第609話 セフティーホーム(光一バージョン)

「ど、どう言うことだ? 今の声は女神なのか?」


 さすがのマルデガルさん困惑しているようだ。オレも同じではあるが、自分のことじゃないのでまだ受け入れられるよ。


「セフティーホームの情報は頭に入っていますか?」


「え? あ、ああ、入っている──」


 と、マルデガルさんが消えてしまった。出入りの感度がいいから思っただけで入っちゃうんだよな。


 ダメ女神が別チームと言ったからにはマルデガルさんのホームにオレが入れることはないだろう。


 アードベックアンオーをロックにして飲んで待っていると、十分くらいで出てきた。


「どうでした?」


「……どう、説明していいか……」


 まあ、この世界で長いこと生きてきた人。光一さんが使用していたってなら元の世界の仕様のはず。ダメ女神のことだから詳しくは説明してないだろうよ。


「これはデジカメと言って見たものを絵にする道具です。絵にしたいものに向けて、ここを押してください」


 オレが入れないのならデジカメで写してきてもらいましょう。


 使い方を教え、光一さんが使用していたセフティーホームを写してきてもらった。


「結構充実したセフティーホームですね」


 中央ルームは八畳くらいあり、コンロ二つの流し台とオレんとこのホームと同じユニットバスと上下に分かれた押し入れがあった。


 一千万円の準備金で揃えただろう冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、テレビ(ブルーレイつき)、棚が配置してある。


 押し入れの中には服や下着、段ボールが入っていたが、山崎さんと同じように準備金だけで過ごすのは大変だったのだろう、消耗品類は見て取れなかった。


「……タブレットはないか……」


 てことは、オレだけに与えられた特典のようだ。


 ダメ女神の言葉から他にもタブレットを使えたヤツがいたみたいだが、光一さんには与えられなかったみたいだな。その人の望みや能力によって与える特典が違うようだな。


「セフティーホームは拡張はできないタイプか」


 山崎さんのように好きなように拡張できるボックスもない。オレ、ホームに関してはかなり優遇されている?


「仲間を増やせることはできますか?」


「できるのか?」


「わからないってことはできないみたいですね。タブレットもないからゴブリンを駆除しても報酬は得られないし」


 ゴブリンを駆除したら経験値となるってことか。オレなら早々に挫折している特典(不遇)だな……。


「これなら請負員のままのほうがよかったかもしれませんね」


 請負員カードを見せてもらおうとしたら出せず、マルデガルさんの気配がわからなくなっていた。


「まあ、寝泊まりできることがあるのは助かるよ。おれ、野営とか嫌いだったから」


 よくそれで魔境にいったな。もしかしてこの人、冒険者に不向きなのでは?


「マルデガルさんは、仲間を作らないんですか?」


 金印なら仲間にしてくれって言ってくる者は多いと思うんだが? 


「おれについてこれるヤツはいないからな、同等の力がないと足手まといになるだけだ。アルズライズも一人で行動していただろう?」


 言われてみれば確かに。


「ミシニーも実力がありすぎるから仲間がついていけない。なのに、あいつは寂しがり屋だからな。死滅の魔女と言われても人とつるもうとしているんだよ」


 自由人なのかと思ったら寂しがり屋でもあったんだな。


「あの二人がお前に懐くのもわかるよ。自分にないものをお前が満たしてくれるんだからな」


 その言葉になんと返していいかわからない。オレにない実力を持った二人だから……。


「しかし、買い物ができなくなるのは辛いな。ゴブリンをいくら倒しても酒が買えんとは……」


「それならオレが売りますよ。マルデガルさんなら大型魔物でも狩れるでしょうし、その魔石を買いますよ。それで、セフティーブレットの本部で買ってください。酒は充実してますんで」


 館に売店を設置してある。食料メインに置いているが、酒はラザニア村の者や商人が買いにきているそうだ。


「日本酒、買いますか?」


「もちろんだ。金貨一枚分売ってくれ」


 かなりの量になるが、一升くらい余裕で飲んじゃう人。十五日以内に飲み干してしまうだろうよ。


 日本酒はそんなにストックしてないのでホームに入り、金貨一枚分を買ってきた。


 それをセフティーホームに運び込み、冷蔵庫やコンロの使い方を教えた。


 すっかり飲みキャンプは終わってしまったが、オレ以外に駆除員ができたことは喜ばしいことだ。ゴブリン以外の問題をマルデガルさんにも任せられるんだからな。問題が倍に増えたら毎日ダメ女神を呪ってやるがな!


「おれは、セフティーホームで寝るよ。使い方も確認したいしな」


「セフティーホーム内だと時間がわからないので気をつけてください。誰も呼びにはいけないんで」


 時計を渡したいところだが、すぐに見方なんて覚えられないんだからマルデガルさんに注意してもらうしかない。


「ああ、わかった。使い方を確認したらすぐ寝るようにするよ。置いていかれても困るからな」


「じゃあ、お休みなさい」


「ああ、お休み──」


 マルデガルさんがセフティーホームに入ってたら、オレらも休む準備に取りかかった。

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