第644話 マンダルーガー

 順々にスイッチを押していき、計二十三人の古代エルフを数千年振りに目覚めさせた。


 全員が成人を迎えている見た目だが、オレにはその差異がわからない。何歳か訊いておくのは止めておこう。下手な誤解は身を滅ぼすからな。


「これからの生活のためになにか道具は用意していますか?」


 これだけのものを建造してなんも用意してないってことはないはずだ。目覚めた時代がどんな時代かもわからないんだからな。


「ええ。この下にあります」


 エレルダスさんのプランデットからなにか特別な信号が放たれたのがオレのプランデットが感知した。なんだ?


 ガコン! と、コールドスリープ装置があったところが下降し始めた。


「マーダたちはそこにいろ! こちらは大丈夫だから! マルデガルさんはきてください」


 駆除員たるマルデガルさんには古代エルフに慣れてもらわなくちゃならない。ダメ女神から古代エルフのアナウンスがあるかもしれんからな。


「わかった」


 コールドスリープ装置の台に飛び下りた。


 ゆっくりと降下していき、三十メートルくらいで停止した。


 そこは四方に空間が広がっており、倉庫のような感じだった。


「百年生きられるだけのものは用意しましたが、大きなものを外に運び出せませんね」


 三十メートル級の飛行艇らしきものが二機、ビニールテープのような透明なもので包まれていた。


「通路は使い物になりませんか?」


「ええ。すべての通路が塞がっているようです。主動力炉も完全に停止しています。わたしたちだけでは百年かけても修復するのは不可能でしょう」


 それは残念だ。飛行艇は欲しかったな。これなら二十人は運べるし、荷物もパレット六枚は積めそうだったのにな。


「まあ、それ以外のものは外に持ち出せるみたいですし、大きなものは諦めるとしましょう」


 床は平らだし、フォークリフトは使える。生活用品なら問題なく運び出せるだろうよ。


「まずは手持ちのものを持ち出しましょうか。ちょっと待っててください」


 ホームに入り、重ねたパレットをフォークリフトで運んできた。


「……やはり神の力は凄まじいですね……」


 ホームのことはマルデガルさんに聞いたのかな?


「あなたたちの技術で再現はできないのですか? 仲間のエルフが異空間に物を収納する魔法を使っていましたよ」


「まだそんな大魔法を使える者がいるんですね。まあ、技術的には可能ですが、今のわたしたちでは不可能ですね。技術者は一人もいませんので」


 まあ、古代エルフだからってすべての者が造れるわけじゃない。オレだって車を一から造れと言われても無理だしな。


「だからこそ、女神は許容しているんでしょうね。古代エルフの技術が使えたら数百年で滅びそうだ」


 ここやマイセンズのような世界になったら確実に世界を滅ぼしそうな兵器を生み出すだろう。ダメ女神としてはやっと半分を越えたところなんだ、文明を加速させたくはないだろうよ。


 ……あのダメ女神のことだから、文明が加速したらなんか邪魔しそうな気がするぜ……。


「いきなり今の暮らしに対応はできませんから以前の技術は使いますが、わたしたちは今の文明を加速させることはしません」


 オレも前の世界の技術に頼って生きている。エレルダスさんのことを非難できるわけもない。自分たちが快適に暮らす技術なら好きに使ってくださいだ。


 パレットを並べ、密封された倉庫からコンテナボックスを運び出した。


 なにが入っているかわからないが、パレットに積みやすいから楽でいい。持ってきた十四枚に積み上がった。


「これだけあれば当分の生活は困りませんね?」


「ええ。一年は平気かと思います」


 半分は食糧らしいが、これだけで一年は持つんだ。どんなのかあとで見せてもらおうっと。


「アリサ。あとを頼む。オレは館に出て荷物を出す。あ、メビを忘れずに連れてってくれ。港にいるから」


 まだプレシブスを操縦しているようで、メビのプランデットが港から反応しているよ。


「わかりました」


「エレルダスさん。まずはゆっくり体を慣らしながら地上を目指してください。もし、体調に変化が生じたらこれを飲んでください。女神製なのでどんな病気でも部位欠損でも治してしまいます。遺伝子の障害だって治しますよ」


「……ありがとうございます。遠慮なく使わせていただきます」


 どんな科学技術も神の前では児戯に等しい。自分たちの営みが否定されたと思っても仕方がないだろうよ。それか、神に見捨てられた種族でも思っているんだろうか? エレルダスさんの表情からは察せられないよ。


 コールドスリープ装置の台はそのままで、非常階段を使って昇っていった。


「さて。ホームに入れるとするか」


 フォークリフトに乗り込み、ホームに運び込んだ。


「……またなの……」


 もちろん、ミサロから非難する目を向けられることは承知の上です。ですが、これは古代エルフのお荷物。管理外のものなんですよ。すぐ出すからお許しくださいと、必死に頭を下げました。


 なんとかミサロを静めたらフォークリフトに乗ったまま外に出た。


「エレルダスさん。申し訳ありませんがいただきます」


 古代エルフたちが荷物を持ち出しているとき、ビニールテープに包まれた四人乗り用の地上走行車、マンダルーガーがあったのだ。


 しかも、このマンダルーガー、バリアーを張れたりする機能があり、ルンに魔力を充填させる器機が二つあるのだ。いただかない手はないだろう。


「まずは二台、アルズライズたちのところに運ぶとしよう」


 マンダルーガーに巻かれたビニールテープを剥がし、マナ・セーラを起動させた。


 ────────────────


 いずれ世界を裏から牛耳る組織、女神の眼が生まれたとかなんとか。それは闇の中……。

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