第765話 即撤退主義者

「「おはようございます、孝人様」」


 外に出ると、マリンとカレンに迎えられた。


 こいつらはゴーレムであり素体フィギュア。意思があるわけでもなく魔法(?)で動いている。イチゴも似たようなものだが、なぜか同一に見れない。


 しゃべるオモチャに感情を籠めて「おはよう」と返せなかった。


 ……三十の男がヌイグルミにおはようと言ってんの見たらどう思うよ……?


「ああ、おはようさん。具合はどうだ?」


 無視したいところだが、これらはエルガゴラさんの持ち物。財産と言っていいもの。無下にはできん。まあ、あれだ。オッケーなんとかシなんとかと同じもの。そんなものだと思えばいいだけだ。


「問題ありません。魔力も充分足りております」


 こいつら魔力で動いてんだ。この世界、魔力エネルギーで動いているんだな。


「問題があればすぐに言え。身の危険を感じたら速やかに逃げろよ。オレはさっさと逃げるからな」


 こいつらがどこまで戦えるかわからないし、オレは身の危険を感じたら即撤退主義者。危険に挑むときは万全の用意をしてからだ。


「マーダ。ミーティングをする。ニャーダ族だけ集めてくれ」


「わかった」


 廃集落の外にキャンプ地を築いてもらい、巨人と小さい種族を区別した。夜中、巨人の下にいるのは危険だからな。


 ニャーダ族だけと言ったんだが、ヤカルスクさんやロイスたちも集まってきた。まあ、いいけどさ。


「朝飯は?」


「昨日の余りを食ったよ」


 焼き肉食べ放題、ほんと便利で安上がりだよ。一人三千円くらいで二食分になるんだからな。


 ……まあ、贅沢舌になって他のものが食えなくなるのは困ったものだけどよ……。


「話し合ったんだが、ニャーダ族は先行して海を目指してくれ。恐らく、アルズライズたちもいっていると思う。いるなら合流してロンレアの情報収集、拠点確保、魔物がいるなら排除を頼む」


「魔石探しにも飽きていたしな、任されよう」


「頼む。オレらは後方を固めたり道を整備しながら進むから、到着は五日から七日と見ておいてくれ。必要なものがあるなら用意するから遠慮なく言ってくれ」


 ミリエルを同行させたかったが、新要塞建造に物資を運んだり食料を運んだりしないといけないからミリエルに指揮してもらうようにしたのだ。モリスの民を纏めるってこともあるからな。


「これと言ったものはない。あまり荷物が増えると動き難くなるからな」


「タカト。オレも先にいっていいか? 地理的情報を知っておきたいからな」


 とはエルガゴラさん。人工衛星からの情報は持っているはずだが、すべての情報がわかるわけではない。それを分析できる者もいないからな。


「わかりました。では、これを持っていってください」


 オートマップと人がいた場合に備えて金を渡した。


「よし。では、三十分後に出発だ。すぐに準備しろ」


 あとの指揮はマーダに任せ、巨人たちのところに向かった。


「ラダリオン。持ち上げてくれ」


 元に戻ったラダリオンにつかまれ、巨人が作ったテーブルの上に置いてもらった。


「体調はどうだ?」


「飲みすぎ食いすぎで太っちまったよ。こりゃ、村に帰ったら怒られるな」


 ゴルグが場を和やかにするために冗談を口にした。


 こいつは本当にコミュニケーション能力が高いよな。面倒見もいいし。家族がいなければこいつを巨人のリーダーにしていたところだ。


「じゃあ、仕事をして痩せてもらわんとな。誰か要塞に向かってくれないか? あそこに新しい要塞、と言うか、町を造ろうと思う。あそこさえ押さえてしまえば街道の往来もよくなるからな」


「そうか。誰かいこうと思うヤツはいるか?」


「そこにはミリエルがいるから食料や生活物資に困ることはないぞ」


「それなんだが、ここをおれらがもらったらダメか? ここにも巨人の村を作りたいんだ」


「ここを? 街道から離れているし、川もないだろう。暮らすのは大変じゃないか?」


「街道から離れているからいいのさ。水も井戸を掘れば問題ない。それに、あの山のしたに湖があった。いずれ川も整備すれば暮らしやすくなるだろう」


 巨人って何気に都市開発能力が高いよな。ダメ女神は都市を発展させるために生み出したのか?


「わかった。ここを巨人の村にするよう働きかける。ついでに田畑も作ってくれ。果樹園なら巨人の体でも栽培できるだろうからな」


 人間だってブルーベリーを摘めるなら巨人だってリンゴサイズなら摘めるだろう。麦は無理でも果物なら生産できんだろうよ。


「それだとかなりの広さになるぞ」


「誰も住んでないんだ、オレらでいただくとしようじゃないか。所有権を先に宣言したもの勝ちだ」


 人が住んでいたってことはロンレア伯爵領かもしれないが、管理できてない時点で放棄したようなもの。自分の土地を守れない時点で領主は名乗れない。もし、伯爵が生きていたら復興手当としてここをもらうだけだ。


「そうなると街道整備の人数が減るな」


「まあ、要塞からの道はそう悪いもんではなかった。十人もいれば問題ないさ。道作りの職人はいるからな」


 道作りの職人は橋作りの職人でもある。メインがいるなら半分抜けても問題ないか。


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