第671話 有益な情報

 ロイズの話では、黒の五団は国内の犯罪者で構成されており、こちらにくるのは珍しいとのことだった。


 その犯罪者は三十人ほど。どいつも精気はなく、痩せこけ、これで二、三十キロもありそうな荷物を担いでいるんだからこの世界ってバグっているよな。オレだったら初日でくたばっているよ。


 水はホーム連動型水筒でバケツに入れてやり、犯罪者たちが手持ちの革袋(水筒)に入れていった。


「ミヤマランでは犯罪者奴隷も買えるんですか?」


「理由にもよる」


「アシッカからミヤマランまでの道をよくするためです」


「……なぜ?」


「今年からコラウスからアシッカまで道の整備を行います。この道がよくなればミヤマランまでかなり短縮でき、商売は活発になり、輸送も活発になる。そのためには人の手が必要なんですよ」


 こいつらがオレの思惑をどこまで理解できたかはわからないが、オレの言葉は必ず上に伝わるはず。行商奴隷団は荷物を運ぶだけじゃなく、情報収集も兼ねているだろうからだ。


「……断言はできないが、ミヤマランの商人の耳に入れば売るかもしれない」


「つまり、商人の意向は強い、ってことですか」


「そうだな」


 裏の世界で活躍してそうな行商奴隷団とは言え、商人たちをどうこうできないってことか。


「やはり、商人を動かすのが手っ取り早いってことか」


 そこに権力者の利を加えたら歴史すら簡単に動かせるだろうよ。そんなヤツらに目をつけられるのは嫌だけどさ。


「オレは商売のことはよくわかりませんが、商売が活気になれば奴隷の価格も上がる。奪い合いが起こるでしょう。今から対策を考えておくよう上に伝えておいてください。奴隷不足になればそちらの意義が問われることになるでしょうからね」


 奴隷が不足するならどこかからか連れてくるしかなくなる。まずは自分のところで抱えているモリスの民を集めるはずだ。そうなればこちらのもの。この国は自ら墓穴を掘ることになるだろうよ。


 ……まあ、行商奴隷団に頭のいいヤツがいたら見破られるだろうがな……。


 代表者らしい男はなにも返してこなかったが、それは自分の権限ではどうしようもないことなんだろう。それで団長(仮)の権限がどれほどのものかわかるというものだ。


「水の代金となるかわからないが、ミヤマランのマルダラと言う地でゴブリン被害が大きくなっている。詳しいことはミヤマランの冒険者ギルドで尋ねるといい」


「マルダラですか。それは貴重な情報をありがとうございます。なによりのお礼ですよ」


 徳用の飴を取り寄せ、団長(仮)に渡した。


「飴です。その包みを外して食べてください」


「……そうか。ありがたくもらっておく。いくぞ!」


 荷物を担ぎ直し、黒の五団はミジア方面に去っていった。


「ロイズ。お前たちはアシッカに先行して徒歩でミヤマランに迎え。そこでモリスの民を買いまくれ。あと、ウワサを流せ。アシッカとミヤマランまでの道を築こうとして、そのために奴隷を集めているってな」


 金はないのでゴブリンの魔石を取り寄せて渡した。


「コラトラ商会のノーマンさんを頼れ」


 ノーマンさんに状況がわかるようにロイズに代筆してもらった。


「あと、回復薬大と回復薬中も十粒渡しておく。大は奴隷紋を消せる。仲間に引き込めるヤツに使え」


 十人もいればそれなりの数となり、ミヤマランで活動しやすくもなるだろう。


「オレがいくまで派手な動きはするな。もしものときは迷わず逃げろ。捕まったのなら堪えろ。必ずオレらが助けにいくから」


 ロイズたちは優秀だ。そんな優秀な人材を失うわけにはいかない。ミヤマランと敵対しても救い出す価値はある。だから絶対に死ぬなよ。


「ハッ! わかりました!」


 なぜか元の世界の敬礼をするロイズたち。誰に仕込まれた?!


「いくぞ!」


 パイオニア五号に乗り込み、アクセル全開でアシッカに向けて走り出した。


「よし。オレらもいくか」


 パイオニア四号に乗り込み、出発する。


 それから何事もなく森を抜け、次の日にはアシッカの領地に入った。


「草が生えると印象が変わるな」


 ゴブリンに踏み荒らされた畑が綺麗に耕かされ、なんかの芽が出ていた。


 逃げ去った農民が戻ってきたのだろう。あちらこちらで農作業している者が見て取れた。


 城壁の周りにも建物が増え、たくさんの人が働いていた。


「こんなにいたんだね」


「だな」


 人とは強い生き物である。これなら残り五千年も生き抜いていけそうと思えてしまうよ。


 まずは城外にあるセフティーホームの拠点に向かった。そこは巨人が住む場所でもあるからだ。


「ここも変わったもんだ」


 マンダリンの空港として考えていたが、完全に町になっていた。これじゃルースカルガンが降ろせんだろう。


「マスター!」


 職員のマリーダがオレたちに気づいて駆け寄ってきた。


 マリーダはセフティーブレットの女性職員で、ここを任せている支部長でもある。


 まだ十代と若いが、シエイラの推薦なので任せているのだ。


「ご苦労さんな。問題は出ているか?」


「人が増えすぎていることですね。やはり、セフティーブレットの輸送力を借りたいと、商人たちが集まってくるんです」


 まあ、致しかたない、って感じだな。ここはコンクリートを敷いてもらって平らにしたからフォークリフトが動かしやすいんだよ。


「モニス。巨人が休める場所がある。とりあえず今日はゆっくり休んでくれ」


 商人たちの支部や倉庫以外に巨人が住める家もある。こりゃ、ルースカルガン用の発着場を造らんといかんな。


「マリーダ。誰かつけてやってくれ」


「わかりました。ライダさん、お願いします」


 あとは任せ、オレらは支部の建物に入った。

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