第717話 助かる *75,000匹突破*

 荷台を調べたら布の束が出てきた。


 他の荷台もほとんどが布。あとは小麦や芋、豆なんかが積まれていた。


「ミヤマランは綿花の生産地だからな、手っ取り早く金にするにはちょうどいいかもな」


 そうなんだ。ミヤマランが大領地でいられる理由が綿花ってわけか。んじゃ、ありがたくいただいておきます。


 メビたちがくるまで時間はある。ホームに入れられるだけ入れるか。


 ルジューヌさんに協力してもらい、メビからの連絡がくるまで馬車二台分の布をホームに運び込めた。


「悪いが、こちらにきてくれ。戦利品を回収する」


 布は貴重だ。いくらあっても困らない。いただけるだけいただくとしよう。


 村から見えないようにきてもらい、ホームから出してきたコンテナボックスに入れてもらった。


「嫁さんたちに渡してやれ。喜ぶだろうよ」


 意外と言っては失礼かもしれないが、ニャーダ族の女って裁縫が得意なんだよな。マーダたちの服も作ってしまうほど。もう職人じゃん! って感じなんだよ。


「それは助かる。金より布や針道具のほうが喜ばれるからな」


 うん。怒ると阿修羅になる女性には媚を売っておこう。


「ミサロに言って渡してもらうよ。ちゃんとマーダたちからのお願いだってな」


「ああ。本当に助かる。側にいてやれないからな」


 もう狩りをしなくなっていいとなると、別の形で家族を養い、成果を見せなくちゃならない。給金って概念がないニャーダ族は大変だ。


 馬車のものをすべてホームに運んだら村に向かった。


「プランデットをかけろ。十五時に襲撃する。偉そうなヤツだけ生け捕りにしろ。他は殺しても構わない。もし、狩り用に捕まえたいなら三十匹まで許す」


「三十匹までだな。わかった」


 どれにするかはマーダたちに任せ、各自、村を囲むように移動した。


 オレとメビ、ルジューヌさんはチームとなり、村の北側についた。


「メビ。獣化兵が出たら足止めに徹してくれ。イチゴに当たらせるから」


 イチゴより下だが、マーダたちよりは上ならメビでは無理だ。だが、メビは機動力がある。足止めには適しているはずだ。


「了解。殺せるなら殺していいんでしょう?」


 なんか聞いたことあるセリフだな?


「ダメだ。ゴブリンどもに利用されているかもしれない。命さえあれば片足くらい奪っても構わないが、殺すことは絶対にダメだ」


 痛い思いをさせるのは申し訳ないが、最初から見捨てる考えではニャーダ族に示しがつかない。助ける姿勢を見せておかないといけないのだ。


「了解。タカトは前に出ないでよ」


「ああ。ニャーダ族が戦っている中には入らないよ」


 そんなの自ら死にいくようなもの。いけと言われても全力で拒否するよ。


 十五時になり、マーダたちが動き出した。


「いってくる──」


 メビも腕時計を確認して飛び出した。


「ルジューヌさん。オレたちは移動します」


 エレルダスさんと合流するため林から出た。


「イチゴ、いけ! 獣化兵が出たら相手しろ! だが、殺すなよ! 生命反応があればいい!」


「ラー」


 イチゴも飛び出していった。


「エレルダスさん。偵察ドローンの操作をお願いします。逃げる者がいたら報告してください」


「わかりました」


「ルジューヌさんはエレルダスさんの護衛をお願いします。オレは援護の用意をしますんで」


 すべてをニャーダ族に任せるわけにはいかない。獣化兵が一人とも限らないからな。ったく、何人いるか教えやがれってんだ!


 ──ピローン!


 もう二千匹を駆除したのかよ。乱戦なのか?


 ──七万五千匹突破! 順調順調。残り八千匹も余裕だね! あ、獣化兵は五匹だよ。チートタイムでも危ないかも。まっ、がんばれ!


「クソがっ!」


 ホームに飛び込み、すぐに出せるようにしていたパージパールをつかんで外に出た。


「メビ! マーダ! 獣化兵は五匹だ! 殺す勢いでやれ! 無理なら逃げろ!」


 もうニャーダ族への配慮とか言ってられない。下手な手加減は身を滅ぼすだけだ。殺すつもりで当たれだ!


「クソ! 五匹いるんなら先に言いやがれ! 現場にきて言ってんじゃねーよ!」


 パージパールを構え、プランデットで魔力反応を探った。


 獣人は基本、魔法は使えないが、魔力はあるそうで、身体能力が高いのはその魔力を使っているからだそうだ。なら、獣化するとき魔力値が高まるってこと。それを狙えばいい。


「いた!」


 今まさに魔力値が高まっているのがいた。


「悪いな、救ってやれなくて」


 パージパールはプランデットと連動なので外すことはない。引き金を引いたら獣化兵の腹部をレーザーが貫き、真っ二つになってしまった。


 高出力だから一発撃つとマナックを装填しなくちゃならない。あと、高熱を放つから次を撃つまでに三十秒はかかってしまうのだ。


「クソ! 残りも獣化を始めやがった! メビ! 二十秒稼いでくれ!」


 メビは銃器だけじゃなくスタングレネードの扱いやライトでの牽制も心得ている。二十秒は稼いでくれると信じている。


「了ー解」


 いつもの返事なのに頼もしさが詰まっていた。メビはリーダーには不向きだが、一人の戦士としては重要な場面では一番頼りになるヤツだよ。


 獣化兵のバケモノ染みた動きから逃げながらスタングレネードで牽制しながら二十秒を稼いでくれた。


「さすがだ!」


 引き金を引き、獣化兵の背中を撃ち、上半身を吹き飛ばした。


「イチノセ、獣化兵を倒しました。次に移ります」


 イチゴのほうが強いとは言え、一人を倒すために一分近く費やしてしまった。


「残り二匹だ! 最後まで油断するなよ!」


 オーバーヒート気味のパージパールを地面に置いて村に駆け出した。

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