第597話 シリル族

 金が動けば人も動く。


 なんてそれっぽいことを言ってみたが、商売の素人でも物価が上がりそうだとわかるくらい物が貧民区に流れていた。


 すべてをカインゼルさんに任せ、オレとアルズライズは護衛みたいな感じでついて回った。


 兵士長だっただけに人を指揮するのが上手い。貧民区で読み書きできる者を集め、兵団に入りたい者の名簿を作り始めた。


 カインゼルさんの配下となる男たちが身綺麗になってやってきたので、請負員カードを発行。名前を告げさせて請負員とした。


 さすがに請負員が増えると気配が染められたような感じで個々が判別できなくなっているよ。


 まあ、ここまできたら判別もなにもない。カインゼルさんの配下となるんだから無視したらいっか。


「タカト。装備を頼む」


「わかりました」


 集まった男たちは二十三人。あまり食べられてないから細身ではあるが、身長はオレと同じくらい。Lサイズで問題ないだろう。


 足のサイズも二十六から二十八センチ。まあ、オレの予備を着させてからサイズに合ったものを買えばいいな。


 とりあえず予備をすべて持ってきて男たちに着させ、それぞれのサイズをメモして買い足していった。


 なんやかんやで夜までかかってしまったが、サイズにあったものを渡すことができた。


 最後に、リュックサックを支給し、それに全財産を入れるよう伝えて解散。また明日とした。


「アルズライズ。どこか宿を取るか? それとも館に戻るか? マンダリンならすぐ出せるぞ」


 ビシャと同じで車は運転できないが、なぜかマンダリンは操縦できる不思議。どんな理屈なんだろうな?


「宿を取る。馴染みの宿が近くにあるんでな。挨拶がてら泊まるよ」


「金はあるか? 銀貨ならあるぞ」


 一応、ホームに入ったときに補充してきた。銀貨十枚ならあるぞ。


「宿代くらい持っているから大丈夫だ」


 なんか呆れられた感じで去っていった。なんや?


「カインゼルさんはどうします?」


「わしは、ここに泊まる。パイオニア五号を出してくれ」


 と言うのでパイオニア五号を出し、オレはホームで休むことにした。


 夕飯は終わっていたのでオレ一人で晩酌しながらいただくことに。あービールが美味い。


「なにか大量に買っていたけど、どうしたの?」


 シエイラが晩酌に付き合ってくれ、マルティル一家のことや兵団のことを語った。


「完全にコラウスを乗っ取りにかかっているわね」


 見方によればそう見られても仕方がないが、オレの理想は歯車として生きること。自ら動かす頭にはなりたくないわ。


「ホームの金は完全に尽きた。資金調達しないとならんな~」


「ギルドとしてのお金ならあるわよ」


「それはギルドの金だ。ギルドのために使ってくれ」


 今やっていることもギルドのためと言えるが、ギルドとは別の金のほうが動きやすく後腐れなくていい。まあ、帳簿とかつけるの面倒なだけなんだけどな。


「雷牙。明日、ビシャと貧民区にきてくれるか? お願いしたいことがあるんだ」


 同じテーブルでビーフジャーキーをしゃぶる雷牙。完全に犬だな。


「メビはいいの?」


「まあ、一緒でも構わないよ」


「わかった。ビシャとメビに言っておく」


 頼むよと答え、次はウイスキー、アードベックアンオーをロックで飲むとする。


「ミリエル。あの双子はどうだ?」


 一杯飲んだらなにか書いているミリエルに尋ねた。


「物覚えがいいので読み書きを覚えさせています」


「あの二人って、病気で小さいままなのか?」


 ミリエルなら回復薬は飲ませたはず。病気なら成長するはずだが。


「メーとルーは病気ではなく、シリル族の血が濃いんだと思います」


 シリル族? なんや、それ?


「小妖精とも呼ばれる種族で、大人になっても十三歳くらいにしか見えない種族なんです。昔は、愛玩用として捕まえられて数を減らしたと言われています」


 なんか元の世界にそんな妖精いたな? なんだっけ?


「それはまた難儀な種族だな。よく生きていたものだ」


 子供に擬態(?)して生きるのにも限界があるだろうし、徴税で生きるしかなかったのも理解できるよ。


「シリル族なら魔法が使えるので、充分セフティーブレットの戦力となりますよ。魔力はそれなりにありましたから」


「魔法か。オレも練習しなくちゃな」


 銃も剣も魔法も中途半端。修業する時間が欲しいものだ。


「タカト。この耕運機、どうかしら?」


 と、ミサロがカタログをオレの前に出してきた。タブレットでカタログなんて買えたんだ。てか、カタログっていくらだよ?


「クボタか」


 名前は聞いたことあるが、耕運機とは縁がないからどんな会社なのかわからんな。でもまあ、除雪機とそう変わりはない。説明書を軽く読めば問題なく扱えるだろうよ。


「十五万円か。耕運機って結構するんだな」


 まあ、除雪機はもっとしたから安いほうだろう。


「いいんじゃないか。もう買うのか?」


「ええ。早く使いたいから。いいでしょう?」


「別に構わないが、まだ館に帰ってこれないぞ」


「じゃあ、今からお願い」


「え? 今から? もう外は暗いぞ」


 もう酒だって飲んじゃったし。


「灯りがあるんだから大丈夫よ」


 グラスを取り上げられ、タブレットを持って玄関に引っ張られていかれてしまった。

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