない、私が好きな顔だった。
「ねぇ友美ちゃん、明日デートしようよ」
「えー……いいけど、疲れたから返却したらあとはお家デートでいい? そうだ、別れてからハマった曲とかおすすめしあうとかどう?」
「いいねー。楽しそう」
「でしょ」
付き合って、明日のデートの提案に友美ちゃんはわくわくすることを提案してくれた。ああ、私の選択は間違ってなかった。
今の友美ちゃんなら、きっと嫌になることなんてない。ずっと面白おかしく生きていける。それに、もしそうじゃない時がきても、今度は私も間違えない。
友美ちゃんはいつも前を見て、どんどん挑戦して変わっていくんだってこと、もう忘れない。もしまたつまらなくなったとして、友美ちゃんを離さずにいれば、きっとまた楽しくなれるんだ。
友美ちゃんと一緒なら、きっと明日だけじゃなく、一年後も十年後も、死ぬまで楽しく過ごせるだろう。私は久しぶりに明日を楽しみに眠りにつきながら、これがずっと続くことを確信した。
おしまい。
ざまぁしようと思ったけどできなかった百合 川木 @kspan
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