第1040話 逃亡者

 やはりロースランに追われていたのはドワーフたちだった。


 二十人くらいで、女子供も混ざっている。ロズたちもこんな感じだったな。


「オレは一ノ瀬孝人。ソンドルク王国の者で、少し前から逃げてきたドワーフを保護している。お前たちも逃げてきたのか?」


「は、はい。逃げてきた者です」


 一人の女が前に出て答えた。


 ドワーフの年齢は未だにわからんが、そこまで年寄りではなく、若いってわけでもない。三十前後ではなかろうか?


「助けて欲しいと言うなら助け──」


「──助けてください! お願いします!」


 は、判断が早いな。一秒も悩む暇もなかったぞ。


「わ、わかった。まず食料と水を渡す。腹を満たしてら安全な場所に移動する。マルゼ。持っているカロリーバーを渡してやれ」


「了解」


 オレはホームに入ってタワーライト、水の入った二十リットルのポリタンクに紙コップを持って外に出た。


 水を紙コップに注いで配ってやり、またホームに入って湯船を運んでくる。


 水を溜めてヒートソードで沸かした。


「落ち着いた者からお湯で体を綺麗にしろ」


 先ほどの女にタオルを渡した。


「それは汚れたら捨てていいから体を綺麗にしろ。マルゼ、焚き火を頼む」


「了解」


 朝までまだ時間があるし、夜明け前が寒くなる。いくつか焚き火を起こしておこう。


「病気の者はいるか?」


「怪我をしている者ばかりです」


 病気になったら死ぬしかない状況だったってことか。


「これ薬だ。こうして腕に当てて射て。何百人ものドワーフに射ったものだから効果があるはずだ。水虫にも効くそうだぞ」


 禿げには効果はなかったみたいだがな。ブラッギーは遺伝子治療まではできないものらしい。


「……使っていいんですか……?」


「まだあるから病気になったときに使え」


 コンテナボックスからブラッギーを出して渡した。


「お前がこの一団の代表か?」


「今はそうです。マリワと言います」


「言葉が丁寧だが、いいところで使われていたのか?」


 どことなく品がある。かなり地位のあるところで使われていたんだと思う。


「貴族のところで仕えていました」


 こいつも物好きのところにいたってことか。運がいいヤツはどこまでも運がいいこった。


「そうか。まだ逃げた者はいるのか?」


「バラバラになってしまいましたが、二、三百は森に入りました」


 そんなにか。それならまだ生きている可能性はあるな。


「マルゼ。ここは任せる。明るくなったらこいつらを砂浜に連れてってくれ。もし、村の巨人がきたら村まで連れてっても構わない」


「了解」


 すぐに返事をしたマルゼの頭を撫でてやった。


「じゃあ、頼む」


 ここはマルゼに任せてタダオンたちのところに向かった。


 松明を作る技術はあるようで、五人とも松明を木にくくりつけてロースランを解体していた。


「タダオン! オレは少し離れる! 朝になったら砂浜に移る!」


「わかった。こちらはしばらく動けそうにない。すべてを解体するのに二日くらいは動けない。可能なら村に戻って応援を呼んでくれ」


「わかった! 明るくなったら村にいってみる!」


 四十匹もいるもんな。二日で解体できるのも怪しいだろうよ。


 太い木に登り、四メートルくらいのところならジャンプしてホームに入った。


「戦闘強化服に空を飛べる機能をつけて欲しいものだ」


 まさか森の中で入ると、ルースミルガン改が出せないとか考えもつかなかったよ。


 ルースミルガン改に乗り込んでマナ・セーラを起動させ、いつでも加速できる状態で外に出た。

 

 そのまま加速して上空を目指し、充分な上昇をしたら方角を確認。南に機首を向けて広範囲にセンサーを走らせた。


「いた! それも四ヶ所かい! ドワーフ、スゲーな!」


 どんな肉体してんだか。獣人より能力高いんじゃねーの?


「てか、どうしたらいいんだ?」


 まさかそんなに生きて、四ヶ所にわかれているとは思わなかった。しかも、どの一団も一キロは離れている。生き残られるように分散したのか?


「火を焚いて集めるか? いや、夜だから動いてないか。呼びかける? 真夜中に空から声がしたらオレでもビビるわ」


 いい考えが思いつかない。


「ん? たくさんの熱源があるな? 狼か?」


 速さがとんでもない。こんなに速く走れるのは狼くらいだろう。


「仕方がない。一つ一つ回るしかないか」


 飛び降りても平気な高さでホームに入り、EARをつかんで外に飛び出した。


 また枝で落下速度を殺して地面に着地。狼の熱源に向かって走り出した。


 戦闘強化服を着込んでいるので暗さや凹凸は関係なく、EARのバリアーで枝も気にすることもない。


 狼がこちらに気がつく前に横から強襲。連射で狼を撃ち殺していった。


「悪いな、こちらも生きるためにドワーフの命は必要なんだよ」


 執拗に襲ってくる狼たち。手加減も慈悲もなし。魔力が切れるまで引き金を引き続けて狼を全滅──は無理だったが、ドワーフへの襲撃は防ぐことができた。


「やっぱ、寝不足だと動きが鈍いな」


 昨日からまともに眠ってなく、指輪にエネルギーを溜めることに集中していたから思った以上に動けなかったよ。


「ふー。ゆっくり寝るのはまだ先だな」


 ルンを交換してドワーフの一団に向かった。

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