第4話 ジェヴォーダンの獣

――ジェヴォーダンの獣。


 18世紀のフランスで目撃されたオオカミのようなUMAで1764年~1767年にかけて出現し、100人近い犠牲を出したことで知られている。


 人間を狙って襲う凶悪なハンターであり女性や子供を襲う傾向がある。

 攻撃の際は、獲物の顔や喉を狙い、噛みつきの他、鋭い爪を使って攻撃したとされる。顎の力は強力で人間の頭蓋骨を容易に嚙み砕くことができた。

 跳躍力が高く、一度に9メートルの距離をジャンプできたとされている。


――そのジェヴォーダンの獣が、空太の目の前に、いる。


「グルルルル・・・・・・」


 恐ろしい唸り声をあげながら、ジェヴォーダンの獣は距離を縮めてくる。


「おいおい・・・・・・ヤバいんじゃないか? アンノウン?」


『警告。次の攻撃が来ます。避けてください』

「避ける以外の選択肢はないのか!? バスジャックの時みたいに、どうにかしてくれよ!」


『報告。空太様の現在の戦闘能力ではジェヴォーダンの獣を無力化することができません』

「じゃあどうするんだよ! このままだと喰われて終わりだぞ!」

 そんなやり取りをしている内に、ジェヴォーダンの獣は攻撃態勢に入る。

「まずい・・・・・・来るっ!」

「グルルルル!」

 ジェヴォーダンの獣は跳躍し、空太に向けて飛びかかってくる。

――もうだめか。そう思って目を瞑ったその時。


「はあああああっ!」

 誰かが空太とジェヴォーダンの獣の間に割って入り、強烈な回し蹴りをお見舞いした!


「キャン!」


 ジェヴォーダンの獣は教室の隅まで飛ばされると、壁に激突する。

 空太の目の前でポニーテールが揺れる――神宮寺 焔がそこに立っていた。


「まったく・・・・・・物音がしたから駆け付けたのはいいが、なんだ? あのデカい犬は?」

「犬じゃないですよ! ジェヴォーダンの獣! UMAです!」

「ジェヴォーダンの獣だと? 都市伝説でしか聞いたことがないぞ」

 焔は驚いた様子を一切見せていない。むしろ楽しそうだ。顔には余裕の色がうかがえる。

「会長、怖くないんですか?」

「怖い? ただのデカい犬じゃないか、怖がる理由などない」

 さすが一年生にして生徒会長になった女子高生だ、肝が据わってる。


「グルルルル!」


 そんなやり取りをしていると、態勢を立て直したジェヴォーダンの獣は攻撃態勢に入る。しかし狙いは空太ではなく、焔に向けられていた。ジェヴォーダンの獣は女性を襲う。

 ジェヴォーダンの獣は目にもとまらぬ速さで焔との距離を縮めて、鋭い爪を振り下ろした!

「会長! 危ない!」

「私が丸腰で来たと思ったか!」


 キィン!


 焔の手には日本刀が握られていた。ジェヴォーダンの獣の鋭い爪をいなし、距離を取る。


「ふん、コイツを持ってきて正解だったな」

 焔は日本刀を握り直すと、ジェヴォーダンの獣に向かっていく。

「はあああああっ!」

 焔の日本刀は、ジェヴォーダンの獣の右足を切り裂いた!


「アオオオオーン!」

 どうやら効いているらしい。ジェヴォーダンの獣の足からは血が滴り落ちている。

「ふむ、効いてはいる――が急所が分からん」

 焔は冷静に分析しながら戦っている。急所が分かればヤツを倒せるのか?


『報告。神宮寺 焔の介入により勝率が上がりました。勝率は75%です』

「なんだと? でも急所が分からないと・・・・・・」


『報告。ジェヴォーダンの獣の急所を共有致します。急所は首です』

「でかしたぞ! アンノウン!」

 空太は焔に向かって叫ぶ。

「会長! そいつの急所は首です! 首を狙ってください!」

「なに? それは本当か?」

「本当です! 信じてください!」

「分かった、信じよう」

 焔は日本刀を握り目を閉じた。

「へ? 会長? なんで目を閉じて・・・・・・」


「グルルルル!」


 いつの間にかジェヴォーダンの獣は焔の眼前まで迫っていた。

 切られた手とは反対の手を使い焔に襲い掛かる!


「会長、危ない!」


 会長は鋭い爪の餌食に――ならなかった。同じ人間とは思えないくらいの跳躍力で、ジェヴォーダンの獣の真上にいた!

「はあああああ!」

 焔は日本刀を首に狙いを定めて、一気に突き刺した!


「グルル・・・・・・ル」


 ジェヴォーダンの獣は床に倒れた。もう動くことはなかった。


「やった・・・・・・のか?」

「ああ、そいつはもう動かない」

 焔は日本刀を鞘にしまい言った。

「助けてくれてありがとうございます。会長」

「焔」

「え?」

「これから私のことは、会長ではなく焔と呼べ」

「あー、はい、わかりました」

 とにかく、今日は生き延びたようだ。焔のお陰だ。

「さて、もう遅い。帰るぞ」

「あっ、そうですね。帰りましょう」

 そう言って帰ろうとした時。スマホの通知音が鳴った。メッセージが届いたようだ。差出人はもちろんアンノウンだ。


『討伐お疲れ様です。空太様』


『焔のお陰だけどな』


『そんな空太様にやって欲しいことがあります』


『なんだ?』


『ジェヴォーダンの獣にQRコードがついているはずです。そのQRコードを読み取ってください』


『QRコードだと? アプリをダウンロードするわけじゃあるまいし、そんなものついてるのか?』


『はい、あるはずです』


 空太は命絶えたジェヴォーダンの獣をよく見る・・・・・・あった。QRコード。

 空太はQRコード読み取りアプリを起動し、QRコードを読み取る。


『QRコード読み取り完了。ジェヴォーダンの獣をリストに登録いたします』


 アンノウンがそう言うと、ジェヴォーダンの獣が消滅してゆく。スマホの画面を見ると、リストにジェヴォーダンの獣が登録されていた。


「何をぶつぶつやっている・・・・・・む? デカい犬はどうした?」

「あー、なんか、消滅したみたいです。」

「消滅だと?」

 焔は顔を近づけてくる。近くで見ると美人だな。


「まあいい、深くは聞かん。それより――」

 焔は空太の手に握られているスマホを指さして言う。


「その機械はなんだ? 声が聞こえたぞ?」


――ああ、またか。空太はどう説明したらいいものかと頭を悩ませた。





 


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