第783話 エンジョイ

 まだロンレアを写してないので、アシッカから撮った分のデータを印刷。ホイトボードに張りつけて皆に説明した。


 オレが異世界人で女神の使徒なのは全員が知っていること。写真のことは総スルーして聞き入っていた。


「……情報が大切なのは心得ていますが、これだけ細かな情報があると申し訳なくなってきますな……」


「まったく。普通に商売している者に顔向けできんよ」


「皆さんの運がよかっただけのこと。それをどう活かすかは皆さんの判断と決断次第ですよ」


 強制しなくちゃ動かない商人は地元でコツコツやってくれたらいい。だが、野望がある商人ならオレは進んで協力させてもらうさ。それはオレのためにもなるんだからな。


「地元に根づいた商売を目指すのもいいでしょうが、商売相手が少ない地で店を拡大するのもいいと思いますよ。今ならセフティーブレットが口利きできますからね」


 ロンレアの港町は人がいない。土地も余っている。その土地を譲渡できるようロンレア伯爵に直談判できる関係(今、ミリエルが関係を築いてくれてます)だ。


 あちらも復興のために資金が必要となる。今ならそこそこ金で一等地が買えるだろう。それを賭けと思うか得と取るか。手にした情報で計算ができる者が一流の商人だろうよ。


「我が商会が名乗りを上げてもいいでしょうか?」


「我が商会も名乗らせてください」


「我が商会も」


 三人の商人が挙手した。


「わかりました。セフティーブレットが全面的に協力させてもらいますが、他の商会も協力して、コラウスとロンレアを繋ぐことに協力していただけると助かります」


 要は皆で儲けましょうってことだ。


 それが理解できる商人たちで集まったのだろう。なんだか最初から決めていた節が見える。辺境の商人なのに優秀なのばかり揃っているよ。


「荷物や人はセフティーブレットが運びます。用意ができた方からここに運び込んでください。今はロンレア復興のためにアシッカから物資を運んでますが、それも十日もすれば落ち着くでしょう。それ以降なら移動できると思いますよ」


 物資もそうたくさんあるわけじゃない。余裕をもって十日と見ておけばいいだろうよ。


「あ、街で仕事に溢れている者ってまだいますか?」


「いえ、ほとんどの者は囲い込んでいますね。今は給金高騰になっています」


 それを望んでいたとは言え、もうそんな状態にまでなってんのか。急すぎんだろう。


「どこかに人はいないもんですかね?」


「ミジャーで飢饉が起こるなら人は豊かなところに流れてはきますね」


 そうか。コラウスを守っても他がミジャーに食い荒らされたら難民が出るか。コラウスのことばかり考えていたから思いもいかなかったよ。


「……難民が流れたときの対処法も考えておかないとダメか……」


 そんなのオレが考えることではないんだが、難民問題は元の世界でもあった。この時代のヤツなら放置して治安を悪くしそうで心配だ。領主代理がやらなかった場合を想定しておくとしよう。


「対処法などあるのですか?」


「難民が難民となるのは仕事がなく食べるものもないからです。なら、仕事と食料を用意すれば大半は片付けられますよ」


 ただ、その仕事と食料を用意するのが大変なんだが、仕事はたくさんある。復興や道を造るとかな。人口減が起きているんだから難民は助け船だ。土地を与えたら開墾してくれるんだからな。


 最大の問題は食料。こればかりはなんとも言えん。コラウスのことしか考えてなかったからな。


「まあ、難民が起こるのはもうちょっと先。それまで考えればいいでしょう」


 先延ばしだが、そう簡単に対処法が出るわけじゃない。まずはロンレアを復興させるほうが先だ。ロンレアさえ復興できたなら塩は確保できる。塩だけは確保できたら塩漬けができる。最低限の保存食は揃えれるはずだ。


「オレはロンレアにいるので、シエイラと相談して行ってください。話は通しておきますので」


 またシエイラの仕事を増やしてしまったが、落ち着いたら休みを与えてエンジョイしてもらうとしよう。


 ロンレアの情報はミリエルが集めてくれているので、会議室に写真を貼ってもらうか。情報があれば用意するのもわかるだろうからな。


 商人たちが帰ったら職員と打ち合わせをする。職員たちとのコミュニケーションも大切だからな。


「タカト。シエイラが帰ってきたよ」


 雷牙がやってきてシエイラが帰ってきたのを教えてくれた。


 しばらくしてちょっと疲れた様子のシエイラ。これは城にいってきたな。


「ご苦労様。ホームで休んできていいぞ。今日は館にいるから」


 なんでもかんでもシエイラに任せにしたら悪いからな。オレで決められることは決めて、館のことや集めた情報を確認しておくとしよう。


「そうさせてもらいます。領主代理様と話すのは疲れますから」


「そうだな。あの人と対峙するのは疲れるな」


「領主代理様はマスターと話すと疲れると言ってましたよ」


 なんじゃそりゃ? オレはあの人みたいに厳しくないぞ。


「ふふ。領主代理様が時間ができたら城にきて欲しいそうよ」


 疲れるなら呼ばないで欲しい。オレだって領主代理と話すのは疲れんだからよ……。

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