第716話 ナジル村
飛んですぐ、ナジル村が見えてきた。
規模は小さいが、やたら煉瓦造りの倉庫が並んでいた。なに入れてんだ?
「イチゴ、周辺の赤外線反応を調べろ」
「ラー」
オレは村の赤外線反応を調べる。
反応は二百六十八人。村の規模から考えたらなかなか多いな。今の時刻なら農作業している頃なんじゃないか? なんで村の中に集まってんだよ?
上空からではオートマップは記録してくれないので頭の中に記憶させた。
「イチノセ。周辺に赤外線反応は四十六。他は家畜の反応だけです」
外に出ているのが本当の村人ってことか。逃げられたら公爵の兵に任せるとしよう。
「よし。降りるぞ」
平地なので隠れる山がないが、所々に林がある。畑仕事をしている者に見つからないよう、人が少ない林の近くに降りた。
「エレルダスさん。イチゴに護衛させますが、一応、武装しててください」
戦闘経験はないが、最低限の装備はしててもらおう。なにが起こるかわからんからな。
プレートキャリアと防弾ヘルメット、EARを装備してもらった。
「ルジューヌさんは、この辺のこと知っていますか?」
「通ったくらいで詳しくはない。ここは街道から離れた村だからな」
「あまり重要視されてないので?」
「ああ。土地が悪くて農作物が育たないのだ」
「それは昔からで?」
「ああ。祖父の代は豊かだったらしいが、五十年くらい前から土地が悪くなったそうだ」
それはまた悪意を感じるな。五十年前くらいからヒャッカスって組織がミヤマランにやってきたんだろうよ。
偵察ドローンとサーチアイを取り寄せ、村を探ることにする。
オートマップも取り寄せ、プランデットで村の様子を観察する。
逃げる準備をしているようで、馬車に荷物を積んでいる。土地が悪いってのに結構貯め込んでいること。金じゃなく物品で貯め込むのがこの時代なんだろうか?
まあ、金だって無限にあるわけじゃない。一都市からごっそり金がなくなったら大騒ぎになるし、その前からウワサに上がっているわな。
「財産抱えて逃げるのも大変だ」
「まだ逃げるのに余裕を感じているのでしょう。見張りもまだ本気になっている様子もありませんし」
確かにまだピリピリした空気は流れてない。逃げる自信があるんだろうよ。
「仕掛けるか?」
「さすがに無理ですよ。援軍がくるまで待ちます。あ、これを持っててください」
プレートキャリアから回復薬小を二粒出してルジューヌさんに渡した。
「いいのか? 神代の薬なんだろう?」
やはり知っていたか。情報を共有してんのかな?
「さすがに公爵の娘さんになにかあったら困りますからね。万が一のときはすぐに飲んでください。返さなくていいので」
ロンダリオさんのほうで稼いでくれるからな。一万匹倒せたなら十回はガチャを引ける。十回もあれば回復薬が当たんだろうよ。
しばらく様子を見ていると、数台の馬車が動き出した。本当に行動が早い組織だよ。
「エレルダスさんとイチゴはここに。メビたちがきたら村を襲え」
そう伝え、ルジューヌさんとブラックリンに乗り込んで先行した馬車を追いかけた。
「ルジューヌさん。人を殺したことは?」
「何人もある」
短い答えの中に重みが含まれていた。それでこの人がわかるというものだ。
「あいつらはゴブリンです。人に害を与える畜生です。そこに男も女も関係ない。害獣は駆逐する存在です」
あれは都市型ゴブリン。ただ、報酬が入らないだけの害獣だ。
「話を聞かなくてよいのか?」
「末端に訊くことはありません。訊くことは大体聞きましたからね」
末端に知らないこともあるだろうが、そんな細かいことは公爵に任せる。オレは捕まえられたニャーダ族を取り返し、その報いを取らせるのが目的だ。それ以外はなにも求めちゃいない。ただ、ニャーダ族の信頼を繋ぐだけに都市型ゴブリンを駆除するだけである。
充分村から離れたら後方から襲いかかり、馬車の車輪を壊していった。
「いきますよ! オレの前に出ないでください!」
「おう!」
ブラックリンを自動操縦にして二メートルくらいの高さから飛び降りた。
エルガゴラさんに自動供給されるアイテムバックとコーティングされたX95を使っているので、ゴブリンどもに反撃される前に撃ち殺していった。
そこまで戦闘能力を保有しているわけではないようで、続々と逃げ出している。やはり末端構成員のようだ。
バラバラに逃げたすが、X95の射程内から逃れるわけもなし。狙撃能力が乏しくても数撃ちゃ当たる方式で駆除してやった。
「タカト! こちらは全員殺したぞ!」
どんな戦いをするか見れなかったが、オレより肝が座っているようで顔色は悪くなかった。場数が違うんだろうな。自分が情けなくなるよ。
「了解! 怪我はしましたか?」
「大丈夫だ!」
合流して生き残りがいないかを一緒に確かめる。
「よし。生き残りはなしですね。荷物を調べるんで見張りをお願いします」
なにを持ち出したか調べておくとしよう。
「わかった」
X95を背中に回し、馬車の荷台を探った。
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