第670話 黒の五団

「派手に暴れたものだ」


 ゴブリンのコロニーは山一つを利用したもので、前にも見たような感じだった。


 肉片があちらこちらに飛び散り、魔力を奪うとか無理っぽい。これじゃ魔石を見つけるのもしんどそうだわ……。


「タカト! 生き残りっている? あたしらじゃわかんないよ」


 諦めようと考えていると、メビがやってきた。


「ああ、結構いるからメビはマナイーターで魔力を集めてくれ」


 労力に見合わないだろうが、ゾンビ化──バデットにならないためには必要なこと。さらなる苦労をするくらいなら刺すだけの作業を受け入れるとしよう。


「モニス! 背中に乗せてくれ!」


 巨人の女を異性とは思えない。いや、ラダリオンのことはちゃんと女の子として扱ってますよ。ただ、恋愛対象には見えないってことですからね。


「わたしを馬扱いするな」


「仕方がないだろう! モニスたちに指示するには耳元にいないとダメなんだから!」


 プランデットを巨大化するの、かなりエネルギーを消費するんだよ。それに、巨人にも魔力を持つ者と持たない者がいる。モニスは持たない者だったのだ。


「……わかったよ……」


 モニスはオレを異性と見てるのか? そんなこと気にするような性格とは思えないんだけどな?


 ひょいとつかまれ、背負っているリュックサックに放り込まれてしまった。雑に扱わないで!


「ここはコロニー──ゴブリンの巣窟だ。巨人の手首くらい奥に巣を作っている。マチェットを使えば殺せるはずだ」


「ハァー。ゴブリン駆除は面倒だな」


「辞めたいのなら辞めてもいいんだからな。こんなことに付き合う義理はモニスたちにはないんだからよ」


 オレは辞められないが、請負員なら辞められる。ダメ女神の不始末に付き合う必要はないさ。


「そうもいかないのが悲しいところだ。年寄りの意向が強い。わたしだけが嫌だと言っても聞き入れてはもらえない」


「モニスは神を信じないか」


「別に信じないわけじゃない。必要ないだけだ」


 それはオレと気が合うじゃないか。オレも神不要論者だ。


「ハハ。モニスらしいな。そういうの好きだよ」


「……お前はそういうところを直したほうがいいぞ……」


 はん? なにをだよ? なんか二組の夫婦がニヤニヤしているが。


「いや、いい。どこを潰したらいいんだ?」


 そうだな。暗くなる前に片付けなくちゃならん。無駄話している場合じゃないな。


 レーザーポインターを出してゴブリンが潜んでいる巣を指した。


 二組の夫婦に主に巣を潰させ、モニスは穴を埋めることに徹していた。


「モニスはいいのか?」


「わたしはいつでも狩れるが、四人は町に住む。落ち着くまでは金があったほうがいいだろうからな」


 まあ、巨人も狩りをしたことがないヤツもいれば村から出ないヤツもいる。モニスのように単独で狩りなんてできないか。


 交代しながら巣を潰していき、なんとか暗くなる前に終わらせることができた。


「メビ、そっちはどうだ?」


「まだ終わりそうもないよ。マナックは二つになった」


「そっか。ご苦労さんな。あとはオレがやるから少し休んでいろ」


 服を伝って地面に下り、メビができなかった場所のゴブリンから血を吸い取り、遠くに投げた。これでバデットになることもないだろう。


 終わる頃にはすっかり暗くなってしまったが、モニスに運んでもらえば楽チンチン。ロイズたちと合流し、オレが見張りに立つことにして皆に酒を飲ませた。もちろん、自費でな。


 疲れたこともあって深酒になることはなく、すぐ眠りについてしまった。


 何事もなく朝を迎え、朝飯を食い終えたら街道に出た。


「ロイズ。運転は任せる」


 オレは昼まで眠らせてもらうことにした。


 パイオニア四号の後部座席を倒して荷台とし、イヤーマフをして眠りについた。


 いい感じに眠っていたら誰かに揺らされて起こされてしまった。もう昼か?


 起き上がると、黒い外套によくわからない紐をかけた集団がいた。


 ……行商奴隷団だっけか……?


「黒の二団で?」


 どんなヤツだったか忘れてしまったけどさ。


「いや、黒の五団だ」


 複数いるとは読んでいたが、最低でも五団はあるんだ。かなり大がかりな組織のようだ。


「ミヤマラン方面本部長、マイセル・カーギルさんはお元気で?」


 初老の女性で、纏っている空気がヤバかったのをよく覚えているよ。


「……ああ。とても元気だ。あなたに会ったらよろしくと言われている」


「そうですか。それは嬉しいですね。あの人に覚えてもらえていたなんて」


 バケモノのような人だったが、怖いだけで嫌いとは思えない人だった。上司だったら一生ついていっただろうよ。


「なにか?」


 黒の五団の人たちが怪訝そう顔を見せていた。


「いや、なんでもない。悪いが、水を分けて欲しい。礼はする」


「前もこの辺で黒の二団の方々と会いましたが、水が少ないのですか?」


 もうちょっと進んだ場所だったと思うが、ミジアとロックの間だったと思う。


「この辺の水は飲めない。飲むと腹を壊すのだ」


 地質的な問題か? どおりで人が住まない地だと思ったよ。


「わかりました。譲りましょう」


 別に敵対したいわけじゃない。戦闘を回避できるならそれに越したことはない。またマイセルさんのところにお邪魔させてもらうんだからな。

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