第693話 プレクシック

 二時間近くかかってルースカルガンが戻ってきた。


「遅くなってごめんなさい。巨人の村にルースカルガンを降ろせる場所がなくて手間取ってしまったわ」


「あー。巨人だから場所は空いていると思っていました。こちらこそ考えが足らず申し訳ありません」


 あるだろうと進めてしまった失敗ね。もっと前準備を整えないとダメだわ。


「ロースランが襲ってきたのですか?」


「はい。まだ若い個体の群れのようです」


 エレルダスさんは、死体を気持ち悪く思わないタイプなので倒したロースランを確認してもらった。


「やはり、地上に続く道があるようですね」


「塞げればいいのでしょうが、今の段階では人を割けるのは困難でしょうね」


 アシッカにもコラウスにも人的余裕がない。巨人だってアシッカに足場を作らないといけない。ここに連れてくることはできないでしょうよ。


「しばらくはマイセンズの者に任せるしかありませんね。プランデットを使えるようになれば復活の道も近いでしょう」


「タカトさんは、ここを復活しようと考えてましたが、それは可能なんでしょうか?」


 エレルダスさんと出会う前からここを復活できないかを考えていた。圧倒的な技術差があるのに可能なの?


「可能と言えば可能でしょう。ですが、それは数百年かけての復活でしょう。わたしたちの三分の一しか生きられないのに、タカトさんはよくやろうと考えたものです」


 タカトさんは先の先を見て動いている。正直、気の長いことだと思うけど、こうして着実に近づいているところを見せられると未来が見えているのかと思ってしまうわ。


「ロンガルはまだ目覚めないですか?」


「あと五時間は起きないと思います」


 人間とゴブリンでしか試したことないけど、だいたい七時間くらいは目覚めない。ロンガルも同じくらいなんじゃないかな?


「では、まずロースランを運ぶとしましょう。食料があったほうが巨人も喜ぶでしょうからね」


 巨人にしたら二日分くらいの量でしかないでしょうが、巨人が肉を食べられることは少ない。そもそも、毎日食べられるようロンガルを運ぼうとしているのよ。


「わかりました」


 それからロースランを皆でルースカルガンに積み込んだ。解体は巨人にお願いするとしましょう。


 次は一時間くらいで戻ってきた。早いわね?


「ビシャがアシッカに飛んで応援を呼んできたのよ」


 巨人の足なら一時間くらいでこれるのかしら?


「コラウスから一号艇を呼んだから積み込みも早くなると思うわ」


 と、言っている側から一号艇がやってきた。なんだか時間感覚が狂いそうになるわね……。


「ヤカルスクさん。ありがとうございます」


 エルフらしからぬヤカルスクさん。なんだかさらにワイルドになってない?


「気にしなくていい。毎日領主代理を運んでいるわけじゃないしな。こうしていろいろ飛べるほうが気が楽さ」


 なら、なぜ城担当になったのかしら?


「それならよかったです。では、ロンガルを運び入れますね」


 まあ、ヤカルスクさんのことはどうでもいい。さっさとロンガルを運び入れるとしましょうかね。


 巨人になってロンガルを格納デッキに押し入れた。


 やはり二艇になると輸送力が高くなり、その日で四匹のロンガルを運ぶことができた。


 では、それで終わりとはならず、ロンガルを運び出したら港を使えるようにしなくちゃならない。またここにこなくちゃならないんだからね。


 ルースカルガン一号艇に乗り、港に向かった。


 ランダーズで運び出している間にロイズたちが林を切り開いてくれた場所に発電機やコンテナハウスを設置する。


 それで四日くらいかかってしまい、一日休みとした。


「ローガーの卵があったのに水が綺麗ですね」


 タカトさんは毒をばら撒いたとか言っていたのに。


「水の中にもエウロスを放っているので浄化されたのでしょう。でも、飲まないように注意してください。エウロスが人間の体にどう影響するかわからないので」


 うん。ウルトラマリンを持ってこようとしたけど、止めておくことにしましょう。

 

「そう言えば、あの船って動かせないんですか?」


 半ば沈んでいる大きな船を指差した。五千年前はルースカルガンが載れそうな船が浮かんでいたのね。と言うか、あんなのが通れる通路があったことに驚きだわ。


「修理をすれば動かせると思いますが、ここから出すのは難しいでしょうね」


「では、修理をお願いします。いつか女神に外に出してもらえるようタカトさんからお願いしてもらいます」


 魔王と戦うソレガシさんって方は海の向こうの国にいるらしい。いずれ会うこともあるだろうと女神が言っていたそうだ。


「海の向こうにもゴブリンがいるなら海を渡っていくことも考えないといけません。今から用意をしておきましょう。それが無駄に終わったとしても」


 タカトさんほど未来を予想する力はわたしにはない。だけど、タカトさんが長く生きるならこの国以外のゴブリンも駆除させられるでしょう。そのための準備は今からしておくべきだわ。


 ──ピローン!


 え? 女神のアナウンス音?


 ──その意気やよし! 孝人さんが海を見たとき、プレクシックを海に転移させてあげましょう。それまでに修理しておいてね~!


 ………………。


 …………。


 ……。


「はぁっ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る