サムライダンジョン!
どくどく
第一幕 サムライガールは斬り進む!
序:サムライガールは過疎配信者
「敵か。では参ろうか」
黒髪を短く切ったショートカット。青を基調とした和服。腰には黒い鞘に入った日本刀。『サムライ』を全身で表したかのような姿だ。古風な喋り方で分かりにくいが、年齢は高校生である。
アトリの襟にはスマートフォンを入れるポケットがあり、そのカメラがリアルタイムでダンジョン内の状況を撮影している。そのカメラが写すのは、ダンジョン内に存在するモンスターと呼ばれる存在だ。
3mを超す巨大な人型のモンスター、オーガ。太い腕はそれだけで人間など軽々と殴り倒すだろう。本来ならダンジョン探索者が数名で挑む相手である。
「ガアアアアアアアアア!」
声を上げ、腕を振り上げるオーガ。真正面から自分より小さな人間が歩いてくるのだ。あんな細い体など腕で殴ればすぐ吹き飛ばせる。動かなくなった所を踏みつけ、そして食べる。何なら骨は首飾りにしてもいい。
「ぬるいな」
しかしアトリはその攻撃を予測していたかのように避ける。半歩身を逸らし、最低限の動きで回避した。すぐ近くを自分の胴ほどの腕が通り過ぎ、風圧が着物を揺らす。
「斬る」
言葉にした瞬間には鞘走り、アトリは抜刀のままに通り過ぎるオーガの腕を切り裂いていた。更に返す刀でもう一閃。横なぎに払った刀はオーガの喉笛を割いた。血は流れない。魔物は生物と、理が異なる証明だ。
「ガ……アアアアアアア!」
オーガは腕と喉を斬られた痛みで怒り狂い、足を振りあげた。蹴り飛ばし、そのまま踏みつける。骨も肉もつぶれるが知ったことか。怒りで冷静さを失ったオーガは、
「終いだ。その命脈、確かに絶った」
アトリが納刀したと同時に、足と腹部を切り裂かれて地面に倒れた。喉を斬った流れで腹と足を斬り、そのまま刀を納めたのだ。斬られたことにすら気づかずバランスを崩し、オーガはそのまま絶命した。
オーガがいた場所には、魔物を形成していた魔石がある。オーガという魔物の核となっている石。これを地上に持ち帰れば、換金してもらえる。それを拾い上げ、腰の巾着に入れてアトリは呟く。
「その骸、その命、最大限に利用させてもらおう」
アトリの声は配信中のスマホがとらえるが、配信を聞いている人は誰もいない。
アトリの配信チャンネル『
チャンネル設営は約2年前。配信数は多いけど、だれも登録してくれない。数多あるダンジョン配信の底辺配信者。それがアトリだった。
※ ※ ※
ダンジョン。そう呼ばれる存在が世界中に突如現れたのは数十年前。
当時は数多くの混乱が起きたが、それも遠い昔。今ではダンジョン探索者も職業の一つとして認識されていた。
職業。ダンジョンには一獲千金の夢があった。
それまでの地球になかった生物。それまでの地球になかった物質。そして、それまでの地球になかったエネルギー。魔石と呼ばれる未だ解明されていないモンスターの核は、スキルシステムとよばれる法則を人類に与えた。ダンジョン探索は宇宙開発レベルの希望を人類に与えたのだ。
そしてダンジョン探索を配信するダンジョン配信者もその数を増やしていた。理由はひたすら簡単だ。
『閲覧数が増えれば企業に属して収益化! 大儲けだぜ!』
ダンジョン探索は当たり外れがある。運よくレアリティの高い魔石やアイテムを手に入れれば大儲けだが、6割はそうもいかず稼ぎはトントン。4割はマイナスで借金を背負って引退。それも命があっての話だ。
なので動画配信を行うことでリスク管理をしている。儲けがなくとも、動画配信の収益でお金を稼ぐのだ。インフルエンサー配信者はダンジョン探索よりも、見た目を豪華にしたり、ハプニングなどを自作自演して収益を得ているとか。
アトリも姉に倣い動画配信をしていたが……効果はない。収益化など夢のまた夢だった。
「ツグミ姉様のようにはいかぬか。ちゃんねるとは難しいモノよ」
有名ダンジョン配信者だったアトリの姉。それを追いかけようとしているのだが、上手く行かない。
アトリのチャンネルの人気がない理由はいくつかある。
先ずはアトリ自身があまり喋らないからだ。見ている人を沸かせるようなトーク能力はない。セリフも『配信を始めようか』『敵だな』『斬る』『戦闘終了だ』ぐらいだ。
アトリのキャラ自体はそれなりに立っている。古風な侍スタイル。ダンジョン探索者の資格を最低年齢の15歳で獲得し、以降二年間ソロで探索を続けているほどだ。その実力は、上位探索者にも劣らない。
だがその実力も認められない。
『なんだこれ? 合成だなwwwww』
『オーガにタイマンとかwwwwwww ありえねえwwwwww』
『こんなことできるヤツいるわけねぇwwwww』
今の配信のコメントだ。たまたま流れて来た人は、すぐにブラウザバックして戻っていった。アトリの剣技が信じられない。そんなコメントである。
これまでの配信も、コメントは9割9分同じようなものだ。稀に見に来てくれた人たちは、アトリの剣術を合成動画だと決めつけて去っていくのだ。
事実、そう言ったフェイク動画も存在する。自分を良く見せようとしたフェイク配信者がバレて炎上する。そんなことは珍しくもない。アトリもその一人だと思われている。
配信技術がない事。あまりに常識外れの実力の為にフェイク動画と思われていること。これによりアトリのチャンネルは過疎化していた。
「これではツグミ姉様に追いつくにはどれだけ時間がかかる事やら」
七海
誰もがツグミを過去のモノにする中、アトリだけは認めなかった。姉様は生きている。自分がいつか深層に向かい、姉様を見つけ出す。そして成長した姿を見てもらうんだ。
「剣技もチャンネル登録数も、まだまだ届かぬ。深層に挑むなど夢のまた夢よ」
ため息をつくアトリ。目標となる背中は遠い。それが明確に数字化されているのならなおさらだ。姉のチャンネルは最盛期は登録数600万人を超えていた。200万倍以上の差もあり、追いつくための術もわからない。
アトリは言葉なくダンジョンを歩く。姉がいなくなり、もう三年も経った。空回り、時間だけが流れていく。それでも心折れずに、アトリは歩く。
「打てば響く
そんなアトリの耳に、そんな声が聞こえてきた
「今日は『ダンジョン内で召喚石を使ってみた』だ! 中層に下層のモンスターを召喚して、死ぬほどビビってる間抜けな探索者の姿をお届けだ!」
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