第587話 モニス・グレーテル

 巨人がリハルの町にくるのは珍しいことじゃないようで、狩人の巨人が現れても騒ぐ者はいなかった。


 ただまあ、巨人が入ってこれる造りとはなっていないので、町の兵士(コラウス辺境伯が雇っている兵士じゃなく町が雇っている兵士なんだってさ)が出てきて対応していた。


 狩人巨人は昨日の乙事主を解体した肉を売りにきたみたいだ。


 あ! そう言えば、巨人の村ってもう一つあったっけ! なんだっけ、名前? なんか駆除員が関わってそうな美味しそうな名前だったのは記憶しているんだが……。


 狩人巨人と兵士のやり取りを眺めていたら、年配の兵士がやってきた。


「あんたがゴブリン殺しかい?」


「そう名乗ったことはないですが、世間からはそう認識されているみたいですね」


 ほんと、もうちょっとカッコいいあだ名にして欲しいものだ。


「そのゴブリン殺しになにかご用で?」


「モニスが話をしたいそうだ」


「モニス?」


「あの巨人だよ。モニス・グレーテル。よくリハルの町に肉を売りにくるんだ」


 姓がある巨人なんだ。村の有力者家系か?


「巨人は町に入れないんでな、きてもらえるか?」


 巨人とは仲良くやっていきたいからな。無下にもできんだろう。わかりましたと、モニスさんのところに向かった。


「オレになにか用かい?」


 そう言えば、近所にあったラーメン屋でなんか妖かいって古い漫画読んだな。飲み終わるまで何度も通ったっけ。


「ああ。巨人用の布を売っているって本当か?」


「正式に商売しているわけじゃないが、頼まれたら売っているよ。欲しいならラザニア村にいくといい。今も街の巨人が買いにきているよ」


「すぐには手に入らないか?」


「ないこともないが、モニスさんの努力次第だな。やるって言うなら協力するよ」

 

 巨人になれる指輪もラダリオンの腕輪もフル活動していることだろう。こちらに回ってくるのは難しいだろうよ。


「なにをするんだ?」


「ゴブリン駆除だよ。オレらはそれで食っているんだからな。ゴブリン駆除請負員となるなら布も武器も買えるようになるぞ」


「……なにか決まりとかあるのか?」


「これと言ってない。強いて言うなら一年間ゴブリンを駆除しなければ請負員じゃなくなるくらいだな。やるもやらないもモニスさん次第だ」


 巨人はあまり遠出をしない。食料調達が難しいってことでな。


「わかった。やる」


 ってことで請負員カードを発行。モニスさんに渡すと巨人サイズとなった。まったく、無駄に高性能だよな。ダメ女神はポンコツなのによ。


「すまないが、オレを抱えてくれ。ゴブリンがいるところを教えるんで」


 モニスさんは巨人の中でも高身長だ。巨人になったオレより高かったから九メートルはあると思う。


 ラダリオンよりニメートルは高いから抱えられても苦ではないはずだ。オレはもう抱えられても恥ずかしくなくなったがな。


「……わかった」


「悪いな。今日は巨人になれる魔法が使えないんだよ。稼がせてやるから我慢してくれ」


 男を抱えるのに抵抗はあるだろうが、巨人の足に勝てないし、踏み潰されたら笑い話にもならん。嫌でも我慢してくれ、だ。


 差し出された手のひらに座り、ゆっくり立ち上がった。


 五、六メートル高さは眺めがいい。ただ、モニスさんは巨乳なのか、歩く度に後頭部に当たってしまう。柔らかいけど首の骨が折れそうだよ。


 ……ラダリオンの小さな胸が懐かしいよ……。


「まずあっちに向かってくれ」


 稼いだらまっさきに時計を買わせて時刻を教えないとな。


 左右はあるのでいくぶん楽だが、目隠しのヤツを導いているようで面倒臭いよ、ほんと。


「約四十歩先にゴブリンが二匹隠れている。こちらに気づいている。わかるか?」


「ああ。いるね」


「目がいいのか?」


 顔を見ると、ゴブリンの姿を捉えているような目つきだった。


「まーね。タカトはなんでわかるんだ?」


「オレは、ゴブリンの気配だけはわかるんだよ。この周辺に三十匹はいる。すべてを狩るのは無理だが、十匹も狩れば三人分の服を作れるくらいの布は買えるはずだ」


 適当だけど。


「やれるか?」


「余裕だ──」


 と、ノーモーションで槍を投げ、草むらに隠れていた二匹を殺してしまった。え? どうやったの!?


 意味がわからない。横に並んでいたゴブリンをなんで槍で殺せたんだよ? 報酬の入り方からして同時だったぞ!


「右に十歩のところ、木の陰に隠れている」


 槍を抜いたところで教えると、巨乳とは──じゃなくて巨人とは思えない速さで動き、槍を突き刺した。


「タカト。背に回れ。片手だと動き難い」


 いや、ラダリオン以上のスピードで動いていたよ!


 背中に回され、フードの中に入った。


 ……魔法少女のマスコットキャラになった気分だよ……。


「次は?」


「右に十五歩。草むらに三匹隠れている」


「見えた──」


 見えるんだ。もう透視能力の域だよ。


 体重はトンだろうに、まったく重さを感じさせない動きで草むらに隠れていたゴブリンを一閃。瞬殺であった。


「斜め左、三十歩のところに四匹」


 動きが速くてしっかりつかまってないと振り落とされそうだ。必死につかまりながらゴブリンの位置を教えていった。

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