ミリエル・ロンレア編

第774話 城下町に向けて

 ルースカルガン一号艇が着陸して、エレルダスさんたちが降りてきた。


「お疲れ様です」


 よくタカトさんが使う挨拶がわたしの中で馴染んでしまい、反射的に出てしまうようになった。


「空の様子はどうでした?」


「よく残っていたものだと思ったわ。港のほうは壊滅に近いし、田畑は完全に緑に覆われている。人間とは凄まじい生命力を持っている種族だと感じたわ」


 人間は他の種族と比べると弱い。でも、タカトさんに言わせると、弱いから強いとのことだった。 


「そうですね。種族特性としてしぶといんでしょうね。タカトさんがまさに人間の代表みたいな存在ですから」


 タカトさんは強いとは言えない。でも、集団の中で立ったときは異次元の強さを見せる。他の人がロンレアにきてもこう短期間で掌握なんてできないでしょうよ。効率的で効果的。どんな状況でもそれを選択できるんだから呆れるしかないわ。


「ふふ。そうね。苦境ほど輝く人ね。本人は認めたくないでしょうけど」


 確かに。タカトさんとしては平和なところで凡人として生きたかったでしょうよ。


「プレクシックは転移されていましたか?」


「いえ、まだのようよ」


 てことは、まだタカトさんは海を見てないということか。


「港も壊滅状態だし、タカトさんにはまだ海を見ないよう伝えておきますね」


「そうね。海に大きな魔力の反応もあるわ。恐らくグロゴールの影響かもしれないわ」


 どう影響しているかはわからないみたいだけど、グロゴールがきたことでロンレアは壊滅し、地上には魔物が溢れた。なら、それが海でも起こっても不思議ではないわ。それならロンレアの民は海から逃げたらいいんだからね。


「お昼を食べたら出発しましょうか。ロプスさん、よろしいですか?」


 ロプスさんはコラウスの商人で、ミーシック商会の会頭さんだ。ロンレアに何度もきたことがあるというのでお願いしてきてもらった人だ。


「構わんよ。長旅をしたわけでもないからな」


 五十二歳と高齢な人だけど、カインゼルさんと同じで三十代のようなバイタリティーさがある。ロンレアにいく話をしたらさらに若返ったみたいだとシエイラが言っていたわ。


 人は目標や遣り甲斐を見つけると元気になるから不思議なものよね。それともこの年代の人は強いのかしら?


 ホームから昼食を運んできて皆で食べた。


「まずは城下町を目指します。港町を迂回するからライカとロイズたちは警戒を怠らないこと。ライズさんとマーリャさんはエレルダスさんの護衛を。メーとルーはわたしの側にいなさい」


 昼食を食べながらミーティングを行う。


 マイセンズから似たようなチームメンバーだけど、ミーティングは小まめにして意志疎通をしておく。命をともにするメンバーでもあるんだからね。


「ミリエル様。城下町までの道はあるのか?」


 ライカが質問してきた。


「映像を見た限り、ほぼないのと同じね。切り開いていく感じになると思うわ」


 人の往来がなくなって十年以上。道をなくすには充分な時間だ。なら港町を突っ切る、ってことはしない。街中もまた安全ではない。生き残りがゴブリンと化している状態だ。どちらも安全ではないのなら気にせず銃を撃てる外を迂回したほうが楽だわ。


「ロプスさん。道は覚えていますか?」


「細かい道は覚えていたいが、城壁づたいに道があった。そこを進めば迷うこともないはずだ」


 なるほど。城壁づたいか。確かにそれなら迷うこともないし、時間もかからないわね。


「でも、草木が邪魔で通り難いんじゃないですか?」


 ルーが声を出した。


 ミーティングは誰が発言しても構わない。わたしの発表会にならないよう注意しろとタカトさんから言われているからね。


「そうね。あまりにも草木が生えていたら夜まで着けないかもしれないわね」


「巨人にお願いしますか?」


 視線を巨人たちに向けた。


 結構な数を連れてきたけど、途中の要塞や廃村に置いてきたから二十人以下になっている。今も巨人区を築くために忙しくしている。ラダリオンもサポートに回っているからお願いもできないわ。


「そうだ。タカトさんから機動歩兵を借りてくるわ」


 あれなら草木を薙ぎ払えるはずだわ。


 機動歩兵G兵器は搭乗者登録すれば誰でも操れるとタカトさんが言っていた。


 搭乗者の魔力で稼働時間が決まるらしいけど、わたしの魔力なら問題ないわ。補充した青い魔石は腐るほどあるんだしね。


「少し、タカトさんと話してきますね」


 今ならまだホームにいるはず。すぐに入ると、ちょうど準備をしてダストシュートしそうなタカトさんとライガがいた。


「よかった。タカトさん、機動歩兵を借りてもいいですか? 城下町までの道を切り開きたいので」


「ああ、構わないよ。そこの大きいマチェットを持っていくといい。十年ていどの草木なら切り裂けるだろうからな。面倒なら燃やしても構わないよ。風が強くなければ燃え移ることもないだろうからな。仮に燃え移っても気にしなくていい。酷いならオレがいくから」


 たまに意図のわからない発言をするけど、ちゃんと理由があるからタカトさんに勝てないと思うわ。


「大丈夫。責任はオレが負うから自分が信じたやり方を実行するといいさ。機動歩兵はコネクトすればG子が説明してくれるから」


 そう言ってライガにダストシュートされて外に出た。


「ライガ。タカトさんをしっかり守るのよ」


「任せて!」


 ライガも出ていき、わたしも機動歩兵を出す作業を始めた。

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