バグダンジョンで強くなる!

日進ニ歩

第1話 人生の分岐点

 カシュッ!


 手にしたエナジードリンクの蓋を開け、一気に飲み干す。ブラックな会社へと入社して、いつからか1日の終わりがコレになった。

 時計は深夜2時を指している。


「ふぅ~明日は1年ぶりの休みだ……」


 脱ぎ捨てたスーツを気にせずにベッドへ倒れ込む。

 明日は、というより今日は大災厄に巻き込まれた両親の墓参り毎年この日だけは休みをとっている。


「ダンジョンが現れてもう10年か……」


 スマホの画面に映るのは、スーツ姿の10年前の自分と両親だ。地方の会社へと就職した俺が家を出るときに、記念に撮った写真。


「早いもんだ……」


 就職した先は完全にブラックな会社だった。社員は皆が休みらしき休みもなく働き、残業しても残業代も出ず給与も上がらない。

 それだけの日常が、あっという間に過ぎていく。


 それもこれもダンジョンに依る首都崩壊のせいだろう。


 突如世界の各地に現れたダンジョンそこから溢れ出す魔物。運悪く日本にダンジョンが現れたのは東京だった。魔物には現代兵器は効かなかったために、一方的に虐殺されダンジョンが現れて5日で東京は壊滅。そして暴れ回った魔物達はダンジョンへと戻っていったのだ。


 被害はおよそ2000万人近く、その中には俺の両親も含まれている。


「スキルが有れば……」


 ダンジョンが現れた10日後、不思議な能力に目覚める人達がいた。その不思議な能力をスキルと呼び、スキルに目覚めた人達を覚醒者とよんだ。

 別にスキルを使って仇討ちと思っているわけではなく、この社畜の現状をどうにかしたいだけだ。


 単純に辞めればいいと思うだろうが、スキルを持たない一般人の就職率はかなり低いためにしがみつくしかない。 

 そして俺はスキルを持たない一般人だ。


「ふぅ~寝よ寝よ……」


 無いものは無いのだ。そう諦め、目を閉じればすぐに眠りについた。


 ドンッ!


 と、朝目が覚めてみると1Kの部屋の真ん中に鉄の扉が立っていた。眠気まなこを何度も擦りその扉を見るが間違いなく目の前にある。


「これってダンジョンに続く扉だよな?」


 いつか見た覚醒者配信者の動画を思い出す。その時も配信者はこの扉を通ってダンジョンへと入っていた。


「ダンジョン組合に連絡するか……」


 ダンジョンが現れてこういった例はいくつもある。この場合は、ダンジョン組合がこの扉を管理下に置くため居住者の引越を余儀なくされる。もちろん費用はダンジョン組合持ちだ。


 スマホを取り出し、組合へと連絡しようとし……思いとどまる。


「いや…待て待て…いいのかホントにそれで?」


 そう尋ねる相手は自分自身。


「少しくらい中を覗くだけでも……」


 ゴクリと喉を鳴らす。スキルを持たない一般人がダンジョンへと入るのは推奨されておらず、もしこのままダンジョン組合へと連絡すれば、この先こんなチャンスは巡ってこないだろう。


 そう思うと体が動いていた。


「包丁、鍋の蓋、通勤用のリュックに水とパン、あと懐中ライトとライター」


 思いつく限りの準備をした俺は鉄の扉の前に立っていた。


「ふぅ~……行くか!」


 こうして俺、吉良彼方きらかなた34歳おっさんの冒険が始まった。





 


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