第620話 ロボット

 暗くなる前に嘆きの洞窟がある場所に到着できた。


 まあ、途中、巨人に運んでもらったから暗くなる前に到着できたんだけどな。


「急いで野営の準備をしてしまおう」


 ゴブリン駆除報酬で稼げたお陰で巨人たちの装備がよくなり、マチェットや斧を振るって木々を倒し、三十分もしないでビニールシートをタープにして寝床を築いてしまった。


 ニャーダ族も雑木を払い、手慣れた感じでテントを張ってしまった。


「オレはホームで休ませてもらうが、イチゴは出しておくよ。メビ。お前が指揮してくれ」


「了ー解!」


「マルデガルさんはどうします?」


 ここら辺一帯は溶岩が固まった地であり、生き物がやってくるような場所でもない。プランデットで確認しても魔物の熱源はなかった。マルビジャンの魔力反応はあちらこちらにあるけどな。


 ……魔物もここにマルビジャンがいるって学んだんだろうな……。


「襲ってこないか?」


「イチゴにマナイーターを持たせたので、出てきたら魔力を吸い取ってもらいますよ」


 ゴブリンでないのならオレらがわざわざ倒す必要もない。欲しいのは魔力か魔石だけ。他は必要ともしない。なら、イチゴにさせればいい。自ら動いて自ら魔力を集めてくれるんだからな。


「……まあ、あのロボットなら問題ないな」


 ん? ロボット? ロボットのこと知っているのか?


「ロボットって、光一さんから受け継がれているんですか?」


 概念もないのにどうやって伝えたんだ?


「うちの実家の地下蔵にもイチゴに似たようなロボット仕舞ってあるんだよ。じい様がガキの頃は動いていたみたいだが、今はもう置物になっているよ」


 マジか! 光一さん、アルセラをどこで見つけたんだよ!


 あ、ダーダリン・ロアライグ・ソリュートが正式名。アルセラは通称。ルータ21-4がイチゴの個体番号みたいなものだ。


「なにか欠損してたりするんですか?」


「いや、どこか壊れた様子はなかったな? じい様も気がついたら動かなくなったと言ってたし」


 それ、マナ切れ。マナックは調達できなかったってことか?


「これが終わったらマルデガルさんの実家に連れてってください。マナックを入れたら動くかもしれません!」


「そ、そうなのか? まあ、わかった。連れていくよ」


「お願いします。動くならマルデガルさんの助けとなりますし、物扱いなのでセフティーホームに入れられますんで」


 チートなマルデガルさんでもイチゴのようなサポートキャラはいたほうがいい。チートはチートでも死なないほどのチートではないのだからな。


「じゃあ、おれはセフティーホームで休ませてもらうよ。その代わり、マルビジャンのときは働かせてもらうからよ」


「ええ、お願いします」


 まあ、そう大層な仕事でもないだろうけどな。


「マーダ。ここの指揮はお前に任せる。巨人と仲良くしておけよ」


 まだ決断できないでいるが、町を造るには巨人の協力は不可欠。そうじゃなくても巨人はなにかと役に立つ種族だ。味方にしておいて損はない。苦労はあるけどな!


「……わかった」


 強さだけでトップにつくってのも大変だ。同族なら黙っておれについてこい! も通じるだろうが、他の種族や自分より上の者が入るとそれが通じなくなる。コミニュケーション能力がないと苦労するしかない。


 ってまあ、オレもそこまでコミニュケーション能力が高いってわけじゃないがな。エサで釣ったり利を与えたりしてるしよ。


 ホームに入り、中央ルームにいくとシエイラが帰っていた。


「お帰り。領主代理に帰らせてもらえなかったか?」


 座椅子に座ってチューハイを飲んでいた。相当疲れているようだ。


「タカトがあの方をバケモノと言うのもわかるわ。仕事を片付ける早さが尋常じゃなかったわ。五人くらいいる勢いだったわよ」


「それについていけるシエイラも大概だがな」


 並みの実力者ではあの人についていくことはできんだろうよ。


「大概なのはタカトでしょう。なんであの方を手玉に取れるか意味がわからない。頭、どうなっているのよ?」


「あの人は野心って言うか、望みみたいなものを隠し持っている。それがなにかはわからんが、目的を叶えるためにはコラウスの掌握が必要だってのはわかる。今までは不可能だったが、オレが現れたことで道筋ができたんだろう。なら、利用されてやればいい。面倒なことは領主代理がやってくれるんだからな」


 オレはそれを利用してオレたちの生存圏を築かしてもらうまで。領主代理様、お体にお気をつけてがんばってくださいませ!


「……よく自分を利用しろとか言えるわよね……」


「その先にオレの欲しいものがあるんだ、手に入れられるなら誰かの下につくことも、利用されることも苦ではないさ。大いにオレを使ってください、だ」


 それは領主代理も理解している。それでも欲しいものがあるからオレの思惑に乗っているにすぎない。


「あ、ニャーダ族がいた場所に巨人族との共用の町を築くかもしれない。まだ先のことかもしれないが、頭の中には入れておいてくれ」


「そんなところに町を? なぜに?」


「巨人の数を増やすためであり、コラウスに手を出されないための布石さ」


 かなり長期的な計画だが、老衰で死ぬと決めたからには老衰まで生きられる環境を築かなければならない。そのためにも攻め込まれない社会を創る必要があるのだ。


「ハァー。まあ、街の巨人も増えすぎたってことだしね、ちょうどいいんじゃない。でも、食糧が足らなくなるんじゃないの?」


「そのために海まで通じる道を築くのさ。食糧以前に塩の確保だ。水と塩、麦があれば早々に滅びることはない」


 アルート川は海まで続いている。なら、アルート川沿いもオレたちの生存圏として含めさせてもらいます。


「うん。タカトは普通の皮を被ったバケモノだわ」


 失礼な。オレは至って普通ですぅ!

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